元中国人・李小牧さんは日本の民主主義に夢を見る。「歌舞伎町案内人」が2度目の選挙に挑む理由

「中国のスパイ」と罵る声もある。それでも選挙に出ることで、メッセージを発し続ける

バレエダンサーとして鍛えた身体はスラリと伸びている。黒々とした髪は58歳という年齢を感じさせない。

かつて「歌舞伎町案内人」として夜の街に生きた李小牧(り・こまき)さんは4年前の落選を糧に、2度目の統一地方選に挑戦する。 

李小牧さん
李小牧さん
Fumiya Takahashi

李さんは、毛沢東ら要人を多数輩出した中国・湖南省で生まれ育った。

幼い頃からバレエダンサーとして頭角を現したが、父親の政治活動が批判対象となり、名門ダンサーへの登竜門「北京舞踏学院」への入団が立ち消えになるなど、共産党政治に翻弄される人生を歩んできた。

地元・湖南省のバレエ団に所属した
地元・湖南省のバレエ団に所属した
李小牧さん提供

当時の最先端のファッションなどを学ぶため、1988年に留学生として来日した李さん。片言の日本語でなんとか見つけたアルバイトが、歌舞伎町にあるラブホテルの清掃だった。ここから歌舞伎町とのつながりが生まれる。

ティッシュ配りのバイトのかたわら、外国人観光客にストリップ劇場などの「夜の店」を案内する仕事も始めた。

李さんが案内するのは、自腹を切ってぼったくりではないことを確認した店。観光客から優良ガイドと認められ「歌舞伎町案内人」の地位を確立した。

日本で安定した生活基盤を築き、胸に湧き上がったのは一党独裁の中国にはない「民主主義」への憧れだった。

「中国では選挙なんてなかったです。やっぱり投票をしたいですし、選挙に出てみたかったんです。歌舞伎町案内人として、風俗の街で働いていた人間が政治家の道を志せるのは何よりも素晴らしいこと。人口14億の『選挙のない国』へメッセージを送ることにもなります」

2015年2月、祖国・中国のパスポートを捨てて日本に帰化。名前も中国語読みの李小牧(リ・シャオム)から李小牧(り・こまき)へ変えた。2ヶ月後の統一地方選、新宿区議会議員選挙(定数38)にチャレンジした。1018票を獲得したが、当選ラインには400票ほど届かず落選した

「とても楽しかったですが...前回はあまり自信がなかった。帰化して2か月でポンポンと選挙に出て、スピーチの練習も準備も足りませんでした」と振り返る。

あれから4年。この春、李さんは再び民主主義のステージに立つ。新宿区議選に2度目の立候補をすることを決めたのだ。

4月3日に開かれた決起集会。支援者の前に立った李さんは選挙にかける思いを語った。

「なんで選挙に出るの?とみなさん同じ質問をなさいます。私は日本人と外国人の架け橋になって、色々な政策を実現したい。歌舞伎町の飲食店従業員(=ホストやキャバクラ嬢たち)や外国人など、少数派の代表になりたいんです」

支援者へ訴えかける李さん
支援者へ訴えかける李さん
Fumiya Takahashi

「歌舞伎町のオモテもウラも知っている」。街の振興策も公約に盛り込んだ。風営法の規制でホストやキャバクラなどは原則、午前0時以降は営業が出来ない。李さんは、歌舞伎町を「ナイトエコノミー特区」に認定して24時間営業を実現したいと考えている。

街からの期待の声も大きい。歌舞伎町にあるカラオケパブの店主・立花たくやさんは、「新宿が安心して楽しめる特区になってほしい。そのためには李さんはとっても良いんじゃないかと思います」と話す。

しかし、街頭やネットで投票を呼びかけるとき、遭遇してきたのが「元中国人」の李さんを警戒する人たちの声だ。「中国のスパイ」「中国に帰れ」などと罵声を浴びせられたり、選挙ポスターを剥がされたりしてきた。

それでも、李さんは平然としている。

「当たり前です。批判も民主主義ですから。数ヶ月前まで、Twitterの攻撃は凄かったですよ(笑)それが今は一件もない。『どんなに攻撃しても李は選挙に出る』って諦めたかもしれません」

「中国へ帰れ」にも平然と対応する
「中国へ帰れ」にも平然と対応する
Fumiya Takahashi

李さんは無所属で立候補し、特定の政党の推薦や支持も受けない。自身の知名度やメディアの露出を生かした「空中戦」に勝機を探っている。

後援会事務所は、早稲田大学のすぐそばに設置した。若者の票を獲得し、組織戦に対抗しようという戦略もある。ただ、それだけではない。「元中国人」が民主主義に参加することが、一つのメッセージになると考えている。

「(街頭演説で)学生たちは私の流暢じゃない日本語を聞いたら、いつも振り向いて名前が書かれたのぼりを見ます。やっぱり選挙に興味があると思う...ないはずがないですよね。こんな元外国人が『選挙は面白い』って訴えていたら効くと思うんです」

民主主義の国に生まれ、18歳になれば自動的に選挙に参加する権利を与えられる。そんな日本の若者が、民主主義のない国からやってきた李さんの眼には、眩しく映るのかもしれない。

李さんの話を聞いていると、こんな本音も漏れた。

「別に私に投票しなくても良いんです、票がないと当選出来ないけど...。政治の基本には何があるのか、若い人たちに伝えたいんです。『あなたたちが関心を持たないとこの国は変わらないよ』って。民主主義のステージを使わないともったいない」

ネットには、元中国人である李さんへの誹謗中傷が今も絶えない。それでも李さんは選挙で戦い続けることでメッセージを発し続けている。

2度目の挑戦は、新宿区民からどう受け止められるのか。統一地方選の新宿区議会議員選挙は4月14日に告示され、21日に投開票される。

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