結婚の平等裁判・東京1次判決のポイントを解説。札幌と大阪は異なる判断、東京はどうなる?

30人を超える性的マイノリティの原告らが、結婚の平等を求めて国を訴えている裁判。11月30日に3件目の判決が言い渡されます
「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告ら=2021年10月11日撮影
「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告ら=2021年10月11日撮影
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

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結婚の平等(法律上の性別が同じ者同士の婚姻)を求め、30人以上のLGBTQ+当事者が国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」裁判は、11月30日に東京地裁で判決が言い渡されます。

この裁判は、全国5つの地裁・高裁で進んでいて、今回の東京1次訴訟の判決は、札幌地裁と大阪地裁に続き3件目になります。

争点となるのは、次の2つについての判断。

1. 結婚の平等が認められていないことは、憲法違反か
2. 国には、この憲法違反の状態を放置していた責任があるか

東京1次訴訟の判決を前に、この争点とこれまでの判決についてまとめました。

📝争点1. 結婚の平等を認めないことは「憲法違反」か

この裁判で、原告が「結婚を認めないのは違憲」という主張の根拠としているのは、「憲法24条1項」と「憲法14条1項」です。

・憲法24条1項:「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」

原告:「憲法24条1項は、すべての人はいつ誰と結婚するかを自由に決められると定めている。それなのに、現在は法律上同性のふたりは結婚が認められていない。これは結婚の自由の侵害だ」

・憲法14条1項:「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

原告:「憲法14条1項は差別を禁止し、すべての国民は法の下に平等だと定めている。それなのに異性と結婚したい人はできて、法律上の性別が同じ相手と結婚したい人はできない。これは性的指向に基づく不当な差別だ」

この原告の主張に対し、国は次のように反論しています。

国:「憲法24条の『両性』は男女を意味する。だから憲法は同性カップルの結婚を想定しておらず、憲法違反ではない」

国:「そもそも、憲法24条が男女間の結婚の自由を定めたもので、同性同士の結婚を想定していない。だから、同性同士が結婚できないのは差別ではなく合理的な区別であり、憲法14条1項の平等原則には反しない」

「両性」をどう捉えるか

両者が異なる解釈をしているのが憲法24条1項の「両性」という言葉です。

国は「『両性』は『男女』を意味する。だから結婚制度の中に同性カップルは含まれていない」と主張しています。

一方、原告は「両性」は「男女に限定する」という意味ではなく「結婚するかしないかを、当事者2人の合意で決められるという意味だ」と反論しています。

憲法24条が作られる前の旧民法では、結婚するには家長である戸主の同意が必要でした。しかし現在の憲法で、当事者2人の合意で決められるようになりました。

原告は「両性の合意のみ」は、本人たちの自由意志で決められるという意味だとしています。

📝争点2. 国には「憲法違反」の状態を放置していた責任があるか

もし、この「憲法24条1項」と「憲法14条1項」のいずれか、もしくは両方で「違憲」と判断された場合、2番目の争点となるのが「国には、憲法違反の状態を放置していた責任があるか」です。

原告の次のように主張しています。

原告:「結婚を認めないことによる人権侵害はずっと前からわかっていた(他国での結婚の平等実現や、国内でのパートナーシップ制度導入、国連の人権機関からの勧告などから)。それなのに国が法整備を怠ったことで望む相手との婚姻を妨げられ、精神的なダメージを被った」

原告は、この精神的なダメージの慰謝料として、1人あたり100万円を請求しています。

これに対し、国は次のように反論しています。

国:「現在の法律は、憲法24条1項にも14条1項にも反していないので、憲法違法の状態を放置していたことにはならない」

ここで重要なのが、原告は100万円を請求をしているものの、この慰謝料が裁判の目的ではないという点です。

原告弁護団によると、「違憲」という判断を導き出すことだけを目的に裁判をするのは難しいため、慰謝料請求という形をとっています。

しかし、あくまで原告がこの裁判で求めているのは「法律の性別が同性同士の結婚を認めていないのは違憲だ」という司法判断。

そのため、争点2の損害賠償請求が認められなくても「実質的勝訴」と捉えているといいます。

札幌と大阪、異なる判断

11月30日の東京地裁判決は、結婚の自由をすべての人に訴訟の3件目の司法判断になります。

そして、過去2件で異なる判断が示されたことからも、今回の判決は注目を集めています。

1件目の判決となった札幌地裁は2021年3月、結婚を認めないことが「憲法14条に違反する」と言い渡しました。

14条違反とした理由は、次の通りです。

札幌地裁:「結婚することで、夫婦関係や親族関係などの身分関係が生まれ、その身分に応じて相続権や税制上の優遇などの様々な法律上の効果が使えるようになる。異性愛者と同性愛者の違いは、性的指向が異なることだけ。人種や性別と同じように自分の意思で選べない性的指向を理由に、異性カップルだけに結婚の重要な権利を認め、同性カップルを一律に排除するということがあってはならない」

その一方で、2022年6月に大阪地裁は「憲法24条1項にも、14条1項にも違反しない」と判断しました。

その中で、大阪地裁は「結婚の目的」について、札幌地裁と異なる判断を示しました。

国は裁判で「結婚は子を産み育てるための制度であるから、同性カップルが認められなくても問題ない」とも主張しています。

これに対し、札幌地裁は「結婚には、子を生み育てるという目的もある」としつつ、「現在の法律は、子どものいる夫婦といない夫婦、生殖能力の有無、子を作る意思で、夫婦の法的地位を区別していない」と指摘

「子を生み育てることは個人の自己決定に委ねられるべき事柄であり、子どもを生まないという選択も尊重すべき。そう考えると、子を生む意志や能力に関わらず、夫婦の共同生活そのものを保護することも、結婚の重要な目的だ」として、結婚から同性カップルだけを排除する理由にはならないと判断しました。

一方、大阪地裁は「結婚は子を産み育てるためのもの」という国の主張を支持

「結婚は、男性と女性が生涯続く安定した関係のもとで、子を生んで育てながら家族として共同生活を送り、次世代に承継していくためのもの。そうであれば、異性間だけに結婚を認めている今の法律は間違ったものではない」という考えを示しました。

さらに、大阪地裁は「同性愛者は望む相手と結婚できないけれど、同性パートナーと共同生活を営む自由は制約されていない。遺言やパートナーシップ制度などで不利益や差別は相当程度解消されているし、結婚に似た別の制度を作って、さらに解消できるかもしれない。同性カップルの結婚に関する議論は国会に委ねよう」とも論じています。

こうした違いはあった一方で、憲法24条については札幌地裁も大阪地裁も、それぞれ「異性婚について定めたものだ」「同性間の婚姻は想定していない」という理由から、違憲ではないと判断しました。

また、憲法14条1項違反とした札幌地裁も、争点2については「同性カップルの婚姻についての議論がされたのは最近なので、国会が長く放置したとまではいえない」として、慰謝料請求は認められませんでした。

世界ではすでに、33の国や地域で結婚の平等が実現しており、G7で国レベルでの同性カップルの法的保護がないのは日本だけです。

さらに、国会で結婚の平等についての議論が進むどころか、同性同士の結婚に反対する宗教右派と与党・自民党の政治家とのつながりも明らかになっています。

原告らは、「人権の砦」である裁判所に、日本でも結婚の平等を1日も早く実現するための判断を示してほしいと望んでいます。

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