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2019年11月26日 11時14分 JST | 更新 2019年11月26日 11時14分 JST

「桜を見る会」、税金を使ったことへの憤りは一体「誰」に向いているのか?

税金の問題はより多額な問題も含めてあらゆるところで起きている。にもかかわらず、なぜこのニュースはコメント欄がヒートアップするのか?

EPA=時事
安倍首相主催の「桜を見る会」(2019年4月13日撮影)

「桜を見る会」関連のニュースが盛り上がっている。ここで私が注意深くウォッチしているのは、コメント欄だ。例えば、日本最大のPV数を誇るニュースサイト、ヤフーニュースを開いてみよう。コメント欄上位に並んでいるのは「税金」が使われていることへの批判だ。

「税金で毎年有権者の接待をしていて許されると思っているのだろうか」

「説明になっていない」

「功労功績で判断されていない」

ヤフーのコメント欄は例えば韓国への「断交」が上位に並ぶような場であり、安倍政権への批判コメントがここまで集まるのは、なかなか珍しい。興味深いのは批判の矛先が「税金を使ったこと」に向いていることだ。

同じパターンで多くのコメントが殺到していたのは、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」に関連するニュースだった。ネトウヨ的なバッシングも目立ったが、それに付随する形で「税金を使わずに私費でやるなら問題ない」という声もそれなりに支持を集めていた。

時事通信社
「表現の不自由展・その後」に展示された彫刻家キム・ソギョン氏、キム・ウンソン氏夫妻の「平和の少女像」

 

税金の問題はこの2つに限ったことではなく、より多額な問題も含めてあらゆるところで起きている。にもかかわらず、なぜこの2つのニュースはコメント欄が同じ論理でヒートアップするのか?

自分より「優遇」されている人へ「憤り」

ここで、ネットに渦巻く、公費を使って「優遇」されている人たちへの「憤り」を分析した研究に注目したい。

インターネット世論を研究する立教大学教授の木村忠正(ネットワーク社会論)が2016年7月と8月に16~70歳の男女1100人を対象に行ったウェブアンケート調査(詳細は『ハイブリッド・エスノグラフィー』新曜社、18年)が重要な事実を指し示す。

調査によると、ヤフーニュースの利用率は木村が調査した全年代平均で72・5%、特に30代後半から40代(木村の分類では36歳〜50歳)の利用率は78・2%と高くなっている。

さらに注目すべきはコメント欄の閲覧率と書き込み率の高さだ。ヤフーニュースについているコメントまで閲覧しているのは、利用者全体の平均57・5%に達する。データは、多くの人々がコメント欄まで読んでいることを示唆している。書き込んでいるのは、全体の約15%にあたる。

前述のように、ヤフーのコメント欄では批判が殺到した週刊ポストの特集でも問題になった「断韓」という言葉はとっくにメジャーになっており、もっと過激な言葉が日常的に飛び交っている。木村は書き込みの強い動機を(1)韓国、中国に対する憤り(2)少数派が優遇されることへの憤り(3)反マスコミといった感情があると指摘する。

憤りは自分たちよりも「配慮」され、「優遇」されている「彼ら」へと向かう。ここまでの流れで言えば、税金を使われ「配慮」され、「優遇」されている「人々」へと向かう。

木村はこうした現象を「非マイノリティポリティクス」というキーワードで論じている。本来、数の上ではマジョリティーなのに、マジョリティーとしての利益を得ていると実感できない人々がコメント欄やSNSを使って声を上げる。これがネット世論をめぐる政治だ。

人々の憤りは、時に「桜を見る会」にも向かえば、リベラルが標榜してきた社会的弱者やマイノリティーの権利擁護にも向かうことにもなる。さらに中韓についても「なぜ自分たちより『彼ら』が優遇されるのか」という怒りの書き込みが殺到することもある。

これはまだ仮説段階だが、ここから浮き彫りになるのは、政治的な左右で憤りが刺激されるのではなく、「優遇」されているか否かが憤りの原動力になっているという構図ではないか。渦巻く憤りは、従来の政治的な左右ではなく、「優遇」されているーーと思われているーー「彼ら」へと向かうのではないか。

かつてはインターネット世論は閉じていた。ネットはネットで完結し、現実は切り離されていると考えていればよかった。しかし、ここまでの高い利用率を見ると、コメント欄を世論そのものとまでは言えないが、社会の一部を確実に映し出しているとは言えるだろう。

ネットで「分断」が深まるイシューの正体

もう一つ私が注目しているのは、大阪大学の辻大介によるインターネットの利用状況と「排外意識」について、実証的に調べ上げた研究だ。調査結果が明確に示したのは、インターネットを利用するほど排外意識が高まると同時に、反排外意識も高まる傾向が見られるというものだった。

辻が強調しているように、これは相関が認められるという話ではなく、明確に因果関係があることを示している。インターネットに接触すればするほど、排外主義的な人々とそれに反対する人々は同時に増えていき、社会は両極化、つまり分断が進むという結果になっている。

辻仮説のポイントは、インターネットによって分極化が進むイシューとそうではないイシューに分かれるのではないかという点にある。あいちトリエンナーレしかり、「桜を見る会」しかり、誰かが「優遇」されているように見える問題は、極めてわかりやすく人々の感情を刺激しやすい。

いまホットな「桜を見る会」問題は、しばらく騒動は続くだろう。思い返せば、森友・加計学園問題で支持率が低下したのも、安倍首相の「友達」を「優遇」しているのではないかという疑義が背景にあった。ある大手メディアの世論調査担当者ーー統計学に精通していたーーは、森友・加計問題のときに「政治でえこひいきが起きることを、有権者は嫌う」と私に語っていた。

出方によっては合わせ技で安倍政権の致命傷になることも十分に想定できる。

問題はその先だ。

現代日本にマグマのように溜まっている「憤り」の根はどこにあるのか。その正体は何か。社会科学もインターネットに携わるメディアもまだ解き明かせていない重要な課題が残っている。