AIと話すだけで「あたまの健康」を手軽にチェック。認知症予防をサポートする新サービス、最大の特徴は?

塩野義製薬とFRONTEOが「あたまの健康」判定Webアプリケーションサービス「トークラボ KIBIT」を共同開発。サービス概要や、認知機能低下の防止に重要な生活習慣などを聞いた。

高齢化が進み、老後のウェルビーイングについて考える機会が増えた現代。

医療の進歩や適度な運動に関する啓発活動などにより、健康寿命は延伸傾向にあるが、「あたまの健康」のために日頃から意識的な行動を実践している人は、比較的少ないのではないだろうか。

そうした中、塩野義製薬とFRONTEOは、AI分析による会話型の「あたまの健康」判定Webアプリケーションサービス「トークラボ KIBIT」を共同開発。2025年10月より日本生命の「ニッセイみらいのかたち 認知症保障保険(認知症サポートプラス)」の付帯サービスとして提供する。

9月上旬、本サービスのローンチ発表会で、サービス概要や認知機能低下の防止に重要な生活習慣などを聞いた。

AIと話すだけで「あたまの健康」をチェック。最大の特徴は?

発表会には豊柴博義さん(FRONTEO 取締役・CSO)
発表会には豊柴博義さん(FRONTEO 取締役・CSO)
塩野義製薬・FRONTEO

発表会には豊柴博義さん(FRONTEO 取締役・CSO)が登壇し、本サービスの内容や特徴について話した。

サービスの使用方法はシンプルで、アプリケーション上での人工知能との対話を通じて脳の健康度を計測するというものだ。ユーザーは表示されたトピックの中から好きなものを選択し、AIからの内容に沿った質問に音声で回答することで、脳の認知機能をセルフチェックできるという。回答が600文字を超えた時点でチャットは終了し、記憶・言語理解・情報処理の働きなどから総合的な指標としてスコアを表示する仕組みだ。また、即時判定で生活に取り入れやすいことも強みだという。

判定結果はA、B、Cの3段階評価で、結果に応じて行動変容のアドバイスを表示する。また過去の結果と比較して、ユーザーの自己肯定感を上げるような「励まし」や「賞賛」の要素を含んだメッセージなども表示する。

サービスの大きな特徴について、豊柴さんは「言語処理AIの多くは連続的発見をベースとしている一方で、トークラボ KIBITでは非連続的発見ができること」と説明。連続的発見とは、例えば文章の中から2つの項目(AとB)の関係性を発見し、その後、異なる2つの項目(BとC)の関係性を発見することで、結果として「AがCに関係しているのではないか」 と、連続した情報からデータ分析を行うというものだ。

一方、トークラボ KIBITは文章に直接書かれていない内容からも、キーワードを拾い上げ、新たな可能性を推察するという。

豊柴さんは「実例を挙げると、あるユーザーの文章から、KIBITが『プリンペラン』(胸焼けや吐き気、食欲不振などを改善する薬)と『まぐまぐ』というキーワードの関連性を予測しました。『まぐまぐ』は山形庄内弁で『吐き気がする』という意味ですが、ユーザーが非連続的発見ができるKIBITは『吐き気』という言葉が文章にないにも関わらず、その意味を自ら調べて、結果として『プリンペラン』との関連性を予測しました。これは従来、専門家や山形庄内弁を知っている人間ではないと実現が難しいことです」と説明した。

また、使用されているAIエンジンが日米欧で特許取得していることや、音声データに対する予測精度の高さ(音声テキスト化の精度63%以上の場合、正確に書き起こした文章との一致率が97%)も特筆すべき点だとアピールした。

三春洋介さん(塩野義製薬 執行役員 DX推進本部 本部長)
三春洋介さん(塩野義製薬 執行役員 DX推進本部 本部長)
塩野義製薬・FRONTEO

本サービスの今後の展望について、三春洋介さん(塩野義製薬 執行役員 DX推進本部 本部長)は「保険加入者の日々の健康チェックの一助として活用してもらえるのでは」とコメント。

さらに「お客様の資産を守る金融機関や運転免許センターなどでも、認知機能は大切な指標になるので、将来的にはさまざまな場面で活躍する余地があると思います。どのようなニーズや要望があるのかクリアに見定めながら、より製品を改良して幅広い方々に届けていきたいです」と語った。

高齢化は進んでいても、認知症患者は予測ほど増えていない?

発表会の後半には、本サービスを監修した三村將さん(慶應義塾大学名誉教授・予防医療センター特任教授)が登壇。「人生100年時代、健康で充実した豊かな毎日をすごすために」というテーマでプレゼンテーションを実施した。

総務省によると、2024年9月時点での日本人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は約3割(29.3%)を占める。

三村さんは「日本社会の高齢化が進む一方で、認知症やMCI(軽度認知障害)の患者数は想定されていたよりも少ない結果になっています」と話し、生活習慣の変容によって「認知予備力」を高めることの重要性を強調。一般的な啓発活動などを通じて認知症を自分ごととして捉え、積極的に予防していくことが大切だと説明した。

続いて、認知機能低下の抑制に重要とされる14の要素について、ギル・リビングストンさん(イギリスの精神科医。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 高齢者精神医学 教授)らの論文を引用し、認知機能低下の抑制に重要とされる14の要素について説明した。

認知機能低下の抑制に重要とされる要素は若年(18歳以下)、中年(18〜65歳)、高齢(65歳以上)の3つのステージごとに分類され、若年では「教育機会の不足」、中年では「難聴、高LDLコレステロール、うつ病、頭部外傷、運動不足、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒」、高齢では「社会的孤立、大気汚染、視力障害」が該当するという。

三村將さん(慶應義塾大学名誉教授・予防医療センター特任教授)
三村將さん(慶應義塾大学名誉教授・予防医療センター特任教授)
塩野義製薬・FRONTEO

三村さんは、これらの要素について「特筆すべきは、全体的に年齢が前倒しになっていることです。高齢者のリスクだったものが中年期や壮年期のリスクとされ、さらに若年期の教育も重要だとされています」と説明。さらに「今日では、最大で45%の認知機能が予防できるとも考えられています」と話し、認知症予防には、早期に策を講じることも効果的だと見解を示した。

最後に、三村さん独自の「認知機能低下予防のための生活習慣」として、8つの項目を共有。特に食事を通じた取り組みについては「どんなものを食べても良いですが、栄養バランスを保って、食べすぎないことが大切です」と強調した。さらに「周りの人たちとつながる」や「前向きな考え方で生きていく」など、メンタルヘルスや内面のウェルビーイングの重要性にも光を当て、「小さな幸せを感じることも認知症予防には欠かせません」と説明した。

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認知症は今後、私たちの生活により身近な存在になっていく。一人ひとりが早い段階から認知症を「自分ごと」として捉え、ヘルスケアサービスなどを活用した健康的な生活習慣を身につけることが、健康寿命の延伸や老後のウェルビーイング向上に欠かせない要素となっていきそうだ。

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