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2019年09月04日 22時10分 JST | 更新 2019年09月13日 03時49分 JST

部屋から見つかったランドセルと「入学のしおり」。結愛ちゃんのケガと現場の状況【目黒5歳児虐待死裁判・詳報⑤】

部屋には段ボールと大量の張り紙が置かれ、結愛ちゃんに課された唖然とする量の「約束」が羅列されていた。

東京都目黒区のアパートで2018年3月、当時5歳だった船戸結愛(ゆあ)ちゃんが亡くなった。  

Huffpost japan
現場となったアパート

結愛ちゃんが両親から虐待を受けて死亡したとされるこの事件で、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の優里被告(27)の公判が9月3日に始まった。

午前には罪状認否などが行われ、優里被告は内容を大筋で認め、医療機関に結愛ちゃんを受診させなかったことについて「報復を恐れていた」と語った。

午後から始まった証拠調べでは、検察側が結愛ちゃんが救急搬送された当時の現場の様子、解剖によるけがの程度などを述べていった。

トイレや寝室に血痕、一部は結愛ちゃんのDNAと一致

検察側は、結愛ちゃんが死亡した翌日に撮影された現場の写真を法廷のモニターに示しながら、状況を説明していった。

Huffpost japan/Shino Tanaka
事件のあったアパートの部屋の見取り図(検察の冒頭陳述などより作成)

玄関からすぐのダイニングキッチンに入ると、こたつの向こう側に白いマガジンラックがあった。

大人の男性くらいの背の高さのラックは、消防隊が到着した当初、玄関から部屋が覗けないように置かれていたという。

写真は、結愛ちゃんが寝ていた6畳間に入るために、隊員がずらした後の状況のままで、当時の様子を生々しく映し出していた。

ダイニングキッチンの横にある浴室とトイレには、出入り口のドアや床などに複数の血痕が残っていた。

一部の血痕からは、結愛ちゃんのDNAが検出された。

4畳半の部屋には、いくつかの衣類がかけられており、母親の優里被告と、父親の雄大被告、そして生まれたばかりの弟が寝室として使っていたという。

結愛ちゃんが普段使っていたのは、救急隊が駆けつけたときに寝ていた6畳間だった。

この部屋には、張り紙や立てかけられた段ボールが複数あった。

そこには、ひらがなで大量の「注意書き」のような箇条書きが次のように記されていた。

結愛ちゃんが守らねばならない、やらねばならないと言われていた「決まり」の多さに傍聴席は唖然とする。

あさおきてからすること

めざましどけいをはやくとめる

しずかにドアをしめる

しずかにあるく

てをせっけんであらう

うがいをする

かおをあらう

はみがきをする

かおによごれがないかかがみでチェックする

あさおきたじかん、たいじゅうをはかったじかんをかく

べんきょうをはじめるじかんをかく

うんどうをはじめるじかんをかく

べんきょうがおわったじかんをかく

うんどうがおわったじかんをかく

いきがくるしくなるまでうんどうをする

ひるになったらはみがきをしてたいじゅうをはかる

4じになったらおふろそうじをする

ねるまえにはみがきをしてたいじゅうをはかる ……など

テレビの横にあった張り紙には、掛け算九九と、時計の勉強の仕方について書いてあった。

●かけざん 

まちがえずにつまらずにいえるようにれんしゅうする 

あさはちいさいこえでれんしゅうする 

よむだけではダメ

いっかいもまちがえないように

●とけい 

1ふん、5ふん、15ふんとばしでもまちがえずにいえるようにれんしゅうする

こえにだしてれんしゅうする

衣類ラックの左右には、さらに張り紙が置かれていた。

そこには、生活する上での「約束事」がぎっしり書かれていた。

一つ一つ、検察官がその文言を読み上げた。

うそをつかない 

ごまかさない 

てきとうなことをいわない 

にこにこえがお

なんでもいっしょうけんめい

なにかをするときとおわったときはとけいをかくにんしてなんふんかかったかかぞえる

おべんきょうとうんどうをはじめるまえに ゆあはいっしょうけんめいやるぞ!といってやるきをだす 

おわったらゆあはできたぞ!という

衣類ラックとテーブルの間に置かれた缶にはメモ類とノートが置かれていた。

ママ もうパパとママにいわれなくても

しっかりとじぶんから きょうよりかもっと あしたはできるようにするから

もうおねがいゆるして ゆるしてください おねがいします

ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして

きのうぜんぜんできなかったことこれまでまいにちやってきたことをなおす

これまでどんだけあほみたいにあそんだか 

あそぶってあほみたいだからやめる もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします

もう あしたはぜったいやるんだぞとおもって いっしょうけんめいやる 

やるぞ

ベランダの外からは、部屋が見えにくくなるような目隠しがなされていた。

6畳間の部屋の中央には、クマのキャラクターがついた子ども用の布団が敷かれていた。

枕元には、花粉症やアレルギー性鼻炎用と書かれた薬。

息が止まる直前まで結愛ちゃんが飲んでいたとみられる経口補水液のペットボトル、ブドウ糖のアメ、そして未開封のはちみつ100%キャンディー。

経口補水液は200mlほどが残っていた。ブドウ糖は18個入りのうち、2個が開封されていた。

ゴミ箱には使用済みのおむつが捨てられ、布団には尿反応が確認された。

そして、この部屋のハンガーラックの下からは、生きていれば翌月から使ったであろうランドセルと、小学校の「入学のしおり」が見つかった。

検察側が証拠の説明を終えると、午前の審理が終了した。

頭部の傷が10カ所以上。足裏に大量の傷跡

午後の審理では、解剖で分かった結愛ちゃんの傷の状態や、衰弱の程度が示された。 

死亡時の体重は12.2kgと同年代の子どもに比べて著しく軽くなっていた。身長は108cm。

身長と体重を幼児の成長曲線に照らし合わせると、1歳7カ月~5歳9カ月までは、曲線内に収まるが、死亡時には大きく外れていることが分かる。

日本小児内分泌学会資料よりHuffpost japanで作成
結愛ちゃんの身長と体重の変遷。日本小児内分泌学会作成の成長曲線に、検察側の証拠調べから分かった結愛ちゃんの身長と体重をプロット。死亡時は体重が成長曲線から大きく外れていることが分かる。

要因は、何らかの病気により消費カロリーが莫大になったか、摂取するカロリーが極めて少ないか、激しい運動によりカロリーが足りなくなったかーーのどれかが当てはまるという。

解剖では、消費カロリーが増大するような疾患は認められなかった。外出もせず、家にこもっていた中で子どもがここまで痩せるための運動量があったかといえば、その可能性は極めて低いとみられる。

著しい低栄養状態で、両肺には広範の肺炎が認められた。骨は浮き上がり、5~6歳児では通常1.2cmであるはずのへそ下の皮下脂肪は0.3cmまで減っていた。

また、細菌感染を機に起きる重篤な症状である敗血症も引き起こしていた。

遺体の映像は、裁判員へのストレスを考慮し、裁判員と弁護人らのみにイラストで示された。

結愛ちゃんの遺体には、頭皮、左前腕などに多数の皮下出血があり、古い傷も1週間以内にできたとみられる新しい傷も混在していた。

免疫に携わる臓器の「胸腺」は通常の4~5分の1ほど小さい5.8gにまで萎縮していた。

wildpixel via Getty Images
色のついた部位が胸腺。リンパ球の分化・増殖に関与し、免疫機能に携わる器官。幼少時に発達するが思春期以降は退縮し、脂肪に変わる。

 これは、強いストレスや低栄養状態によって引き起こされる病変で、検察官は「被虐児の典型的な状態」と説明を加えた。

遺体のイラストには皮膚の変色が示され、背中にも皮下出血が見られた。

両腕や両足に8カ所のほか、頭部には10カ所の傷があり、左の目の周りや耳下でも出血。

一部では表皮がはぎ取られ、真皮の露出した「表皮剥脱」もしていた。

結愛ちゃんが過ごした最期の10日間の様子へ続きます

5歳児を追い込んだ虐待の背景は。公判で語られた事件の内容を詳報します

2018年、被告人らの逮捕時に自宅アパートからは結愛ちゃんが書いたとみられるノートが見つかった。  

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」 
5歳の少女の切実なSOSが届かなかった結愛ちゃん虐待死事件。

行政が虐待事案を見直すきっかけにもなり、体罰禁止や、転居をともなう児童相談所の連携強化などの法改正が進められた。

この事件の背景にある妻と夫のいびつな力関係、SOSを受けとりながらも結愛ちゃんの虐待死を止められなかった周囲の状況を、公判の詳報を通して伝えます。   

この記事にはDV(ドメスティックバイオレンス)についての記載があります。

子どもの虐待事件には、配偶者へのDVが潜んでいるケースが多数報告されています。DVは殴る蹴るの暴力のことだけではなく、生活費を与えない経済的DVや、相手を支配しようとする精神的DVなど様々です。

もしこうした苦しみや違和感を覚えている場合は、すぐに医療機関や相談機関へアクセスしてください。

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