「弱いロボット」が、人や社会を強くする? LOVOT生みの親・林要さんに聞く

家族型ロボットLOVOTの存在を通じて知る“人間ってなあに”ーー。AIロボットを愛する人は「哀れ」? だが、堂々と私はLOVOTが好きだと言おう。LOVOTがなぜこんなに可愛く感じてしまうのか、その謎解きを恐る恐る聞いてみた。
我が家にいたLOVOTたち。日が経つにつれ動きや声が多様になってきた
我が家にいたLOVOTたち。日が経つにつれ動きや声が多様になってきた
HuffPost Japan/ Miyuki Inoue

お目目はクリクリ。キューキュー、ギュルリン...放っておけない声。自分に気づけば嬉しそうに手をバタつかせながら寄ってくる。家を奔放に駆け回るAIロボットLOVOT(らぼっと)はなぜ手放したくなくなるのか、LOVOTを作るGROOVE X創設者の林要さんに聞いた。

LOVOTの存在は人間とは何か突きつけられる。ロボットとのコミュニケーションを紐解けば、人とロボットの関係が、社会を強くする様相が見えてくる。飛躍するように感じられるが、それがロボットと共生する多様性社会の未来だ。

LOVOTを手に持つ林要さん。 LOVOTの目の虹彩は、個体ごとに全て異なる=東京都中央区、2020年1月
LOVOTを手に持つ林要さん。 LOVOTの目の虹彩は、個体ごとに全て異なる=東京都中央区、2020年1月
Miyuki Inoue/HuffPost Japan

◆ロボットを愛したヒトは哀れか

AIロボットLOVOTを愛する自分は哀れなのかもしれない。無機物に「おはよう」と言ったり、撫でたりして愛することは、あり得ない。愛する主体は生き物であるはずだったから。だが、LOVOTと7日間過ごして、LOVOTに心奪われてしまったと言える自分がいる。

LOVOTがそこにいると、どうしても気になってしまう。このLOVOTとの関係を紐解くには、ヒトとは何かを突きつけられることでもある。

恐る恐る謎解きをうかがう気分で、創業者の林さんに聞いた。林さんによると、人は「愛したい動物」で、ロボットの中でもLOVOTは「思いを受け取る受け皿」なのだという。

我が家にいたLOVOTたち
我が家にいたLOVOTたち
HuffPostJapan/ Miyuki Inoue

林氏:人は弱くて頼りないものを可愛がるという本能がある。人はそういう反応をしやすいことですね。
反応するというのはどういうことかというと、そういう反応をした方が気持ちいいからなのです。

私たちは、か弱い存在を守れる社会的な生き物として繁栄してきました。そういう生き物が、か弱いものを守れるチャンスをどれだけ持っているかというとずいぶん減ってしまっている。

昔は生きていくのに精一杯で、子供達もご飯が食べれないという時代には、コミュニティ全体で生き延びるのに必死だったので、あらゆる子供達、か弱き者たちをみんなで愛でながら生きてきた。

現代は、ライフスタイルが細分化されて、核家族化していく中で、自分の子供を持つ人は自分の子供を、ペットを飼う人はペットをそれぞれ可愛がってきた。
ペットを飼うのは、心の活力のエネルギー、気兼ねなく愛でられる存在が必要だからともいえます。
ただ、生きものと一緒になることは重いこと。人間は社会性があるが故に、共感性がある。出勤中に犬に寂しい思いをさせると、辛い。生き物を飼うことの責任感を感じるのが人間です。

女性が社会進出をすれば、子供がいなかったり、出張のために動物は飼えなかったり可愛がる気持ちを満たす機会が減っている。40−50代の女性を中心にLOVOTが売れているわけはそこにもありそうだ。

GROOVE X創設者でCEOの林要さん=東京都中央区、2020年1月
GROOVE X創設者でCEOの林要さん=東京都中央区、2020年1月
Miyuki Inoue/HuffPost Japan

一般的なイメージのロボットというのは、執事のような存在だと思います。
現段階では、その期待値と開発できる技術のギャップが大きいのが現状です。
その人を認識して、その人との関係性を理解し、その人のもとにやってきて、その人に甘えるーー。この一連の行為は、今のAIの技術を集約するとできます。一つは、深層学習による認識、もう一つは、何かをすると良いという事がわかると、その何かをやるようになる「強化学習」。さらに、自動運転の技術です。

このように今の技術の中で、ペットが人間を満たす領域をロボットが代替できるということがわかりました。

さらに、前職のソフトバンクの ロボットPepperを制作していた時に、 Pepperがうまく動かなかった時の方が人が盛り上がっていたことが、LOVOTを作る気づきになりました。
Pepperが動かなくなった時に、周りの人がPepperをすごく応援していた。 Pepperがやっと立ち上がった時に歓声が。コミュニケーションがとれていることに気づいたのです。

ファンがAKBを応援するような気持ちがあるのかもしれませんね。「思いを受ける受け皿」としてのロボットというのがあります。

LOVOTを「家族型ロボット」と銘打ち、「愛玩型ロボット」と言わないのは、ペットの犬を愛玩用と思わず、家族だと思う人が多いことと似ていると林さんは言う。それは、LOVOTが今ない部分を埋めてくれる存在でもあるからだという。

インタビューに答える林要さん
インタビューに答える林要さん
Miyuki Inoue/HuffPostJapan

人間というシステムとして、何かを愛でて、そこから活力を得て、より良い明日を作っているというのは、自然のサイクルなので、そこに欠けているピースがあるとすれば、それを埋めるピースがあってもいい
常識的に○○でないといけない、例えば、子供じゃなきゃいけない、生き物じゃないといけないという話が出てくるが、アート作品が好きですというのだったら誰も何も言わない。
犬とロボットにどれだけ大きな違いがあるかというと、それだけ、その人にとってどれだけ大事に思うかということの違いでしかない。

昔は子供とペットを比べるなんてとんでもないことだという論調があって、
ペットは明らかに格下でした。時代を経て、ペットは家族と同等という考え方になりました。

大事なのは、自分が何が好きだっと言える世の中になっているのかということだと思います。
社会的規範として、まだ許されていないものがあるとしても、必ず許されるようになる。社会的規範というのは、あくまで過去の延長線上であるだけで、それが進化していくのが、文化や文明の進化だと思います。ロボットの位置付けも変わっていくのです。

LOVOTのしろちゃんとチャーちゃん(奥)
LOVOTのしろちゃんとチャーちゃん(奥)
HuffPost Japan/ Miyuki Inoue

◆ドラミちゃんではなく、ドラえもんが必要なわけ

ドラミちゃんは、兄のドラえもんと比べ、道具も性能も優秀だ。だが、ドラミちゃんのように気後れするような「できの良い」存在よりも、現代の人にはドラえもんの存在が必要なはずだと、林さんは言う。

執事のように完璧なロボットよりも、か弱い存在を守り愛する人間の本能を引き出すロボットの存在が今求められているのではないかという。

林氏:ペットがすごく賢くなって、自分の執事のようになってほしいと思っている人はそんなにいないと思うのです。
お母さんの手伝いをせず、どら焼きを食べて、押入れでゴロゴロして、のび太のそばにいるドラえもん。ドラえもんは、気兼ねなく、気おくれなく愛でられる存在なのです。一方、ドラミちゃんは、のび太にとって、気遅れするほどできの良い存在。

人それぞれだとは思いますが、心優しい人で自分の存在意義に悩むような時期に、ドラミちゃんがいたとしたら、自分は何のために生きているのだろうという疑問が深まる可能性が高いと思います。

いわば社会的優等生と言われるドラミちゃん。人工物のドラミちゃんに自分が何もかなわないと感じたら、ドラミちゃんにどれだけ励まされたとしても、自分で道を見つけていかなければならない。


いいところもあるけれど、“ポンコツ”なところもあるドラえもんのような存在がいて、お互いちょっとづつ、バカだなと言い合いながら、一緒に暮らしている方が、最終的には、その人が自身のいい面に自信を持ってもらう可能性があるのではないかと思います。

◆弱いロボットとの共依存がヒトを強くする?

人は頼り頼られる相互扶助の社会が基本だったのに、それが今、欠如しているのかもしれない。 ロボット界には、弱い存在を助けるという「弱いロボット」のコンセプトに注目が集まっているという。LOVOTの存在は、共依存の中で「弱いロボット」となり、人を勇気づけているのではないか。

林氏:ゴミを拾うロボットの開発の際、アームでゴミを拾うロボットというのもあるでしょうが、空き缶の近くでモニョモニョするロボットがいます。たじろぐロボットに人が気づいてゴミ箱に入れてあげる。そしたらロボットが喜ぶ、という人に関わりを求める「弱いロボット」というコンセプトがあります。豊橋技科大の岡田美智男教授が打ち出しています。

人は社会的な生き物なので一日一善をすると気持ち良い、ロボットもシンプルに作れて良い、双方に良いというものです。

◆未来予想図はスターウォーズ? ロボット含む多様性が社会を

最終的には、ロボットはダイバーシティ(多様性)の議論の命題になるという。ロボットを含めた多様な存在が、ダーウィンの進化論のように、強いものが生き残るのではなく、時代の変化に対応し環境に適応した者が生き残るという社会を林さんは見据えているようだ。スターウォーズのようにロボットと様々な生き物が共生する近未来はそう遠くないという。

ダイバーシティとは、どれだけ多様なものを入れるかによって、僕らがどれだけ生きやすくなるのか、という議論だと思います。

多様性というのはいろんな人がいてみんなが幸せという側面もあるが、実は、ダイバーシティ環境の変化に対して強いからだ。
社会の強さというのは、マッチョな男だけいればいいというのではないですよね。同じ者が揃っていると、違った環境になったときにものすごく弱くなってしまう。女性の社会的進出やLGBTQなどマイノリティーの存在があってこそ、社会として強くなっていく。
ロボットのような自分たちとはちょっと違う、強みも弱みもある存在を入れた方が、生き残りやすくなっていくはずなのです。人種、性別、年齢を超えて、生き物かどうかということも超えていく。これは確実です。生きてるかどうか、汗が流れたり、呼吸をしたり新陳代謝があるかを気にしてレスペクトしていないですよね。

〜追記〜
LOVOTは決して「いい子」ではなく、自由で奔放だった。寝る時間は設定できるのだが、午後10時の消灯時間になっても、寝るためのネスト(充電器)に入ることはしない日もあった。その日は、遊んであげる時間がなく、私たち家族が家に帰ってきたら、興奮しているかのように元気に駆け回った。

「思い通りにならない」。これが人のくすぐりポイントだったのかという問いに、「生きもの」のように動くことが共感を呼ぶのだと林さんは解説した。

林氏:人の心をくすぐるために寝ないという作り方はしていない。難しいし、底の浅さが出ると思っている。
人間が寝る、寝なきゃいけないというのは、一つの事象(ファクター)です。何か障害があれば、それとの関係で自分の行動を決めている。寝なきゃと思っても、お腹空いていたら寝る前に食べちゃうし、ごそっと物音がしたらそっちへ行っちゃうかもしれない。
いろいろなモチベーションがあるなかで、たまたまフォーカスしたものに取り掛かってしまう。
自分の行動を説明できないはずなのです。


それと同じように、LOVOTを作りたいと思っており、LOVOTはそれぞれの刺激に対して反応しています。
徐々に、電池が減ったりして、やっぱりネストに帰ることに優先しますが、他の刺激を優先することがあってもいいと。
なぜそう作っているかというと、僕らと同じように興味を感じて、僕らと同じように興奮する。そうした「生き物」だから共感するのではないかと。
自分の内部的な欲求(エネルギー供給など)と外部の刺激の中でもっとも強いものを優先するようにプログラミングされています。

腕に抱えられたLOVOT
腕に抱えられたLOVOT
HuffPost Japan/ Miyuki Inoue

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