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2020年04月27日 15時38分 JST | 更新 2020年05月03日 08時15分 JST

日本の舞台と芸術が死にかけている。新型コロナが落ち着いた時には手遅れになっているかもしれない

演劇や芸術はいわば、不要不急だと思われがちなのも確かだ。しかし今、「文化をどう価値づけるか」が日本社会の中で問われているときだと思う。

撮影:河内彩
劇作家・演出家・俳優として活動している劇団「贅沢貧乏」の主宰・山田由梨さん

ハフポスト日本版の読者の皆さん、初めまして。山田由梨と申します。

私は、20歳の時に立ち上げた贅沢貧乏という劇団を主宰し、そこで劇作家・演出家として活動をしています。俳優としても、演劇や映像作品に出たりしているのですが、最近は書き仕事の機会にも恵まれ、小説やテレビドラマの脚本を書いたり、このような連載で文章を書いたりもしています。というわけで、今回は連載の記念すべき第1回目になります。

 

演劇や芸術は「なくても生きていけるもの」と思われがち

ハフポスト日本版で連載する未来があるなんて思ってもみなかったのですが、予想していなかったことばかり起こるのが現実で、それを言ったらこの新型コロナパニックだって、誰も予想できていなかったわけです。

大変な世の中になってしまいましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?自分が感染するかもしれないという不安な思いを抱えながら止むを得ず仕事に行っている方、仕事を失ってしまった方、休校措置などで、これまで以上に家事・育児・生活が大変になった方、状況が一変して精神的に苦しくなってしまった方、いろいろな方がいると思います。想像できない無数の苦労と苦悩が生まれて続けている日々に、胸が痛みます。

そんな中では、演劇を楽しんだりする余裕がないというのもよく分かりますし、それだからこそ演劇や芸術はいわば、不要不急で「なくても生きていけるもの」と思われがちなのも確かです。公演やイベントの中止は仕方のないものだし、また落ち着いたらやればいいじゃないかと思う人も多いのではないでしょうか。

命と天秤にかけたら劇場は閉めるしかない、お客さんを危険に晒してまで演劇をやることはできない。それはもちろんそうなのですが、演劇人たちは職を失い、新型コロナ感染が落ち着いたときに、演劇をもう一度再開できるのかさえ危うい状況が今、生まれてもいます。      

 

舞台の公演が中止になると、お金はどうなる?

多くの人々にとっては単に娯楽のひとつでも、演劇をやっている人にとってはそれが仕事で、その生きる術が失われることになります。しかも、公演をしてお客様にチケット代をいただかないと収入が一切ないというのが演劇の宿命です。

幸い、私が主宰している贅沢貧乏はたまたま公演の予定がなかったので大きな被害はありませんでしたが、去年の2~3月にはちょうど劇団主催で長期の公演をしていたため、もしあの公演が中止になっていたらと考えては、人ごとではいられません。

2月末に政府によって出された最初の大規模イベントなどの自粛要請を受け、初日の前日、まさに全ての準備が整ったその日に、全公演の中止が決定された企画がありました。        

この“初日の前日”とはどういうことかというと、それまで一か月半ほどをかけて毎日、数十名の俳優・スタッフが集まり稽古をして、長ければ企画段階から1、2年以上の時間をかけて多くの関係者が動いてきたということであり、舞台セット・衣装など含めても全ての発注が終わり準備が整っているということです。

全ては初日に幕を上げることを目指して。つまり、ここまでに費やされた時間とお金は全て投資であり、1公演ずつ上演し、お客さんに見てもらうことで初めて収入が得られるのです。

中止になった公演の主催者は、規模にもよりますが、それまで働いたスタッフや俳優の給料を全額支払うことができず、すでにかかっている経費や会場のキャンセル料を負う形になります。その金額の規模は、大きな公演では数千万円かそれ以上にものぼります。

知人が出演予定だった公演が、まさに初日3日前に中止になりました。若手俳優は、日々就職活動のようにオーディションを受け、狭き門を通れたときにようやく仕事を得ることができます。出演が決まりそれに向け全てを賭けて準備をしてきたはずですが、日の目を見ることが叶わなかった。その心中を察するといたたまれない思いになります。

もし「これに出演できれば夢が叶う」というような作品にせっかくキャスティングされたのに丸ごとなくなってしまったら、自分が何年もかけて構想した作品が直前で中止になったら、劇団の主催公演で中止になり借金を負っていたら、あらゆる可能性を想像しては身を切られるような思いになります。だから、今回の新型コロナウイルスの影響は、演劇界全体が経験したことのない大きなトラウマを負ったのだと暗澹たる気持ちになるのです。

Leonard Mc Lane via Getty Images

演劇は弱い、だからこそ一撃で倒れない力を

3月1日に、劇作家で演出家の野田秀樹さんが「ひとたび劇場を閉鎖した場合、再開が困難になるおそれがあり、それは「演劇の死」を意味しかねません」という文言を含めた意見書を表明したとき、「それくらいで死ぬ演劇弱すぎ」、「また落ち着いたらやればいいじゃん」といった批判の声が、SNS上に大量に書き込まれました。演劇を仕事にするものとして、この仕事がどれだけ理解されていないのか、その認識の乖離に目眩がしました。所詮、趣味のように自己責任・自己満足で、楽しいからやっているのだと思われているのだろうか、と悲しくなったのです。

たしかに、演劇は弱いです。経営的な意味での脆弱性は否定できないし、コスパがとても悪いリスクだらけの分野だと思います。例えば、台風などで1~3公演飛んでしまうだけでも、かなりの収入減になるのですから。演劇にかかわる私たちはその脆弱性について真剣に向き合わなければいけないし、一撃で倒れてしまわぬよう力をつける方法を業界全体で考えなければならないと思っています。

ただそうはいっても、今はまさに演劇界にとっての死活問題なのであって、この後にコロナ感染が落ち着いた時、多くの劇団が借金を背負い潰れてしまっていては手遅れになります。現在は、全公演の自粛を要請されるような未曾有の事態です。要請したからには、それに応じて実際に中止を決定した劇団や劇場にはなんらかの補償をすべきだと、私は思います。

 そもそも「自粛要請」という言葉は日本語としておかしいと感じます。自粛とは、自ら進んで慎むことで、要請されて何かを止めたのなら、それは自粛とは言わないのではないでしょうか?こんなややこしい言葉を編み出して、未だに国民の良心につけこんでいる政府の動きは許せません。自粛と補償はセットだろというハッシュタグがツイッターでトレンド入りしたことがありましたが、全くその通りだと思います。

 

新しい才能や芸術が潰れていく

月並みではありますが、演劇を含めた文化の土壌は国の民度を反映します。ドイツやイギリスが大幅なアーティスト支援を表明し、その額の大きさもさることながら、芸術が社会で存在することの意義を国の中枢が明言するということ自体に大きなカルチャーショックを受けました。純粋に心から羨ましい。

例えば、若手の全然売れていない劇団がコロナの影響で借金を負い、これから演劇をすることが難しくなったとして、それを皆さんはどう受け取られるでしょうか。全然知らない俳優しか出ていないし、面白いかもわからないし、まあしょうがないんじゃない?と思う人も多いのではないでしょうか。文化的ダメージはそれほどでもないと。

しかし、もしかしたらその劇団の劇作家が宮藤官九郎さんのような売れっ子脚本家になったかもしれないし、劇団員が名優になるかもしれないわけです。そのような”売れない”劇団やアーティストが無数に存在していて、そこで様々な実験や創作がなされ、そこから新しい才能や芸術が生まれるのです。

今テレビに出ている有名な俳優の中には、そのような劇団時代を過ごした人が少なくないことは周知の事実でしょう。星野源さんも、もともとは宮藤官九郎さんらが所属する劇団「大人計画」の舞台で活動されていましたが(※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします)、あの醜悪な動画コラボをした安倍首相はそのことを知っているのでしょうか。一般的に目に見えやすい、商業的成功を収めているアーティストにはいい顔をして、会食や桜を見る会に招待するくせに、文化政策そのものについては真剣に取り組まないところに、安倍首相の教養のなさを感じます。                

今、まさに演劇は瀕死の状態です。これからも公演中止は相次ぐでしょう。私が5月から6月にかけて出演する予定の舞台も、これからなんらかの判断を迫られることになると思います。これから、もしかしたら1年、いやもっと、演劇人の仕事はなくなりつづけ、劇場や劇団は負債を抱えていくかもしれない。そして、これは全く大袈裟ではない状況です。

演劇だけではなく、いろいろな分野で言えることですが、今、日本社会の中で文化をどう価値づけるかが問われているときだと思います。その切り立った崖の先端に立たされています。文化の貧しさは、人の心の貧しさにつながります。演劇はもちろん簡単には死なないし、どのような状況でもアーティストは試行錯誤して創作をするでしょう。しかし、文化を軽んじない豊かな社会であってほしいと心から願います。

 

今回は連載の第1回目でした。しばらくこのような状況が続きそうですが、これからも社会状況に応じて感じたことや、個人的なエピソードを書いていければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 

(編集:榊原すずみ