【緊急座談会】パワハラ防止法が “届かない” 人たちを守るために。今やるべき3つのポイント

全国に約400万人いる地方公務員と教職員。こうした人たちがハラスメント被害に遭っても十分守られないかもしれません。背景には、ある誤解があります。

校長にセクハラをされたのに、規定にある相談先が当の校長だった。 

ゲイを揶揄する発言に抗議をしたら謝ってはくれたけれど、上司がその話をあちこちに言ってしまったーー。

職場のパワーハラスメント防止策が法制化され、6月から大企業に対策が義務付けられました。

この法律(パワハラ防止法)が、地方公務員や公立学校の教職員にも適用されると考えている人は、実は多くはありません。

地方公務員は国家公務員の勤務基準に合わせることが多いことから、ハラスメントについても、国家公務員向けの人事院規則に合わせるという誤解が存在するからです。

全国で計約400万人いる地方公務員の中には、新型コロナウイルス対策の最前線で働く公立病院の医師や看護師、保健師らも含まれます。ところが、誤解から、こうした人たちがハラスメントの被害を受けても十分守られないかもしれないというのです。

盲点ともいえるこの問題をどうしたらいいのでしょうか。労働組合のトップや研究者ら4人が話し合いました。

<左から>清水氏(日教組)、川本氏(自治労)、神谷氏(LGBT法連合会)、内藤氏(労働政策研究・研修機構)
<左から>清水氏(日教組)、川本氏(自治労)、神谷氏(LGBT法連合会)、内藤氏(労働政策研究・研修機構)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

<座談会出席者>

 

全日本自治団体労働組合(自治労)
川本淳 中央執行委員長

 

日本教職員組合(日教組)
清水秀行 中央執行委員長

 

LGBT法連合会
神谷悠一 事務局長

 

・司会
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)
内藤忍 副主任研究員

*座談会は6月24日に行いました。

LGBTの公務員「コロナ禍でのアウティングが不安」

内藤
新型コロナウイルスの蔓延が、地方公務員や教職員の方々に大きな影響を与えています。
川本
全国に先駆けて一斉休業が始まった北海道では、まず用務員や調理員など非正規の職員の雇用が課題になりました。公立病院も感染者の治療に追われ、職員の安全確保や過重労働など大変な状況でした。
清水
2月末の政府の全国一斉休校要請は、何の連絡も準備もなくて大混乱になりました。自治労とも連携して政府に要請し、総務省と文部科学省が雇止めはしないと通知を出しました。5月の連休明けから分散登校が始まると、マスクをしていない子や自宅で検温を忘れた子をどうするかなど課題だらけ。教室の消毒は教職員が自分たちでやっているのですよ。
内藤
教員はもともと職場環境が厳しいのに、さらに過重労働が心配ですね。忙しい職場でハラスメントが起きやすいことは、すでに様々な調査でわかっています。

この6月から改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行されて、民間労働者だけでなく地方公務員や教職員も保護の対象となりました。住民や生徒、保護者とも接する機会の多い人たちですし、外部の第三者からのハラスメントについても、これからは自治体や教育委員会が配慮しなければいけないのです。新たな対策が必要で、労働組合の役割はとても重要です。
神谷
LGBT当事者は非正規で働く人が多くて、コロナ禍による雇止めなど困難が起きやすい。また、テレワークでオンライン会議をすると、職場では明かしていない同性パートナーがいる気配が伝わったりして、アウティングなどの差別につながる可能性が高まっています。

LGBT法連合会には100以上の当事者団体が加盟していて、4月にアンケートを取ったところ、地方自治体による新型コロナウイルス感染者や濃厚接触者の情報公表のあり方に関して、アウティングへの不安の声が出ました。

今回のパワハラ防止法に基づく義務を記した指針には、性的指向などの侮辱的な言動や、本人の同意ない暴露はパワハラですと明記してあって、エポックメーキングな法律なんです。その対象に地方公務員も含まれるのですが、それがうまく伝わっていないことに危機感を持っています。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

性的指向・性自認に関するハラスメントは、LGBT以外でもNG

神谷
今回のパワハラ防止法ではLGBTに関連して、誤解しやすいポイントが2つあります。1つは言動の対象です。性的指向・性自認(SOGI、ソジ)に関する言動もパワハラの対象となります。

SOGIはLGBTと混同されがちですが、SOGIが多数派の異性愛の人なども含めたすべての人を含みうる言葉なのに対して、LGBTはレズビアンやトランスジェンダーなど少数派の集団を指す言葉です。今回はSOGIに関連した言動が対象なので、パワハラを受ける人がLGBTであれ多数派であれ、性的指向や性自認を引き合いに侮辱的なことを言えばパワハラになります。
2つめは法の適用で、SOGIに関するハラスメントは、今回のパワハラ防止法ではパワハラに含まれています。一方、国家公務員が対象の人事院規則ではセクハラ防止の規定に入っています。ところが、地方公務員には人事院規則が適用されるという誤解が広まっているようで、自治体にパワハラ防止法を説明しても混乱されることがよくあります。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

「自治体職員には人事院規則が適用される」という勘違い

内藤
パワハラ防止法以外にも、男女雇用機会均等法や育児介護休業法のセクハラや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(いわゆるマタハラ)は以前より地方自治体や公立学校も適用対象なのです。セクハラやマタハラも含めてハラスメントは民間と同じ法律が適用されるのですが、そこが勘違いされていて、国家公務員に適用される人事院規則を参照して対策をとっている自治体や教育委員会がとても多いと思われます。

人事院規則の水準が民間向けの法律を上回っていればそれでもかまわないのですが、実は必ずしもそうとも言えません。総務省や文科省はこの点を全国の自治体・教育委員会に徹底すべきだと思いますが、徹底されていないのではと心配です。そもそも、国家公務員を対象にした人事院規則が民間の基準を下回るのも問題ですが。
神谷
こうした誤解や混乱からなのか、ある都道府県でこの点に関して当局とやりとりした議員が「うちに今度のパワハラ防止法は適用ではない」と言われたそうです。調べてみると、総務省がパワハラ防止法が適用されるという通知を出す一方で、別の通知で「人事院規則の内容を踏まえて対応するように」と示していました。後者には、人事院規則を参考にした対応例が複数例示されています。

自治体にしてみると、自分たちに民間法制が適用されると分かりにくかったと思います。自治体はそれぞれハラスメント規程を定めているのですが、ネットで調べたらどれも人事院規則とそっくりな内容でした。
川本
公務員には労働基本権が制限され、国家公務員は労働基本権をはじめ労働条件に関する規定は別の法律や人事院規則で定められるのですが、地方公務員は一部を除き民間と同様とされています。国の基準に合わせるという思いこみから、そのような勘違いが起きるのだと思います。
内藤
でも、公務の職場でもハラスメントは起きるので適切な対策が必要ですね。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

ポイント① 被害者ケアや二次被害の防止を

神谷
パワハラ防止法に比べて人事院規則が不十分な点は、調べてみましたら次の通りです。

まず、人事院規則はハラスメント禁止を「職員の責務」としているので、市長などの特別職が適用対象外となる可能性があります。たとえば、2年前に問題になった財務省のセクハラ問題で、加害者の事務次官(当時)が適用対象外になったら変ですよね。また、人事院規則では、問題となった行為について事実を確認する義務が明記されていません。
人事院規則には、加害者の謝罪や被害者のケア(配慮)などを義務づける規定もありません。

昨年秋、神戸市の公立小学校の教員間のいじめが問題になりました。神戸市教委がその直前に作っていたハラスメント対策基本方針を見ると、被害者のケア(配慮)についてどこにも書いてありません。被害者を守るという視点が欠けているのです。
清水
自治体や教育委員会には、自分たちが事業主だという意識が極めて低いのです。教職員がハラスメントを受けた場合、上司が加害者でしかも相談先ということになりかねません。第三者機関が必要です。都道府県や政令指定都市には人事委員会がありますが、それ以外の自治体では教職員がどこに苦情を持ち込んだらいいのか、わかりにくいのです。
内藤
今回のパワハラ防止法で、被害を受けた時すぐ相談できる窓口の設置が事業主の義務となりました。
神谷
調べてみたら、文科省は保護者からのハラスメントと保護者へのハラスメントの両方について、通知を出しています。法律上は、教育委員会が教職員からの相談を受けなければいけないのではないでしょうか。
川本
総務省は4月にハラスメント法制の施行に向けた通知を出していて、苦情処理は人事委員会が行うことになっています。
神谷
プライバシーの保護についても、人事院規則の指針には「秘密の厳守」とは書いてあっても、マニュアル作成や研修などの例示がなくて、不十分です。また、ハラスメントについて相談した被害者に二次被害を与えないよう、民間のパワハラ防止法では通達で配慮を求めているのですが、人事院規則には二次被害に直接言及した規定がありません。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

ポイント② 相談窓口となる第三者機関の設置を

内藤
人事委員会は気軽に相談できる窓口なのでしょうか?おそらく相談するにはものすごい覚悟が必要だと思います。

今年5月、滋賀県草津市で小学校の校長が女性教員にわいせつ行為をした容疑で逮捕された事件がありました。草津市教委が定めるセクハラ相談のルートは「教職員→相談員(教職員)→校長→市教委」です。加害者の校長が相談窓口なわけで、これでは相談窓口が機能しないのです。安心して相談できる複数ルートの相談窓口、それに事実確認から解決まで実行できる中立的な立場の機関が必要ですね。
川本
自治労が2010年と2016年にパワハラ調査をしたところ、相談先として外部に第三者機関を設置してほしいという要望が強かったです。市町村が設置する委員会は、地元の有識者や役所OBが委員になって苦情相談を受けています。
清水
教育委員会も第三者機関を置くしかないと思います。校長や教頭に言いにくいことは教育委員会にはなお言いにくいですから。
内藤
民間企業の場合、厚労省の都道府県労働局が紛争解決を手伝ってくれます。ところが、自治体職員や教職員は労働局を利用できず、被害を受けても八方ふさがりです。
神谷
私はある自治体の男女共同参画関連の苦情処理委員会で委員をしていますが、そういうところもハラスメントの紛争解決や救済をできるといいなと思います。

モデルになるような第三者機関を設置している自治体はありますか?
川本
第三者機関を作ったとしても、権限をどこまで持たせるのか、第三者機関は調べて報告するだけであとは自治体が懲戒規程に基づいて判断するのかなど、なかなか難しいです。
清水
民間の中立的な機関に相談できるようにして、そこに集まった相談事例を職員研修で報告するのも効果があると思います。何か事件が起きてから校長を集めて説明されても、なかなか自分のことのようには考えません。
川本
私の出身の北海道でいえば、人事委員会は北海道と札幌市にしかありません。小規模な自治体では総務課長が人事関連の窓口です。そこで、労働組合の役割が出てきます。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

ポイント③ 被害当事者が自らの体験を話すハラスメント研修を

神谷
東京新聞に載った投書なのですが、職場でゲイであることを言っていなかった県庁職員が、同僚らのゲイを馬鹿にする発言にたまりかねてやめてほしいと頼んだら、みんなびっくりして謝ってはくれたけれど、上司がその話をあちこちに言ってしまったという事例がありました。労働組合ではこういう場合、どういう対応ができるのでしょうか。
川本
ハラスメント要綱を作り、自治体と団体(労組)が推薦する人が相談窓口になる態勢を作っている自治体は結構あります。それが難しい小さな自治体では、組合に直接相談に来るでしょうね。ただいずれにしても、話を聞くだけでなくハラスメントをやめさせるなどの具体的な改善策になると、専門家でないと対応が難しい。
清水
学校でのハラスメントは校長や教頭からが多く、第三者機関が事情聴取するようにした方が望ましいと思います。管理職は、ハラスメントの起こらない環境を作るのが仕事だという意識はあっても、自分たちが当事者になるとは思っていない。だから組合は、被害を受けた人が話をするハラスメント研修を行うよう要求しています。たとえば、アウティングによりどんな問題が起きるかを研修で当事者に話してもらうんです。
内藤
財務省の元事務次官によるセクハラ事件では女性記者が被害者だったように、職員ではない人が被害者になる場合もあります。加害者も含め、職員以外が当事者になるのはどのような場合がありますか?
川本
議員とかですね。近年はスーパーなどでカスタマーハラスメントが注目されていますが、公務職場では住民からの理不尽な要求は昔からあります。あらかじめ対応を決めている自治体や事業所もあります。たとえば地下鉄では職員が暴行を受ける事件が起きているので、暴力的な人が来た場合は上司が対応するなどのルールを決めておくのです。
清水
実はいま悩んでいることがあります。障害を持つ教職員のネットワークがあるので、LGBTについても作ってもらいたいという声があるのですが、名簿や個人情報の管理をどうするのか、どうやって集まって会議を開けばいいのか、難しいです。
神谷
民間企業も当事者グループを作っているところはあります。うまくいっているところでは当事者側と企業側とでキーパーソンを決めて、当事者側のメンバーが誰なのか外からは見えないけれど、キーパーソンを通じて取り組みなどを報告するという仕組みを作っているところがあります。互いにある程度の信頼感ができてくると、当事者も増えて施策に生かせるようになっていきます。
内藤
ある議員の集まりでは、ハラスメント法制が自治体に適用されることを知っている議員はほんのわずかでした。労働組合からもぜひ後押しをして、適切に助言していただきたいですね。
川本
まずは相談窓口がないなら労使でつくろう、内部でだめなら外部でつくろうというように行動を起こしていく必要があります。
神谷
法律ができたので全国津々浦々に実現するぞと当事者団体も思っていたのですが。何か施策を行う際にLGBTやSOGI は忘れられがちで、今回のアウティングがハラスメントだということも忘れられがちなので、ぜひそのあたりの取り組みをお願いしたいです。
清水
各県の人事委員会は民間企業の経営者も委員になっているので、そういう人が「民間ではこうなっているが公務はどうか」と質問してくれればと思います。学校の場合はスクールロイヤーがいると色々目配りができます。教育委員会や相談窓口にもそういう人が必要ですよね。管理職選考試験の問題にテーマとして入れればいいんですよね。「LGBTの職員がいたらどうしますか」とか。そうすれば意識はずいぶん変わります。
内藤
本日は問題点が明らかになっただけでなく、改善のアイデアもいろいろ出されました。地方公務や学校で働く人たちもハラスメントから守られるよう、ぜひ力をあわせていきたいと思います。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

<プロフィール>

川本淳 氏(全日本自治団体労働組合 中央執行委員長)

北海道中川町役場出身。自治労書記次長、書記長などを経て、2015年9月に中央執行委員長へ就任。 


清水秀行 氏(日本教職員組合 中央執行委員長)

元千葉県公立中学校教諭。日教組書記次長、書記長などを経て、2020年4月から現職。


神谷悠一 氏(LGBT法連合会 事務局長)

7月に松岡宗嗣さんとの共著『LGBTとハラスメント』が発売。9月には一橋大学客員准教授に就任予定。

内藤忍 氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 副主任研究員)

専門は労働法。ハラスメントや雇用性差別をテーマに論文など多数執筆している。 

(編集:中村かさね、坪池順)   

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