男性育休義務化、中小企業7割が「反対」に波紋。「産まないのが“正解”なのか」

中小企業の7割が、男性育休の義務化に「反対」との調査結果が明らかになった。識者からは、「育休も取得させることができない会社は今後淘汰されていくだろう」と批判も。
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Yagi-Studio via Getty Images

中小企業の7割が、男性育休の義務化に「反対」。

日本商工会議所が公表した調査結果に、波紋が広がっている。企業側の人手不足が背景にあるとみられるが、ネット上では「結局産まないのが正解ってなる」「少子化は、社会が子どもを産ませるよう設計されてこなかったツケ」といった声が上がる。

運輸、建設、介護・看護で割合高く

日本商工会議所と東京商工会議所は2020年7月〜8月、全国の中小企業6007社を対象に、「多様な人材の活躍に関する調査」を実施。2939社から回答があった(回答率48.9%)。

「男性社員の育児休業取得の義務化」について、「反対」(22.3%)「どちらかというと反対」(48.6%)で計70.9%に上った。業種別では、運輸業81.5%、建設業74.6%、介護・看護74.5%の順で多かった。いずれも人手不足の問題を抱えている業種で、男性の育休取得によって働き手の確保が困難になることへの負担感が大きいとみられる。

調査では、女性の活躍推進に関する質問もあった。

「女性活躍を推進している」と答えた企業の割合は81.5%だったが、そのうち約半数が「課題がある」と回答。具体的な課題を複数回答で問うと、「幹部(管理職・役員)となることを望む女性が少ない」(44.2%)「女性の管理職率が低い(向上しない)」(40.8%)「出産・育児を機に女性が辞めてしまう」(27.6%)が多かった。これらの課題は、長時間労働や男性の育休取得率の低さと裏表にある問題が与党内でも指摘されている

回答した中小企業のうち、約7割が男性育休の義務化に「反対」「どちらかというと反対」と答えている
回答した中小企業のうち、約7割が男性育休の義務化に「反対」「どちらかというと反対」と答えている
日本商工会議所の公式サイト

この調査結果に対し、ネット上で論争が広がっている。

「少子化は、社会が子どもを産ませるよう設計されてこなかったツケ」

「恩恵のない人にしわ寄せがいくような制度では印象悪くて定着しない」

「結局産まないのが正解ってなる」

「じゃあ誰が子育てするの?ってなると女なんだよね」

なぜ、運輸、建設、介護・看護で「反対」

なぜ、運輸、建設、介護・看護で「反対」割合が高くなっているのか。

ワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長は「それは、最低限の命を守る、労働基準法の36協定の上限が、上記3分野には適用されていない。そして、中小企業は、やっと今年適用になったばかりだからです」と、背景を解説する。

「つまりこの3分野と中小企業は、実質的に上限を超えて時間外労働をさせることが今も可能か、今年まで可能だった業界。『働き方改革』が盛り込まれた2018年の労基法改正時、建設や運輸分野への適用は2024年まで先送り、中小企業は2020年まで一年遅らせて、改善させなかったことが大きな要因ではないでしょうか。

一般的にアンケートに回答しているのは経営者ではなく人事総務担当者のことが多いです。「反対」と答えた3分野と中小企業の皆さんは、自分たちの命を守る最低限の法律もない中で逼迫して仕事をさせられている。(育休社員が増えて自分にしわ寄せが来るのではと恐怖を感じ)回答が「反対」になってしまうのは自然なことで、彼らを責めるのではなく、「働き方改革」の恩恵を受けずに放置されている企業への対策が必要です」。

そして、アンケートを実施した商工会議所に対しては、「このアンケートを「だから育休義務化反対」の論拠にしている場合ではなく、この悲痛な叫びを受けて、真に中小企業の繁栄のための団体として、働き方改革を加速させる支援を急いでください。中小企業でも夫婦が安心して二人以上の子どもを持てるようになってこそ、この国の少子化解決になるのですから、それこそが最も大切な働きだと言えます」とコメントした。


育休「取らせないなら淘汰される」

経営者側の意識を問う声も。

病児保育サービスに取り組む認定NPO法人「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さんは「私も600人の社員を抱える経営者ですが、社員の人生で最も感動的な出産という時期に、育休も取得させることができない会社は、今後淘汰されていくだろう。社員の人生を食いつぶす経営者は、時代から求められていないと思う」と指摘する。

「男性の育休」 を小室さんとともに執筆した天野妙さん(みらい子育て全国ネットワーク代表)は、「義務化が企業や個人など誰に対してなのか、期間をどう考えているのか、という点が不明瞭な調査」と前置きした上で、「『どちらかといえば反対』の割合が高いのは、世の中の変化を感じる」と話す。

人手不足の問題を抱える業種で特に反対の割合の高さが目立つ結果となったことについて、天野さんは「この風土こそが業界の人手不足を助長していることに、経営者は気が付くべきだ。他の業界が取得促進に舵を切ったら、人手不足はより加速するだろう」とみる。

産後女性の死因の1位は自殺。産後うつは深刻な社会問題になっている。駒崎さんは「夫が育休を取って、それを支えるかどうか議論しているフェーズでしょうか?妻のために、子どものために、そして社会のために、私たちは今すぐ変わらなくてはいけません」と強調した。

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