「嵐ロス」さえ噛み締められなかった2020年末に、世界に挑戦した5人の活躍を振り返る

NEWSを脱退したワンオクTakaとの対談実現、ブルーノ・マーズ提供の楽曲で世界に挑戦、そして、メンバーの今後は? 嵐の活動休止前のラストイヤーを振り返る。
嵐のCDなど。2020年12月号の多くの雑誌の表紙を嵐が飾った
嵐のCDなど。2020年12月号の多くの雑誌の表紙を嵐が飾った
HuffPost Japan

嵐の活動休止が大晦日に迫っている。

2016年のSMAP解散、2018年の安室奈美恵引退と、近年はわれわれの目の前から一世を風靡したスターが去っていった。そして、今年は嵐がそうだ。

本当なら、いまごろ世の中は“嵐ロス”の寂しさに包まれ、5人揃っての活躍を見届けていたはずだ。たとえ「活動休止」であっても、将来、活動を再開するかどうかはわからないからだ。

しかし、活動休止までのラストイヤーは、想像もできないような展開となった。もちろん新型コロナウイルスの影響だ。

4月に予定されていた中国・北京での公演は中止となり、5月に予定されていた新国立競技場のこけら落としとなるコンサートも延期、水面下で進んでいたアメリカでのコンサートも見送られた。今年予定されていた大型イベントがすべて吹っ飛んでしまった。

昨年末に、50公演・237.5万人を動員した20周年記念ツアーは終えていたものの、今年は観客を入れたライブが結局いちどもできなかった。11月に延期された国立競技場でのコンサートも無観客となり、大晦日のライブも配信のみだ。

もちろん、新型コロナウイルスの影響を受けたのは嵐だけではない。多くのアーティストは活動の機会を奪われた。近年、右肩上がりの成長を続けてきたライブエンタテインメント市場は、ぴあ総研によると前年比8割減の落ち込みになると試算されている。約100年ぶりのこの災厄は、嵐にも直撃してしまった。

コロナ禍における嵐5人の混乱を記録

2019年の大晦日からNetflixで配信が開始された『ARASHI’s Diary -Voyage-』には、コロナ禍における嵐の混乱がしっかりと記録されている。現在21話まで配信されているこのドキュメンタリーは、過去と現在の映像を行き来しながら嵐の5人に迫る。

この作品の特徴は、限りなく5人だけにフォーカスしていることだ。スタッフはほとんど映されず、マネージャーも業務連絡での会話程度しか出てこない。結果、5人のパーソナリティや関係性は十分に伝わってくるが、多くの裏方とともに創られている「嵐」というプロジェクトは立体的にはならない。ファン向けのメイキング映像の印象が強く、ファン以外にとってはジャニーズ帝国のプロパガンダ映像に感じられる。

しかし、コロナ禍に入ったあたりから一転してドキュメンタリーとしての価値を帯びてくる。当初の予定が大幅に狂い、混乱を隠せない5人は表情を曇らせていく。8月には、延期されていた「アラフェス 2020 at 国立競技場」を無観客でやるかどうか議論される。ここでは珍しくジャニーズ事務所のスタッフ(顔は映されない)が、メンバーに対して会社側の姿勢を明確に説明するシーンが出てくる。

「ジャニーズ事務所の考え方として、(国立競技場で)やるかやらないかは、アーティストの判断を仰ぐ、今回に関しては。なぜなら、やはりスカスカの──野球観ててもこれをコンサートに置き換えたとき、やっていいのかよっていう。メンバーはストレス抱え、観てるスタッフもストレス抱え、お客さんもストレス抱えて……」(17話)

会議室に漂う重い雰囲気は、ジャニーズに限らず、今年ライブ・コンサートの中止を決断した多くの関係者が体験したものであるはずだ。きわめて消極的な解決策しか存在せず、スタッフも悔しそうに声を震わせる。観る側も、鎮痛な思いを抱いてしまう。どうにもできないし、どうにもならないからだ。

結果的に、やらないよりは配信でやったほうがいい──という結論になる。万全なコンサートとは言えないが、櫻井翔の「やりたいなぁ」の一言が決定打となった。

諦念に包まれるなか、気力を振り絞ってどうにかしようともがく5人の姿はその後も映され続ける。

「古いジャニーズと新しい地図」のコントラスト

近年の嵐は、大きな変化をしている。インターネット対応と、それにともなう海外進出だ。中止になった北京公演だけでなく、グローバルマーケットを意識したアプローチを2019年から始めた。

ジャニーズ事務所のインターネット対応の遅れは、かねてから指摘されてきた。国内のレガシーメディアへの過剰適応は、インターネットでグローバルに進展するエンタテインメントから取り残されつつあった。元SMAPの新しい地図(稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾)は、2017年にジャニーズ事務所から離れた直後からSNSやYouTubeチャンネルを開始し、それが大きな呼び水となった。

「古いジャニーズと新しい地図」━━。そのコントラストは鮮明だった。

嵐のインターネット対応は、新しい地図から2年遅れた2019年10月だった。突如としてYouTubeチャンネルを開設し、過去作5曲のMVを配信。SpotifyやApple Musicなどでも同5曲を解禁した。

『Voyage』10話では、そのプロセスが描かれている。ネット対応2カ月前の8月には、松本潤が渡米しニューヨークのYouTube本社を訪れる。そこで会うのは、YouTube音楽部門の総責任者リオ・コーエンだ。ワーナー・ミュージック時代に多くの業績を残した、アメリカ音楽界の重鎮だ。

松本は、グローバル展開のプラットフォームをどこにすればいいか、コーエンに相談する。するとこう返される。

「YouTubeだけじゃなく、Spotify、AppleMusicとすべて同時にやる必要がある」

それはまさに、その後実践されたことだ。

翌日にロサンゼルスに移った松本は、複数の音楽プロデューサーと海外進出の楽曲について打ち合わせをする。なかには条件が折り合わなかったケースもあるが、レディー・ガガやジャスティン・ビーバーを手がけてきたブラッドポップと既存曲のリミックスについて打ち合わせ、その2日後には過去に嵐やK-POPを手がけてきたエリック・リボムとアンドレアス・カールソンと新曲について話し合う。こうしてできた曲が「Turning Up」だった。

NEWSを脱退したワンオクTakaとの対談実現

嵐のデビュー20周年にあたる2019年11月3日に発表された配信限定シングル「Turning Up」は、世界的に流行する80年代を思わせるディスコファンクで、まさにグローバルマーケットを意識した仕上がりだ。加えてその歌詞では「世界中に放て turning up with J-POP」と、日本から外に出ていく強い自覚も織り込まれている。このとき、櫻井翔はその心意気をこう話している。

「僕のいまの感覚は本当に、(略)“いざ開国”、“嵐、開国します”っていう。まぁ一切合切取りに行く……っていうチャレンジをするワクワク感だよね」(『Voyage』10話)

今年発表されたブルーノ・マーズ作曲のフル英語曲「Whenever You Call」も、こうしたグローバル展開の一環だ。

『Voyage』では、こうした一連の活動について松本潤はかねてから相談していた友人を招いて対談する。それがONE OK ROCKのTakaだ。ジャニーズ事務所に所属していたTakaは、2003年にNEWSのメンバーとしてデビューしたものの、直後に脱退。その後、ロックバンド・ONE OK ROCKでグローバルに活動を続けている。

このドキュメンタリーでもっとも驚かされるのは、このTakaの登場だ。ジャニーズ事務所は、これまで退所したタレントとの共演を避ける傾向にあったからだ。

だが2019年7月、ジャニーズ事務所が新しい地図に対し、独占禁止法上「違反につながるおそれがある行為」があるとして公正取引委員会から注意される。これにより、ジャニーズ事務所のメディア・コントロールの暗部がはじめて明るみとなった。

一方で「圧力」だけでなく、テレビ局側の過剰な忖度もあるのではないか、との見方もある。ONE OK ROCKも地上波テレビでの露出はなく、ジャニーズとの音楽番組での共演もいっさいなかった。だからこそ『Voyage』にTakaが登場したのはかなりの驚きだ。

海外展開について、松本はずいぶん前からTakaに相談をしていたと話す。そして、Takaは真摯かつ率直に返答する。

「俺は自分が海外に出た身として、まだ成功もなにもしてないけど、なにか協力できることがあれば、まぁそういういろんなめんどくさいものは抜きにして、できたらいいなっていうのは、純粋に思ったかな」(『Voyage』21話)

ふたりが話すその光景はジャニーズ事務所が変わりつつある、というアピールとも捉えられる。もう「めんどくさいもの」ではない、と。

一方で、従来のジャニーズに対して、強い決意を持って向かう松本の姿勢とも読み取れる。ジャニーズ事務所がなんと言おうとTakaをブッキングする、と。Takaの登場は、ジャニーズ事務所内のさまざまな政治力学の変化を感じさせるものだった。

「音楽をちゃんとやるアイドルグループ」K-POPの壁

この2年間の嵐の変化━━インターネット対応と世界進出は、かならずしも上手くいったとは言えない。というよりも、いきなり大成功するはずがない、と言ったほうが正確だろうか。結果的に、1年ちょっとでなにかが大きく動くことはなかった。

嵐の「Turning Up」は好評だったものの、CD販売をしなかったこともあり、日本のビルボードチャートでは最高2位止まり。YouTubeの再生回数も、約3800万回(2020年12月28日現在)にとどまる。12月2日に発表されたばかりのNiziUの正式デビュー曲「Step and a step」が、すでに約5600万回に達していることと比較すると、その差は歴然としている。9月にリリースされたブルーノ・マーズ提供の「Whenever You Call」にかぎっては、約1400万回でしかない。

その一方で世界に目を転じれば、今年は本家ビルボードチャートでBTSが「Dynamite」で3度1位に輝いた。K-POPでは2012年にPSYの「カンナムスタイル」が7週連続で2位となったが、それを上回る成績だ。

この「Dynamite」のアプローチは、複数の点においてきわめて「Turning Up」と近い。音楽は2019年から2020年にかけて流行を続けているディスコファンクで、東アジアの男性グループがグローバルな展開をしているからだ。

違ったのは結果だ。「Dynamite」のYouTube再生回数は2020年12月28日時点で約7.2億回を超え、アメリカ最大の音楽賞「グラミー賞」ノミネートの快挙を達成した。

「Dynamite」は大爆発を起こして、「Turning Up」を吹き飛ばしてしまった。BTSは、「音楽をちゃんとやるアイドルグループ」として大ヒットした。K-POPは一貫してその姿勢を続け、それがBTS、そしてBLACKPINKと実を結んでいる状況にある。

嵐のメンバーたちは、日本のアイドルとしては先進的で非常に主体性のあるグループだ。大野智は振り付けを考え、櫻井翔はラップを担当し、二宮和也は作曲を手がけてきた。コンサート演出も、グループの中心的存在である松本潤がきわめて綿密に練り上げている。

だが、長らく潤沢な日本のマーケットやCD販売を軸とするオリコンランキングに過剰適応した結果、音楽はグローバルには到底およばない水準にとどまってきた。

また、グループの人気はあっても、常に指摘されてきたことは大ヒット曲の不在だ。SMAPは「世界に一つだけの花」や「夜空ノムコウ」など一般にも知られるヒット曲を多く送り出していたのに対し、嵐は少ない。嵐の紹介のとき、そのBGMでかかるのはたいていデビュー曲の「A・RA・SHI」だ。

ONE OK ROCKのTakaは、当初松本から世界進出の相談されたとき、「そんなに甘いことじゃない」という意味と近いニュアンスの言葉を伝えたという。

実際に結果もそうなった。嵐の海外進出は、1年ちょっとでどうにかなるものではなかった。やらないよりもチャレンジしたほうがいい━━という点では成功だったかもしれないが、実際は成功と呼ぶにはほど遠い。

だが、松本はこの海外への挑戦を振り返ってTakaにこう話す。

「やりたいという気持ちがあるけど、どうやればいいのかとか、どっちのほうがよりいい方向に行くのかみたいなのも本当に見えない中で━━俺も見えないし、音楽スタッフも見えてないし、事務所というか制作側もわかってないみたいな中で、本当に手探りだけど、でもね、結果めちゃ楽しかったよ。大変だし、イライラすることもめっちゃあったし、すごいショックを受けることもいっぱいあるけど」(『Voyage』21話)

おそらく松本は、海外進出の手応えを掴んだのだろう。しかし、スタートしたばかりですぐに終わってしまった。嵐の海外進出はやはり遅すぎて、時間もなかった。

松本潤は今後ジャニーズの枠に収まるのか

こうして振り返ると、コロナ禍に見舞われた嵐の活動休止前のラストイヤーは、やはり不完全燃焼という印象が強い。おそらくそれは本人たちにとっても、ファンたちにとっても同様だろう。結果、嵐の活動休止はなんとも収まりの悪いストーリーとなってしまった。きれいにまとまるはずのものが、まとまらなかった。

本稿執筆時点では、まだ地上波の冠番組の最終回も、大晦日の『紅白歌合戦』も、そして同日の配信ライブの模様もわからない。

ただ、『Voyage』を観るかぎりメンバーたちに悲壮感はない。あくまでもそれは「一時休止」であり、嵐は復活する可能性も残されている。ただ、将来のことはおそらく本人たちにもわからない。

今後、もっとも気になるのは松本潤のことだ。

コンサートをプロデュースし、海外進出の際は自ら渡米して交渉、会議でも率先して意見を述べる彼は、間違いなく嵐の中心だ。「Turning Up」のMV撮影のときも海外スタッフとの意思疎通が上手くいかずにイラつく表情を隠さず、ステージから降りて指示を出しに行く。端的に言って、ものすごく真面目で仕事熱心、そしてフランクだ。

松本の強烈な熱意は、参謀的な役割である櫻井翔に支えられ、天然ボケの大野智によって抑制され、ムードメーカーの相葉雅紀とマイペースな二宮和也によって緩和される。嵐の5人はかなりバランスが取れている。

しかし、来年から個人で活動していく松本は、その熱意を向ける先とバランス感覚を失う。しかも、活動を続ける4人のなかで唯一レギュラー番組を持っていない。おそらく滝沢秀明のように後輩のプロデュース業を活性化させると見られるが、果たしてジャニーズ事務所のなかで彼はその強い熱意を十全に発揮できるのか━━。

嵐の1年を振り返ってもっとも強く考えるのは、そのことだ。松本潤は、退所者が相次ぐジャニーズ事務所の枠に収まる存在なのか。彼の今後の活動は、ジャニーズ事務所の未来にも大きな変化を及ぼす可能性がある。

(文:松谷創一郎 編集:毛谷村真木/ハフポスト)

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