ハフポスト編集長に就任します。今まで以上にもがいていきます。

泉谷由梨子が編集長に就任。この社会にどうしたらもっと貢献できるのか、考えます。
HuffPost Japan
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「ハフポスト日本版」の新編集長に、本日6月11日より、泉谷由梨子が就任いたします。

ハフポストは、この社会にどうしたらもっと貢献できるのか、就任にあたって考えたことをお話しさせてください。

どうしたらこの世界を変えられるのか

14歳の頃、私はこの世界に絶望していました。

勉強すればバラ色の未来が待っていると言われて、中学受験を突破し入学した学校で知ったのは、友人たちの家庭の中にあった不幸の存在だったからです。

機能不全家族、児童虐待、モラルハラスメント。あるいは、家庭内のことと思われた問題のその根底にありそうだと感じていた社会のジェンダーの不平等。今も続く問題です。私にとってそれはとても深刻な問題でした。それなのに、私が14歳だった1997年当時、それが今ほどは大きな社会課題として認識されていないように感じた私は、社会から忘れられているような気持ちになりました。

どうして今社会がこんな状況なのか、その謎を知りたい。

どうしたらこんな世界を変えられるのか、知りたい。

それが、メディアの道を志した原体験です。

結局、38歳になっても、記者や編集者である私個人としての関心はその頃とほとんど変わっていません。

「自分には何もできない、無力だ」と絶望する14歳の自分に、私は何をすることができるのか。

それを考えて、メディアの仕事を続けてきました。

問題を本気で解決するメディアとして

今、メディアは岐路に立っています。

インターネットによって個人の発信力が高まり、テニスの大坂なおみ選手が記者会見を拒否したように、メディアのあり方が大きく変わっている時代です。企業経営者は、報道媒体から取材を受けなくても、ネットを利用して自分の言葉でビジョンを伝えることもできます。一方で、新聞・テレビをはじめとする大手報道媒体がネットに進出し、競争は激化しています。多くの中規模・小規模のメディアが、ネット上に生まれては消えていきました。

その中で、「ハフポスト日本版」が存在する意味とは何か?

一つは、誰かが隠している、まだ見つかっていない問題を世に問い、指摘すること。これはジャーナリズムの基本です。

消えてしまいそうな個人の声を集めること、情報を整理・分析し、社会の歪みを解き明かすこと。ビジネスに役立つ情報があること。個人のささやかな楽しみに寄り添い、暮らしを少し豊かにしてもらうこと。いずれも大事ですし、これからもやっていきます。

加えて、私たちのような小さなネットメディアの価値は、あらゆる手段で、私たちが実際に感じている小さな悩みや違和感をいち早く察知し、名前をつけて、さらにこれからは解決までも担うという覚悟からしか生まれないのでは、と最近は思っています。

新しい時代の、私たちの価値観を掲げる

例えば、最近私たちが発信した記事の中に「男性版産休」の創設と「男性育休の周知義務」を企業に求める法改正があります。

男性の育休取得率はわずか7.48%。もっとジェンダー平等な社会に近づくために、夫婦という形態の場合、男性が育児することをもっと当たり前に、そのために育休取得を促進しなければならない。その信念でロビイング活動を始めた人々や、議員、企業など様々な関係者にキャンペーンのパートナーとして伴走することになりました。

根拠となるデータも当たり、ニュースも記事や動画など様々な方法で発信しました。それだけでなくイベント開催のノウハウを生かして、彼ら彼女らの院内集会の司会を引き受け、法改正への道筋づくりについても共に考えました。

発信を重ねるたびに、ネット上での応援・賛同の声はどんどん大きくなりました。当初は支持者の反発を不安に感じていた部分もあった議員側も「記事へのポジティブな反響に驚いた」「この1年で社会がガラッと変わった」と、進める上で世論の追い風を感じたと話していました。

反対意見や、法改正によって起きうるネガティブな影響、まだ解決できていない問題も取り上げました。しかし、それはメディアの保身のための「中立」「両論併記」ではなく、私たちが目指すべきビジョンという大きな枠組みの中では、ハードルの一つ。私たちが大事にしたい価値観については、しっかり踏み込む。それがメディアとして問題解決に取り組むということだと思っています。

チェンジメーカーと一緒に、企業を変革する

さらにハフポストが、問題解決のプレイヤーとして注目しているのは、働く一人一人のパワーです。その集約こそが、社会のシステムを変えることにつながると考えています。

例えばハフポストが特集として力を入れているSDGs。いま、これまでの社会経済システムの綻びが指摘されています。このシステムを世界中の国々やグローバル企業が変革していくために、私たち一人一人も大きな役割を担っています。

今なら特に、企業と人権の問題に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。例えば、中国の新疆ウイグル自治区で指摘されている「強制労働」の問題をめぐって今、日本企業が、国内外から厳しい目に晒されています。サプライチェーンで人権侵害がないことを証明せよという厳しい要求で、そこに様々な思惑はあるにせよ、企業は対応を迫られることになりました。

人権侵害や社会への悪影響を及ぼす企業の商品は「推せ」ないと考える人も多くなっています。「ブランドが正しい行いをしている」ことが商品購入の決め手になる人の割合は日本で70%(世界8カ国平均は81%)。自分たちの行動がソーシャルグッドであるかどうか、消費者は敏感に反応します。

こうした時代の変革期に、実際に、企業活動をどう変えるべきなのか。企業で働く自分としては、何を考えどうすべきなのか。ハフポストでは記事などの中で問題や背景を報じていますが、さらに踏み込むため、企業で働くみなさんに呼びかけて勉強会を開催しました。

勉強会では、それぞれの企業・立場から、非常に多くの率直な悩みや戸惑いが共有され、お互いの事例を交換しあい、学び合うことができました。

このように企業で働く人の中に「チェンジメーカー」を増やしていくことも、私たちが担える新しい役割だと考えています。

広告主の皆さんも、チームとして

こうした私たちの存在意義は、広告部門のメンバーとも思いをともにしています。

近年、ハフポストの発信するメッセージに賛同し、この媒体でこそ自社の取り組みを発信したいのだという要望を、企業などから広告部門にいただくことが増えてきています。こうした広告主の皆さんも、一緒に社会を変える動きを担っていくチームのメンバーだと考えています。

そして、どんな問題でも、それを見つける最初の一歩となるのは、ハフポストがこれまで取材させていただいた多くの困難を抱えた人たち、声をあげてきた人たちです。メディアとしては、そんな人々から受け取ったバトンをより大きなうねりへとつなげていくことができると思っています。

まだまだ課題は山積みです。しかし、「声なき声」によく耳を澄ませて問題を発見し、新しい時代を生きる人々と一緒に、ひとつひとつ解決するメディアとして歩んでいきたいと考えています。

そのための表現方法はもちろん文字だけでなく、写真、動画、イラスト、イベント、勉強会、本など様々です。これからもどんどん新しい手段を開発していきたいと思います。

この世界は何も変わらないと、無力感を抱えているすべての人に。

「あなたと一緒に世界は変えられるよ」と言える。しかも優しく。そんなメディアでありたいと思っています。

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就任からの「ちょっと休みます」

ここで、いきなりの私事ではありますが、私は現在妊娠しており、このまま無事に継続することができた場合には、秋から産休に入る予定です。

つまり、ハフポストを5年と長期にわたって率いた竹下隆一郎・前編集長が去った後、後任となった私も一時職場を離れ、編集長という人はしばらく不在ということになります。

今皆さんは「おいおい、大丈夫かよ!」と思われたでしょうか?

もう一つ、ハフポストが覚悟を決めていることがあります。それは常に、自ら実践する「ガチ勢」であるということ。

記事として自分たちが訴える問題には、まず自分たちも取り組んで解決する。SDGs時代のメディアとして、事業会社として、働きかたを変えること、きちんと休むこと、差別をなくすこと、多様性のある組織をつくること、気候危機を止めること、SNSでの発信のあり方などなど、記事で訴えている内容に恥じない振る舞いができているのか。私たちは常に自分たちに問うて実践してきました。

大切にしている価値観のひとつが、ジェンダー平等の実現です。妊娠・出産というライフイベントは、企業などで働く女性が壁にぶつかる典型的な瞬間でしょう。まだまだ多くの女性たちが「妊娠するならマネジメントは任せられない」と行く手を阻まれる状況に追い込まれています。

しかし、記事で「こうあるべきだ」と理想的なあり方を訴えるのと同時に、このライフイベントはやり方次第で十分に「問題」ではなくなるから「大丈夫」なのだと、私たちが確信し証明できない限りは、本当の意味で企業や組織におけるジェンダー不平等の問題を、共に解決するメディアといえないのではないでしょうか。

今回の就任にあたって、ハフポスト日本版、またバズフィードジャパン社は、組織として「大丈夫」にする解法を見つけようと判断しました。

これはごくごく小さなことですが、私たちのアイデンティティはそんなところにあります。

私が入社した2016年から5年で、社会は様変わりしました。日本でも世界でも、多くの変化の起点になったのはインターネットと、そこに溢れ出した人々の思いです。そして、ネットメディアを運営する私たちは、現場で苦しみ、それでも社会をより良いものにしようともがく人々を一番近くで感じてきました。私たちも一緒に、今まで以上に、もがいて行きたいと思います。

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