『大麻使用罪』は必要? 検討会ではどんな議論があったのか。

報告書を取りまとめ。罰則が必要という意見が多かったと触れる一方、「使用罪の導入が大麻抑制につながる論拠が乏しい」という反対意見が盛り込まれた。
検討会の取りまとめ
検討会の取りまとめ
Rio Hamada / Huffpost Japan

大麻取締法に『使用罪』を創設することなどが議論されていた厚労省の検討会が6月10日、報告書を取りまとめた。

『使用罪』創設について、検討会が始まった当初から委員の中で賛否が分かれていた。

だがとりまとめでは、「使用罪」がある他の薬物規制法との整合性の観点から、「大麻の使用に罰則を課さない合理的な理由は見出しがたい」という文言が盛り込まれた。

罰則が必要という意見が多かったと触れる一方、「使用罪の導入が大麻抑制につながる論拠が乏しい」「スティグマを助長する恐れがある」といった3人の委員からの反対意見が盛り込まれた。

報告書への意見や感想を求められると、委員から「薬物の回復支援に携わっている人の声を聞くべきだった。数字や制度の話が中心で、大麻を使っている人のリアリティを共有できなかった」という声が上がった。

厚労省は、検討会の取りまとめをもとに、6月中に報告書を公表する。その後、審議会で議論し、早ければ来春の法改正を目指す方針。

厚労省の検討会
厚労省の検討会
Rio Hamada / Huffpost Japan

『大麻使用罪』創設、どんな議論?

検討会で一番の争点となったのは『大麻使用罪』の創設。

現行の大麻取締法は、「所持」や「譲渡し」などは禁止されているが、「使用」に対する罰則規定がない。理由は、許可を受けた大麻草の栽培農家が、刈り取り作業で大麻成分を吸引するケースの考慮などからだ。

これに対して報告書では、作業後の尿検査で成分が検出されなかったことを理由に「罰則を設けなかった理由は現場は確認されていない」と言及。

『使用罪』創設の議論を始めた前提として、厚労省は報告書の中で、大麻で若年層の検挙されるケースや割合がここ数年増加し、使用が拡大している点をあげている。

その背景として、ネットやSNSの普及で大麻を入手しやすい環境にあることや、「有害性はないといった誤った情報が氾濫していることに一因があると考えられる」と説明している。

厚労省は検討会の中で、『使用罪』がないことが「使用のきっかけになった」(5.7%)「ハードルが下がった」(15.3%)という、大麻所持容疑で逮捕された人へのアンケート結果を創設の根拠として示していた。

報告書は、調査結果に触れ「『大麻を使用しても良い』をというメッセージと受け止められかねない状況になっている」と訴えている。

こうした厚労省側の考え方への賛同や、『使用罪』がある他の薬物規制法との整合性などを理由に、「罰則を課すことが必要という意見が多かった」と報告している。

一方で、使用罪に反対する委員からの次のような意見も記されている。

・国際的には薬物乱用者に対する回復支援に力点が置かれている中で、その流れに逆行することになるのではないか

・使用罪の導入が大麻の使用を抑制することを目的とするのであれば、使用罪の導入が大麻使用の抑制につながるという論拠が乏しい

・大麻事犯の検挙者数の増加に伴い、国内において、暴力事件や交通事故、また、大麻使用に関連した精神障害者が増加しているという事実は確認されておらず、大麻の使用が社会的な弊害を生じさせているとはいえないことから、使用罪を制定する立法事実がない

・大麻を使用した者を刑罰により罰することは、大麻を使用した者が一層周囲の者に相談しづらくなり、孤立を深め、スティグマ(偏見)を助長するおそれがある

その上で「薬物依存症の治療などを含めた、再乱用防止や社会復帰支援策をも併せて充実させるべきだ」とう文言も盛り込まれた。

検討会の取りまとめ
検討会の取りまとめ
Rio Hamada / Huffpost Japan

治療や回復にどうつなげるのか

報告書はまた、覚せい剤など薬物事案の再犯率の高さに触れ、刑罰や司法の場から、本人の治療や支援に十分につながっていない点も指摘している。

「薬物依存症者が適切な治療や支援を受けられるよう、専門医療機関や相談所店の整備を進めるべき」とも提言。薬物依存にまつわるスティグマを解消し、回復や社会復帰を社会全体で支えていく取り組みの必要性にも言及した。

検討会ではまた、大麻取締法が禁止している、大麻から製造された医薬品の施用の見直しも議論された。

アメリカやG7諸国で、てんかんの治療薬として承認されていることを念頭に、「日本でも、免許制など流通管理の仕組みの導入を前提として、製造や施用を可能とすべきである」などと提言した。

依存症患者の中には、治療を求めて訪れた病院で、違法薬物の使用を理由に医師に通報されるケースもある。治療の機会が奪われたり、通報を恐れて治療に繋がれなかったりする現状もある。

この点について、報告書は「警察に必ず通報しなければならないという誤解が広まっている」という指摘を紹介。医師には守秘義務があり、一定の裁量があることを周知する必要性を示した。

委員の意見は?

検討会の委員には、薬物依存症の治療にあたる医師や刑事司法の研究者、メディア関係者などが選ばれている。

検討会で報告書が取りまとめられた後、意見や感想を求められた各委員から「規制強化や厳罰化するだけでは、薬物の根本的な解決にならない」「今後も一時予防で力を入れるべき」という声が上がった。

『使用罪』創設に反対を表明した委員は「大麻による健康被害よりも、刑罰の害が上回ってしまっている。犯した犯罪の重みとスティグマをどう考えたらいいのか、検討してもらいたい」と強調。「犯罪化して、少数を見せしめにするのも一つのやり方かもしれないが、安全を保ちながら治療を求められる世の中になってほしい」と訴えた。

別の委員も「大事なのは、罪人にしてしまうのでなく、必要な治療や後世の道が開かれるように力を注いでいくべき」と語った。

一方で、日本における違法薬物の生涯使用率の低さを理由に「今後も使用させないという一次予防に力を入れるべき」という意見や、使用者を減らすことにより重点を置くべきだという意見もあった。

検討会を振り返って、「依存症支援の現場でどう困っているのか、もっと発表する機会があればよかった」と、依存症の当事者や治療現場の声が十分に反映されていないという指摘もあった。

注目記事