「ユニクロへの捜査、日本政府に責任」 引退目前、山尾志桜里氏が人権関連法案を急ぐ理由とは

山尾氏は議員引退後も人権デューデリジェンスの法制化を目指す考えです。単独インタビューに答えました。
山尾志桜里議員(右)は人権DDの法制化を訴える
山尾志桜里議員(右)は人権DDの法制化を訴える
時事

「漫然と中国依存を継続することこそが、むしろビジネスのリスクです」

今期限りで国会議員としての活動にピリオドを打つことを決めている国民民主党の山尾志桜里氏(47)は、そう危機感をあらわにする。

彼女は今、サプライチェーンで強制労働や児童労働がないか確認し、防止策を講じる人権デューデリジェンス(DD)を企業に義務づける法案作りを急いでいる。

なぜ法整備が必要なのか。引退後はどうやって政策実現を目指すのか。

本人に聞いた。

インタビューに答える国民民主党の山尾志桜里氏
インタビューに答える国民民主党の山尾志桜里氏
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

社会が変わるのを待つか、制度で社会を変えるか

4月14日、衆院外務委員会。山尾氏が人権DDの法制化(ハードロー化)について政府の認識をただすと、茂木敏充外相の答弁はそっけないものだった。

「人権問題は企業の中でも重要であるという認識はできつつあると思うが、環境問題ほどの意識がまだ、日本においては高まっていない」

国内では気候変動問題に比べ、人権問題への関心は低いので、法制化は時期尚早という趣旨だ。山尾氏はハフポスト日本版のインタビューで、このときの質疑を振り返った。

「茂木さんは、まだ社会がついて来ていないので、もうちょっと待ってくれという感じ。でも、社会がついて来てないからこそ、ちゃんと政府が旗を振って制度化をして欲しいというのが私の認識なのです」

フランス検察はユニクロの現地法人の捜査に着手した(写真はイメージ)
フランス検察はユニクロの現地法人の捜査に着手した(写真はイメージ)
Getty

ユニクロはなぜ他国の捜査対象になったのか

新疆ウイグル自治区での人権侵害疑惑をめぐり、アメリカは問題のある「新疆綿」が使われているとして、1月にユニクロの綿製シャツを輸入禁止対象とした。

7月には、フランス検察が同社の現地法人の捜査に着手したことが発覚。他の日本企業にも影響が広がり、事態は深刻化している。

「日本政府がルールを決めてサポートしていないばっかりに、日本企業のユニクロが他国の捜査対象になっているわけですよ。その状況を放置していいんですか?」

山尾氏はそう憤る。

インタビューに答える国民民主党の山尾志桜里氏
インタビューに答える国民民主党の山尾志桜里氏
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

人権DD法案、どんな内容?

日本企業が国際市場で人権侵害への関与を疑われないよう、欧州のように法整備を進める必要がある。山尾氏が「シンクタンク戦略室長」を務める国民民主党は、そうした観点から、6月に人権DD法案の骨子を発表した。

・300人超の事業者に人権DDの報告書作成と公表を義務づける

・300人以下の事業者は努力義務

上記が基本内容で、具体的な条文は山尾氏が有識者などと協議しながら調整し、任期中の法案完成を目指している。

法案では、罰則をもうけない代わりに、人権DDの実施状況が「優良」と認定された企業には、政府が公共事業などで優遇するというインセンティブを与える。

各省庁に対しても調達先などの人権DDを義務づけるほか、企業の人権DDに資するよう政府が国内外の情報の収集や提供を行うことも盛り込む。

中国の国旗(イメージ)
中国の国旗(イメージ)
AFP

「ビジネスの中国依存はリスク」

「政府のサポート体制があるルールを作って、日本企業を守らなければならない。『ここまでやれば免責』という基準を整えてあげないと、企業にとって、これからマイナスの影響が積み重なっていく」

しかし、国内の大企業が加盟する経団連は、早急な法制化には慎重だ。サプライチェーンにおいて中国への依存度が高い日本企業にとって、人権DDの義務化で供給・販売ルートの見直しを迫られれば、経営への影響は避けられない。政府が法制化に消極的なのも、日本経済への影響が大きい中国を刺激したくないという側面がある。

そうした姿勢に、山尾氏は厳しい目を向ける。

「漫然と中国依存を継続することこそが、むしろビジネスのリスクです。日本が国際ルールを作る立場になっていけるのか。ちょっと機を逸している感がありますが、それでも遅ればせながら、今ギリギリのタイミングではないかと思っています」

【山尾氏と茂木外相の質疑応答(2分13秒)】

与党にも問題意識

自身が国会や超党派の議連で取り上げ続けたことで、与党にも問題意識が共有されつつあると、山尾氏は言う。自民党の「人権外交プロジェクトチーム」は5月、政府に法制化の検討を促す提言書をまとめ、菅義偉首相に手渡した。

「国民民主党の法案ができたらネット上でも公開して、どの政党にも参考にしていただけるような形で置いていきたい。ぜひ使ってください、という感じですね」

引退後、どうやって政策実現?

衆院議員を3期10年務め、6月に今期限りでの引退を表明。国会議員という立場を離れたあと、山尾氏はどうやって政策実現を目指していくのか。

「任期が終わった後は、私がずっと言ってきた『政策形成を永田町から解放する』というプロセスに、自分自身が永田町の外から取り組みたいなと思っています」

「ずっと野党という立場だったので、政府与党のパイプを通じて政策を実現した経験もなければ、数の力で成立させたこともありません。むしろ問題を可視化して、世論を動かすことで政治を動かして仕事をしてきたつもりです。そのやり方であるなら、必ずしも国会議員である必要はない。議員ではない方がむしろ、問題の可視化や提起をしやすいのではないかと感じています」。

【撮影・坪池順】

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