チョコの背後にある児童労働に「待った!」日本のNGOがガーナ政府を動かした。

大きな問題を解決するには、立場を超えて理解し合い、足並みをそろえて連携することが必要です。その真ん中で、日本のNGOが活躍しています🍫

「チョコレートの原料となるカカオ農家の子どもが、学校に通えず、危険な作業に従事している」。こんな話を、聞いたことがある人は少なくないだろう。

シカゴ大学NORC研究所が2020年10月に公表したレポートによると、世界の主要なカカオ生産国、コートジボワールとガーナをあわせて、約156万人もの子どもがカカオ関連の児童労働に従事しているという。チョコ好きなら、心が痛くなるような話だ。

カカオ農園で下草刈りをする男の子
カカオ農園で下草刈りをする男の子
©️ACE

SDGsの目標8・ターゲット7は「2025年までにすべての形態の児童労働を撤廃する」こと。この目標に向けて、今、日本のNGOが活躍している。

日本のNGO「ACE」が、ガーナ政府を動かした。

「児童労働フリーゾーン」とは?

ガーナ政府は、2020年3月に『児童労働フリーゾーン(Child Labour Free Zone )』構築のためのガイドライン」を発行した。

「児童労働フリーゾーン」とは、児童労働の予防と解決のための取り組みが進んでいる地域のこと。ガイドラインに基づいてガーナ政府が認定する。

ガーナ政府関係者や専門家とともに、このガイドライン作成の議論に参加していたのが、日本のNGO「ACE」だ。

1997年の設立以来、ガーナのカカオ産地で、児童労働をなくすための活動を続けてきたACEの20年来の経験が活かされたことになる。

内容は、児童労働を予防、是正する対策やしくみ、児童労働のないエリアを認定するルールなどで、おおまかに8つの項目に分かれている。

・コミュニティに児童労働がないことを定期的にモニタリングする仕組みがあるか

・子どものための学校の環境が整っているか

・自治体に貧困家庭の経済支援があるか

・子どもの就学、職業訓練を支援する制度があるか

今は完璧でなくても、取り組みを進めているエリアは段階的に評価される仕組みになっている。

「児童労働フリーゾーン制度」をつくるのは、ガーナ政府の国家行動計画だが、同時にACEの長年の構想でもあったという。

ガーナの行政関係者と議論する白木朋子さん
ガーナの行政関係者と議論する白木朋子さん
@ACE

消費者にはどう影響?

ガーナでは、国内で生産されたカカオ豆を、「COCOBOD(ココボード)」という政府組織が毎年一律、最低価格を決めて買い取る。よって、生産者に支払われる金額も一律で、価格は国際的な先物取引をベースに決まる。これが基本的な構造だ。

とはいえ、実は、例外もある。

立花商店(カカオ商社)の野呂謙友さんによると、ココボードと、カカオの買付のライセンスを持つ商社と、集荷業者と、3者が契約すれば、地域を指定したトレーサブルカカオ(追跡可能なカカオ)の取引は可能だという。

「トレーサブルカカオを買う場合は、トレーサブルプレミアムとして、金額を上乗せして取引されます」(野呂さん)

それなら今後、「児童労働フリーゾーン」指定のトレーサブルカカオを指定できれば、生産者に上乗せした金額を支払える。そこに、マークや表示があれば、消費者にもわかりやすいのではないかーー。色々なアイディアが、形になりそうだ。

ただし、「ガイドラインはあっても、きちんと実施されなければ、絵に描いた餅」と話すのは、調査チームの代表メンバー 白木朋子さん(ACE 副代表 )。今は、JICA(国際協力機構)が事業を立ち上げ、実施にむけた調査が進んでいる。

コロナ禍で遅れをとったものの、2021年6月にはガーナへの渡航がかない、ガーナ政府と連携しつつ、自治体やカカオ生産者とコミュニケーションをとっている。2022年6月末には最終レポートをまとめ、年内の普及を目指す。

児童労働フリーゾーンガイドラインのローンチイベント
児童労働フリーゾーンガイドラインのローンチイベント
@ACE

「企業の壁」をなくす挑戦

日本政府も、企業も、児童労働をなくすための活動をしている。

2020年1月には、JICAの主導で「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」が立ち上がった。ここでは、政府、企業、NGOが枠組みを超えて、カカオ産業が抱える課題解決を目指している。

メンバーには、ロッテ、森永製菓、Dari K、不二製油、立花商店などのチョコレート・カカオ関連企業のほか、フェアトレードジャパン、日本チョコレート・ココア協会といった団体や個人が名を連ね、現在は120を超えるメンバーがいる。(2022年3月時点)。

日本政府が発行する「SDGsアクションプラン2022」には、「児童労働の撤廃」という目標があり、JICAのプラットフォームについても言及された。今年2月4日には、新たに「児童労働分科会」がスタート。第一回のオンラインミーティングには、41名のメンバーが参加し、最新情報を共有した。

今後は、企業同士の協働を考え、日本企業として、何をすべきかを探っていく。

「大きな問題に立ち向かうには、大きな力が必要だ」

現在、多くの企業が、自社のサプライチェーンの中で、個別に支援を進めているのが現状だが、白木さんは、このアプローチの限界を指摘する。

「このままでは大きな問題は解決しない。企業もNGOも政府も、それぞれの視点から知恵を出し合い、協力しあわないと、児童労働や森林破壊のような大きな問題は、解決できないんです」

大きな問題に立ち向かうには、大きな力が必要だ。立場を超えて理解しあい、世界と足並みをそろえ、協力・連携することが、大きなインパクトにつながっていくだろう。

ドイツ、スイス、オランダ、ベルギー、フランスにも、児童労働撤廃を目指すプラットフォームがあり、日本との連携を望んでいる。ガーナ政府と日本が主導する「児童労働フリーゾーン」の実現にも、大きな期待がよせられている。

児童労働フリーゾーンガイドラインのローンチを発表するガーナの雇用労働大臣
児童労働フリーゾーンガイドラインのローンチを発表するガーナの雇用労働大臣
@ACE

カカオ生産者の生活水準をどう上げる?

児童労働の背景には、カカオ農家の貧困がある。農家の収入が低いことや、そもそもカカオの価格水準が低いことにも問題がある。

しかし、国際相場の仕組みにメスを入れるのは難しい。では、それを踏まえ、どうカカオ生産者の生活水準を上げるか。それがガーナの児童労働解決のための鍵となる。

2020年2月、JICAは他の開発機関と連携し、「COCOBOD(ココボード)」に、1億米ドル(日本円で約106億円)を融資した。これによって、カカオ栽培の技術改良をサポートしたり、バリューチェーンの改善を図る。国際援助を、どう有効に使うかも、課題のひとつだ。

児童労働をなくすには、現地とダイレクトに関わり、関心を持ち続ける必要があると、白木さんはいう。

支援がなくなった途端に元に戻ってしまったら意味がないんです。地域の人たちが自分たちの力で解決できるしくみ作りが必要。うまくやれてる?と声をかけるだけでも、改善につながることがあります。20年、続けてきたから、わかるんですよ」

世界第二のカカオ産地で、日本で消費されるカカオ豆の約7割を占めるガーナ。「児童労働フリーゾーン」認定制度がガーナで実現し、国際的に標準化すれば、他の国にも、カカオ産地以外にも応用できる。新しい取り組みに期待したい。

【取材、文・ 市川歩美 編集・中村かさね】

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