独身は半人前、「ゲイだとバレたら働けなくなる」元警察官が、“男社会”から抜け出した理由

昔ながらの「男社会」である職場で、「ゲイであるとバレたら、働けなくなる」と苦しんできた元警察官。慣れ親しんだ土地を出て初めて、パートナーシップ宣誓ができたといいます。
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元警察官のKOTFEさん(左)と元消防士のKANEさん
元警察官のKOTFEさん(左)と元消防士のKANEさん
KANE and KOTFE提供

京都府警の警察官だったゲイの勝山こうへいさんは2021年、16年間務めていた職場を辞めた。交際して10年の節目となったその年、東京都世田谷区に引越し、パートナーの平田金重さんとパートナーシップ宣誓をした。

長らく住んでいた京都市でも2020年に「パートナーシップ宣誓制度」が導入されたが、宣誓しようと思ったことはなかった。それは「バレたら、ここで働けなくなる」という不安があったからだ。

「警察は昔ながらの『男社会』で、ジェンダー差別や偏見が飛び交っていました。それに、独身の人は半人前扱いされていて。それも自分を追い詰める要因になっていたと、今は思います」と語るKOTFEさん。

今は警察官時代に感じてきたことを生かし、自身はKOTFE(コッフェ)、平田さんはKANE(カネ)として、YouTubeチャンネル『KANE and KOTFE』で日常を発信。 LGBTに関する講演活動や護身術の講師、シンガーソングライターなどとしても活動を始めた。

活動の背景にあるのは、「どんな職場にも、LGBTQ当事者はいる。誰もが当たり前に自分らしく働ける社会にしていきたい」という思いだという。

(全2回掲載。前編である元消防士・KANEさんのインタビューはこちらから)

◆家族、柔道、性…。「がんじがらめだった」

警察官だったころのKOTFEさん
警察官だったころのKOTFEさん
KANE and KOTFE提供

同級生の男の子を好きになったのは9歳の時だった。ドキドキするのと同時に、当時同性愛者は嘲笑の対象だったため「バレたら笑いのネタにされる…」という怖さを抱えた。またテレビで見る性的マイノリティの芸能人は女装している人が多かった。性表現が明確に男性である自分とは違っていて、ロールモデルがいない不安もあったという。

自分のことを正直に話せなかった背景には、大切な家族の存在もあった。

姉が2人いる3人きょうだいとして育ったが、KOTFEさんが生まれる前に亡くなった兄もいた。周囲の「お兄ちゃんの分まで、お母さんを2倍幸せにせなあかんで」「孫が見たい」といった言葉にプレッシャーを感じつつも、「お母さんにこれ以上悲しい思いをさせたくない」と思うと、本当のことを言えなかった。

そんな中で自分の助けになっていたのが、9歳の時に始めた柔道だった。しんどい時期もあったが、10代のうちはセクシュアリティについて、強く悩んだことはあまりなかった。

「今思うと、柔道に打ち込めていたから、それ以外のことにある意味向き合わずに済んでいたのかもしれません」

一方で柔道は相手との接触が多い競技でもある。自分はそういうつもりがなくても、「ゲイだと知られたらいじめられて、続けられなくなるかもしれない」。ゲイであることを隠さないといけないという思いを、より強くする側面もあった。

「いろんなことでがんじがらめになっていたんだと思います」と振り返るKOTFEさん。強豪の山梨学院大に進学し、京都府警に就職。柔道を生かせる職場だったことも大きかった。

◆男社会の職場、「普通」に追い詰められる日々

警察官の仕事はやりがいがあった。でも昔ながらの「男社会」の価値観は、どんどん自分を疲弊させていった。
警察官の仕事はやりがいがあった。でも昔ながらの「男社会」の価値観は、どんどん自分を疲弊させていった。
KANE and KOTFE提供

京都府警では、デモ警備や東日本大震災の行方不明者の捜索、京都アニメーション放火殺人事件での犯罪被害者支援などを担当。柔道を専門とする特別練習生として武道の指導もしてきた。苦しんでいる人の力になったり人々の生活を守ったりする仕事は、とてもやりがいがあった。だが仕事以外の側面は、「本当にしんどかったですね…」と振り返る。

組織の中は、昔ながらの「男社会」だった。「結婚して、1人前」「男尊女卑」といった価値観に基づいた会話が当たり前で、合コンに誘われることも多かった。

警察署は週に1回以上のペースで宿直勤務があり、上司や同僚と一緒に過ごすことも多い。その中で「結婚は?」「彼女おらんのか」と聞かれることは日常茶飯事だった。

KANEさんと交際している時も、女性に置き換えて「彼女、いますよ」と答えた。「よかった。“こっち”かもしれへんかと心配してたんや」と言われ、傷つくこともあった。

庁内での人権研修にLGBTQに関するものはなかった。陰で同僚のことを「あいつ、今流行りのLGBTらしいで」と、ニヤニヤしながらアウティングする上司もいた。

性的マイノリティは笑いのネタにされることも多く、「ゲイであることがバレたら、ここで働けなくなる」と感じた。外出などの私生活も気が抜けなかった。

職場では、家族を持てなければ半人前とされる風潮があり、法的に独身のKOTFEさんも、そのレッテルを貼られた。だからこそ、仕事は人の倍以上やるように頑張っていたと振り返る。

男性とは、女性とはーーといった、さまざまな「こうあるべき像」によって生きにくさを感じるのは、LGBTQ当事者だけではなかったのかもしれない。休職したり辞めたりする人も多く、仕事は増えていった。それでも「できない」とは言えなかった。自分は職場の価値観で見れば「半人前」だし、優秀であれば万が一ゲイだとバレても、なんとかなるかもしれないと思ったから。

毎日気を抜けず嘘を重ねる日々に、徐々に消耗していった。胃腸の調子が悪い時期が続き、不眠に陥りいきなり泣くこともあった。適応障害と診断され、休職することになった。

◆「男社会」や「体育会系」の価値観ではなく、自分らしくを当たり前に

今後どうするかーー。これ以上、自分を偽って生きるのは嫌だった。KANEさんと相談の上、2人で職場を辞めることを決めた。

自分たちがゲイであることを公にして生きようと決め、昨年の10月に東京での生活を始めた。

KOTFEさんは現在、YouTubeでの動画投稿のほか、LGBTに関する講演活動や護身術の講師など、さまざまな活動をしている。大切にしているのは、「誰もが当たり前に輝ける社会にしたい」という思い。これまで、いろんな生きづらさを感じてきたからだ。

YouTubeやTwitterでは、KANEさんと水族館でデートをしたり、美味しいものを食べたりといった等身大の日常を発信。交際10年の節目には東京都世田谷区でパートナーシップ宣誓をし、動画におさめた。KOTFEさんは「多くの人にゲイは特殊な人ではないんだよと、当事者にはこんな幸せな未来もあるよって伝えたいです」とほほ笑む。

また元消防士であるKANEさんとともに、自分たちの経験を生かして「どんな職場にもLGBTQ当事者はいる」と伝え、ゆくゆくは警察や消防などを変えていきたいという。

「男社会」や「体育会系」では、恋愛は男女間が当たり前で、ジェンダー観が前時代的で、結婚して一人前という価値観が根強く残っていると感じる。

警察官として働いていた16年間の勤務の中で、ゲイだと明かして働いている人は見たことがなかった。困っている人や人権に向き合う警察官という仕事だからこそ、マイノリティの思いを少しでも分かってほしいと願う。

私生活も昔は「警察官らしい」格好をしていたが、髪色も金や青など、好きな色にして楽しんでいる。幼少期からの夢だったシンガーソングライターとしても活動を始めた。LGBTQ当事者だからこそ感じるメッセージを曲に込め、プライドイベントなどで歌っていきたいという。

やりたいことを思い切りやっている中で感じることがある。

「今、本当に楽しい。でも昔の自分たちのように、周囲の環境などでそれが難しい人もたくさんいると感じます。時に仕事を辞めるなど、大きな選択を迫られる人もいます。そんな社会を少しずつ変えていきたい。自分らしい生き方が当たり前になったら、みんな笑顔になれると思うんです」

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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