フードロス削減に選択肢を。業界の壁を越え、食品メーカー8社がコラボ。アップサイクル商品を開発

大手食品・飲料メーカーが競合同士の垣根を越え、手を取り合った。食品をつくる際にどうしても出てしまう廃棄物。なんとか活かせる手立てはないものか…。食品メーカーらしく、美味しくて楽しめるアップサイクル商品の共同開発に挑む。悩みつつも、フードロス解決を目指す。

競合8社が手を取り合った アップサイクル商品

大手食品メーカー8社が参画する食の共創コミュニティ「Food Up Island」(以下、FUI)は3月、参画メーカーが共同開発したアップサイクル食品をお披露目する。

お披露目される試作品はカカオ豆の皮(カカオハスク)を使ったビールや、絞った後のトマトジュース原料を練り込んだチーズなど8種類にのぼる。今のところ発売予定はなく、イベント会場限定での試食のみ。開発に関わったメンバーの説明もある。イベントはこちら

カカオハスクやモナカの切れ端を使ったビールの試作品
カカオハスクやモナカの切れ端を使ったビールの試作品
Ryo Fujita

フードロスをなんとかできないか 業界として模索

FUIは4年前に立ち上がった。
キリン、サッポロ、カゴメ、ニチレイ、森永製菓、森永乳業、亀田製菓、カルビーの8社から、研究開発やマーケティングなどの担当者が集まる。

活動の狙いは2つある。
ひとつは、企業の枠を超えて手を取り合うことで、食品業界特有の課題や社会的な課題に向き合おうというもの。もうひとつが、食品メーカーらしく、食の「ワクワク」を伝えていこうというものだ。

Food Up Islandのロゴ
Food Up Islandのロゴ
Food Up Island

現在、FUIが取り組むのは、フードロスの解決。

日本で廃棄される食品は年間522万トンに及び、その多くは可燃ごみとして処分される。運搬、焼却でCO2を排出し、環境負荷にも繋がる。

その中で、彼らが注目したのは、製造工程で出てくる原料の残りかすだった。
既に、各社が家畜動物の飼料や農作物の肥料として有効利用しているが、再び食品に加工する「アップサイクル食品」に挑戦することを考えた。

互いの技術やノウハウを活かすことで、A社にとっては利用できなくなったものでも、B社がそれを原料に商品をつくることができる。食品として世に出すことで、FUIの理念でもある「食のワクワク」を消費者に伝えつつ、フードロスへの課題意識を共有する狙いだ。

アップサイクル食品開発に向け、メーカー各社が「原料持ち寄ろう会」を開いたときの様子
アップサイクル食品開発に向け、メーカー各社が「原料持ち寄ろう会」を開いたときの様子
Food Up Island

立ちはだかる壁に「くじけそうになる」も、まずは一歩目

開発は一筋縄ではいかなかった。メーカーごとの基準の違いや、衛生面のハードルが立ちはだかった。

例えば、カカオ豆の皮(カカオハスク)を使ったビール。

カカオ豆由来の原料など。上段奥がカカオハスク
カカオ豆由来の原料など。上段奥がカカオハスク
Food Up Island

カカオ豆自体はチョコレートの原料として一般的だが、その「皮(ハスク)」が食品に利用されることは稀だ。食品の衛生基準の根拠となるデータも乏しい。さらに、海外の複数農園で生産されたカカオ豆が、輸入段階でひとつに合わせられているため、生産過程のトレーサビリティを困難にしている。

食品企業が課す厳しい自主基準をクリアするには、カカオハスクはハードルの高い素材だった。

FUIメンバーで森永製菓の伊東恵梨子さん(26歳)は「くじけそうになることもあった」と明かすが、開発は止めなかった。初期の試作が「あまりに美味しかった」ため、なんとしても消費者に届けたいという想いが支えだった。

安全や安心を最優先にし、実際の残りかすではなく、基準をクリアするカカオを仕入れることで対応した。

FUIメンバーの伊東恵梨子さん
FUIメンバーの伊東恵梨子さん
Ryo Fujita

「想定外のハードルだらけで、商品化も相当に厳しいです。でも、プロトタイプをつくってみないと、その次のステップには進めないと思ったんです。これがきっかけで、アップサイクル商品の機運が高まるかもしれません。自分たちがまずは一歩を踏み出さないと」

その一歩の先は「第二の酒粕」に繋がると、伊東さんは言う。

酒粕は「もろみ」から日本酒を絞った後に残るものだ。
かす汁や甘酒の材料として一般的に使われているが、原料の残りかすという見方もできなくはない。食品としての市民権を得ているからこそ、廃棄ではなく利用前提の製造プロセスが設計され、衛生基準も確立されている。

カカオハスクでの経験から、そんなことを考えさせられた。

「全てに当てはまるかは分かりませんが、酒粕に続け!という気持ちです。これまで捨てられる運命にあったものも利用できないか、考え方やルールを変えていけないかなと思います」

取材に応じる伊東さん
取材に応じる伊東さん
Ryo Fujita

「まずは選択肢を示すことが重要」 エコシステム化に期待

ESG投資やサステナビリティが専門で、食料・農業・農村基本法の改定の検討にも携わる吉高まりさん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング フェロー、東京大学教養学部 客員教授)は、消費者にとって選択肢を増やすことが重要だと話す。

「コロナ禍やウクライナ情勢といった変化によって、食料安全保障や物流などの問題が浮かび上がってきた。環境の持続可能性や気候変動の脅威に対する不安も高まっている食を見直そうという意識は、自然と高まりつつある。そういった意識に応えらえる選択肢はもっとあっていいはずだ」

アップサイクル食品を示すFUIの取り組みを評価しつつ、さらなる広がりが必要だと指摘する。

「フードロスも、食料安全保障という観点で待ったなしの課題。今回、選択肢を示したことは歓迎するべき。いまは食品加工メーカー数社での取り組みだが、業界全体が取り組めばインパクトも大きい。物流や小売といったサプライチェーン全体にも広がって、エコシステムに繋がっていくことを期待したい」

消費者の意識変化に呼応するかたちで小売業も変わりつつあり、その兆しもあるという。

課題や悩みはあれど、食は楽しんでもらってこそ

FUIメンバーの伊東さんは、今回のアップサイクル食品はバラ色の答えではなく、ほんの一歩目に過ぎないと話す。

「アップサイクル商品は確かにフードロスには寄与できるんですが、それだけじゃなく、例えば、その原料の運搬や、加工にかかるネルギーなど、トータルの環境負荷も考えないといけないよね、とメンバーで話しています」

サプライチェーン全体への広がりの必要性を、現場メンバーも感じている。競合同士が手を取り合ったことは食品加工業界にとっては前進だが、乗り越えるべきハードルはまだ多く、悩みは尽きない。

「だけど」と伊東さんは続ける。
「悩みや葛藤もありますが、つくり手としては、食を楽しんでもらえることを一番大事にしています。肩肘張らず、味わって頂けたら幸いです。そして、食べ手のみなさんと一緒に、食の未来を考えていけたら嬉しいです」

イベントは、3月25日に東京での開催。事前予約制。
(URL|https://foodupisland230325.peatix.com/

Food Up Islandのメンバーら
Food Up Islandのメンバーら
Food Up Island

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