「息子と同じく死を選ぶ教員いるのでは」中学校教員の息子は27歳で過労死。父が今、教員の労働環境に思うこと

「学校は長時間労働を異常と思わない職場。教員同士でサポートできない負の環境にある」(嶋田富士男さん)

「全国の教員の中には、息子と同じように行き詰まって、死を選ぶ人がいるのではないかと心配している」

5月下旬、東京都内で開かれた記者会見でそう訴えたのは、嶋田富士男さん(63)。

息子の友生さんは公立中の教員だったが、過労の末に27歳で自死。長時間労働の背景に、教員に残業代を支払わないと定める法律(給特法)の問題点があると指摘し、教員の処遇や働き方の抜本的な改善を求めた。

東京都内で記者会見する嶋田富士男さん(中央、5月26日午後)
東京都内で記者会見する嶋田富士男さん(中央、5月26日午後)
金春喜 / ハフポスト日本版

「給特法により、全てが曖昧に」

友生さんは2014年、新任教諭として福井県若狭町立中に勤務していた。富士男さんによると、「最長で月161時間働き、1カ月で2カ月分もの仕事をしていた」という。

友生さんは日記に「今、欲しいものはと問われれば、睡眠時間」「疲れました。迷わくをかけてしまいすみません」などと書き残して、同年10月に自死した。27歳だった。

公立中での長時間労働の末、自ら命を絶った嶋田友生さん(享年27)
公立中での長時間労働の末、自ら命を絶った嶋田友生さん(享年27)
金春喜 / ハフポスト日本版

2016年9月、公務災害と認定された。

富士男さんは福井県と若狭町を相手取り、提訴。福井地裁は2019年、校長に安全配慮義務違反があったとして、県と町に約6500万円の支払いを命じた。

判決では、友生さんが4~9月、夏休みの8月以外は所定の勤務時間外に月約120時間以上在校し、授業の準備や部活動の指導などをしていたと認定。過重な業務によって精神疾患を発症し、自殺に至ったと結論した。

「学校は長時間労働を異常と思わない職場。教員同士でサポートできない負の環境にある」

富士男さんは会見でそう指摘。その上で、1971年に制定された給特法が友生さんの死の背景にあると訴えた。

給特法は、公立学校の教員の給与について定める法律。教員の月給の4%を「教職調整額」として一律に上乗せして支給する代わりに、残業代は支払わないと定めている。同法により、教員の残業時間に見合った残業代が支払われない実態は、「定額働かせ放題」などと揶揄されてきた。

富士男さんは教員の長時間労働について「給特法により、全てが曖昧にされているのが現状」とした上で、友生さんの死について「そういう環境下の事件だったと忘れてほしくない」と強調した。

「今、欲しいものはと問われれば、睡眠時間」と書き残された友生さんの日記帳
「今、欲しいものはと問われれば、睡眠時間」と書き残された友生さんの日記帳
給特法のこれからを考える有志の会

教員の長時間労働「無責任にパス回し」

友生さんが亡くなってから8年たった今も、教員の長時間労働の改善は道半ばだ。

文部科学省がまとめた公立校教員の2022年度の勤務実態調査の結果(速報値) によると、教員の平日1日あたりの勤務時間は小学校で10時間45分、中学校で11時間1分で、ともに前回の2016年度と比べて約30分減った。ただ、1カ月あたりの時間外勤務が文科省の定める上限基準(45時間)を超える教員は中学校で77.1%、小学校で64.5%を占めた。

「(前回調査と比べて)全国的に大きく減っていないということは、根本的な部分に問題があると考えざるを得ない」

この日、富士男さんとともに記者会見を開いた現役の公立高教員、西村祐二さんらを中心とする、教員の長時間労働の改善や給特法の「抜本的な改善」を国に求める団体は、調査結果で明らかになった残業時間についてそう指摘。

記者会見する西村祐二さん(5月26日午後)
記者会見する西村祐二さん(5月26日午後)
金春喜 / ハフポスト日本版

学校現場の働き方改革のコンサルティングをするワーク・ライフバランス(東京)の小室淑恵社長は、教員の長時間勤務の解消は「無責任にパス回しされてきた」と苦言を呈す。

自民党は給特法をめぐり、教員の残業代の代わりに月給に一律で上乗せする「教職調整額」を現在の4%から10%以上に引き上げる方針を提言している。

これについて、西村さんは「基本給や手取り額が不満とは、誰も言っていない」と強調。その上で、「残業の抑制という、給特法を見直す目的を見失わないでほしい」と訴えた。

立教大学の中原淳教授(右から2番目)、ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長(同3番目)
立教大学の中原淳教授(右から2番目)、ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長(同3番目)
金春喜 / ハフポスト日本版

「調整額が10%になったから『早く帰ろう』という教員や、『教員になろう』と思う若者はいない」

立教大学の中原淳教授はそう指摘した上で、「世間は『10%になったからもっと働け』との認識になるのでは」と危惧。

「調整額の引き上げは正しい課題解決ではない。長時間労働や人手不足は変わらない」と警鐘を鳴らした。

〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉

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