「LGBTQコミュニティに、深刻な被害をもたらし得る」。衆院通過の理解増進法、法連合会は「今のままでは成立に反対」

性的マイノリティの人権保護を目的に、成立が要望されていた「LGBT理解増進法」。だが改悪を繰り返し、LGBT法連合会が、「当事者コミュニティにとって、深刻な被害をもたらし得るものである」と表明するにまでいたった。
『LGBT法連合会』の神谷悠一事務局長(左)と林夏生代表理事
『LGBT法連合会』の神谷悠一事務局長(左)と林夏生代表理事
Takeru Sato / HuffPost Japan

「LGBT理解増進法案」が6月13日、衆議院で通過した。法案には「全ての国民の安心に留意する指針を、政府が策定する」という条文が加わった。

有識者によると、「国が自治体のパートナーシップ制度や差別禁止条例、学校でのLGBTQに関する教育などを抑制できるようになる」危険性がある

性的マイノリティが生きやすい法整備を目指す『LGBT法連合会』は同日、緊急声明を発表。「このままの法案が成立することは、当事者コミュニティにとって、深刻な被害をもたらし得るものである」とし、参議院での審議を行わないよう要望した上で、現状のままの法案成立に反対した。

◆「理解増進法案」の問題点は?

法案は、自民・公明の案に、日本維新の会、国民民主両党の主張を取り入れつつ修正したものだ。21日の国会会期末までに成立する可能性が高い。

法案の中で最も問題とされているのが、以下の部分だ。

第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。

有識者によると、この条文は「政府や自治体、学校などで『多数派が“安心“できる範囲』でしか理解を広げない」という解釈が可能になるという。

そもそも、この法案は2月の首相秘書官の差別発言を受け、性的マイノリティの人権擁護を目的に求められてきたものだ。

だが自民党の古屋圭司氏(衆院岐阜5区)は自身のブログで「この法案はむしろ自治体による行き過ぎた条例を制限する抑止力が働く」と発信。

自民党の保守系議員らは、この法案について、LGBTQ当事者の人権保護ではなく、規制の道具としてとらえているようだ。

こうした経緯や法案の内容について、LGBT法連合会は「当事者にさらなる生きづらさを強いるものである内容となっている」と非難。「当事者の差別や困難をなくす取り組み自体を『規制』する動きに対して、正統性や法的根拠を与えるものとなる。これは断じて看過することはできない。このまま可決されることは、決して許されない」と表明した。

◆LGBT法連合会、声明全文

2023月 6月 13日

「理解増進法」の衆議院可決に警鐘を鳴らす声明

一般社団法人 性的指向および性自認等により
困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(略称:LGBT法連合会)
理事一同
(団体 URL:https://lgbtetc.jp/)

2023年6月13日、衆議院本会議において、いわゆる「理解増進法」が本会議で可決された。この法案は、私たちの求めてきた法案とは真逆の内容であり、当事者にさらなる生きづらさを強いるものである内容となっていることを、強く非難する。この法案は、当事者にとっての「暗黒時代」の到来につながるものとして、最大限の警鐘を鳴らし、今が緊急事態であること、このままの法案が成立することは、当事者コミュニティにとって、深刻な被害をもたらし得るものであることを、この声明をもって表明する。

法案は、日本維新の会と国民民主党が提出した法案をベースにしながら、自由民主党と公明党との協議を経て、教育に関わる条文の文言修正と、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意するものとする」とする条文に「この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする」との条文を加えたものである。この「留意」は、もともとの「多数派への配慮」規定に対して、当会などの批判を受け、規定ぶりを「修正」したものと受け止めている。しかしすでに識者から指摘のある通り、実質的に多数派に配慮する規定として機能すると解される。今回の修正で更に指針を設ける規定が加えられたことにより、この留意事項や指針が、この法律が規定する国、地方自治体、事業者、学校の教育啓発や相談体制の整備などすべてに適用されるそうである。

かねてから与党議員のブログでは、当初の「理解増進法」与党案を使って自治体の先進的条例を制限する抑止力とする、ということが表明されていた。加えて、別の与党議員は「理解増進法」の4党修正案を使い、先進的な教育実践を「規制」するためにこの法案を使うと表明している。この法案については、法学者らから大きな懸念が示されており、当事者の差別や困難をなくす取り組み自体を「規制」する動きに対して、正統性や法的根拠を与えるものとなる。これは断じて看過することはできない。このまま可決されることは、決して許されないと表明する。

当会は、そもそも差別禁止法の制定を求めてきたのであり、理解増進に留まる法案については、一昨年に「辛うじて評価のできる内容」としていた。しかし、今回可決された法案は、当事者の方向を全く向いておらず、むしろ、差別をする側、困難を与える側の方向を向いて配慮をする、全く逆の法案である。日本においてLGBTに関する法の制定を心待ちにしてきた多くの当事者を裏切るものであり、国際社会や、日本社会の多くの支援の輪の広がりに対して、敵対的な位置付けの法案であると言わざるを得ない。

以上から、当会は、このままの内容で法案を通そうとる国会におけるあらゆる動きに対して、①成立に反対し、②参議院における審議を行わないよう強く要望し、③廃案とすることもやむ無しの姿勢をもって、全力でこの危機に取り組むことを表明する。

以上

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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