不登校経験のある運転士が発案。小田急がオルタナティブスクールを開校する理由

9月5日、小田急電鉄によるオルタナティブスクール「AOiスクール(アオイスクール)」がプレ開校する。なぜ鉄道会社が不登校支援に取り組むのか。
小田急電鉄運転士の鷲田侑紀さん(左)と別所尭俊さん(右)
小田急電鉄
小田急電鉄運転士の鷲田侑紀さん(左)と別所尭俊さん(右)

日本では不登校の子どもが9年連続で増加しています。文科省の調査によると、全国の不登校児童生徒数は、小中学生合計で24万4940人(2021年度)です。

この課題に対して、今秋、小田急電鉄がオルタナティブスクール「AOiスクール」(神奈川県藤沢市)をプレ開校することを発表。6月末まで実施されたクラウドファンディングでは、目標額を上回る259万2000円を達成しました。

オルタナティブスクールとは、「新たな選択肢の学校」という意味で、学校教育法第一条に定められた学校以外の教育の場をさしています。

プロジェクトの発案者は、自身も不登校の経験がある現役運転士2人、小田急電鉄の別所尭俊(べっしょ・たかとし)さんと鷲田侑紀(わしだ・ゆうき)さんです。

なぜ鉄道会社が不登校支援に取り組むのか。「AOiスクール」発案のきっかけや、プロジェクトに込められた思いについて、別所さん、鷲田さんのおふたりに話を聞きました。

不登校の子どもが笑顔になれる場所を

「生きる力を失っていたような子どもたちが、次の目標をもって動き出す様子を見て、『好きなこと』を大事にする学びの力を実感しました」

そう話すのは、今回のプロジェクト発起人の1人、小田急電鉄の現役運転士である鷲田さんです。

同じく小田急の現役運転士である別所さんとともに不登校支援事業を進めるにあたって、「好きなこと」への思いを強くしたのは、実際に不登校の子どもたちと接したときでした。

プロジェクトスタート直後の2022年、2人は不登校の子どもと保護者・支援者の話を直接聞こうと、藤沢市にあるフリースペースを訪問しました。

そこでは大人が子どもに何かをするように指示するのではなく、子どもたちが自分で考えて、それぞれ好きなことに打ち込んでいました。

学校でつらい思いをして不登校になった子どもたちの笑顔や、何かに夢中になっている姿を見て、「こんな場所を作りたい」と強く感じたといいます。

不登校を「学びの可能性に」

AOiスクール 公式サイト
小田急電鉄
AOiスクール 公式サイト

「AOiスクール」の公式サイトには、次のようなメッセージが書かれています。

<“不登校”は、好きなことを突き詰めるチャンスなんだ、って。
学校以外のセカイでも、“学べる可能性”がある時間なんだ、って。
そう、伝えたいんです>

心の底からやりたいことなら力がわいてくるし、やり遂げることができる。それは別所さんと鷲田さんの実体験でもありました。

中学時代に不登校を経験した別所さんは、学校に行こうとすると腹痛や頭痛が起き、やがて学校に行けなくなりました。そんなとき「鉄道に乗ったり、鉄道について調べたりすることが支えになった」と話します。

一方、鷲田さんは鉄道を好きなことが恥ずかしいような気がして、家族にも話すことができませんでした。しかし高校時代に不登校を経験したことをきっかけに、自分の「好きなこと」に向き合い、進路の選択につながりました。

「いつか不登校支援を」と語り合っていた

別所さんと鷲田さんは、2017年に小田急電鉄に入社しました。

2人とも不登校経験があるといった共通点もあり、「公私ともに一緒にいる時間がとても多かった」と言います。一緒に鉄道旅行をしたり、お酒を飲みに行ったりするなかで、自然と「不登校という社会課題に対して、何かしたい」という話が出るようになりました。

小田急電鉄には「Odakyu Innovation Challenge“climbers”」(小田急イノベーションチャレンジ・クライマーズ)という、社内事業アイデア公募制度があります。

「2021年の7月に応募しましたが、そのときは書類審査で落ちてしまいました。その後、手直しをして同じ年の11月に再応募をして、採用されました」(別所さん)

同時期の2021年11月、小田急電鉄は「子育て応援ポリシー “こどもの笑顔は未来を変える。Odakyu パートナー宣言”」を発表しています。

別所さんは、この準備会議にも手を挙げて参加していました。「子どもや子育て世代の方を大切にしたい」という思いは、運転士の仕事を通して常に感じているといいます。

あえて「オルタナティブスクール」に

鷲田侑紀さん(左)と別所尭俊さん(右)
小田急電鉄
鷲田侑紀さん(左)と別所尭俊さん(右)

AOiスクールの名前は「Alternative school」(オルタナティブスクール)、「Odakyu」(小田急)、「interest」(興味・関心)の頭文字からつけられています。

オルタナティブスクールは「新たな選択肢の学校」のことで、広い意味ではフリースクールも含まれます。

ただ、一般的に「フリースクール」は不登校の子ども向けの居場所や学習支援を行う民間施設をさしているのに対し、「オルタナティブスクール」はモンテッソーリ教育イエナプラン教育などに基づいた多様な学びの場のことをさして使われます。

不登校の子どもが増えるなかで、近年、学校以外の選択肢としてフリースクールの存在が知られるようになりました。しかし、AOiスクールはあくまで「オルタナティブスクール」を掲げます。

これには、別所さんのある経験が反映されています。別所さんは、不登校のときにフリースクールをすすめられたこともありましたが、自分自身が不登校だと認めてしまうような気がして行くことができなかったからです。

自分も他者も尊重できる場所に

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2人は、AOiスクールの準備段階で、不登校支援を実践している人たちに会いに行き、様々なことを学びました。

「その際にすすめられたのが、教育哲学者・苫野一徳さんの本です。何冊か読むなかで、『自由の相互承認』という言葉に出会いました」(鷲田さん)

「自由の相互承認」とは、もともとはルソーやヘーゲルが提唱した哲学の言葉で、苫野さんは「その感度をはぐくむことが教育の本来の目的である」と説いています。

<相手を対等に「自由」な存在と認め合うこと。そのうえで暴力によらずに調整しあうこと。

(中略)公教育のおかげで、現代のわたしたちは、「自由の相互承認」という言葉は知らなくとも、(中略)どんな人種の人も、どんな国の人も、貧しかろうが裕福だろうが、誰もが同じ人間だという価値観や感受性を持っています>

苫野一徳『「学校」をつくり直す』(河出新書/P.87、88)

「AOiスクールが大事にすること」はふたつあります。

ひとつ目が「I’m OK. You’re OK.」です。これは、別所さんの高校時代の恩師が言っていた言葉。自分も他者も否定しない、人間関係における考え方のひとつです。

「苫野さんの書籍の『自由の相互承認』と恩師の言葉がつながって、目指すべきものはこれだと思いました」(別所さん)

そして、ふたつ目が「小田急の仕事」です。

グループが手がける幅広い事業内容を活かして、「鉄道」や「まちづくり」など、様々な仕事を子どもたちにつたえ、実感してもらうことを目指しています。

「鉄道ひとつとっても、どうして動くんだろう…と突き詰めると、電気や物理の知識につながります。鉄道会社に目を向ければ財務や都市計画など、鉄道から広げるだけでも、たくさんのことを学べます」(鷲田さん)

また、将来的にはオンラインスクールも視野に入れています。

不登校の子どもたちのなかには、地域の学校の中で同じ興味関心を持つ仲間がみつけられない子どもも多くいます。

「鉄道好きの子どもたちは日本中にいます。ただ、子どもの場合、自由に遠くに行くことは難しい。オンラインを活用すれば、物理的な距離を超えることができますし、好きを分かち合える仲間が全国にいることを実感できます」(別所さん)

「まずは鉄道が中心になりますが、例えばアニメやゲームなど、AOiスクールを、いろいろな“好き”に答えられる場所にしていきたいです」(鷲田さん)

(取材・文:朗子 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

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