「いい歳なんだから」のエイジズムは未来の自分に返ってくる。年齢バイアスを構造から変える時代が来た

超高齢社会は本当にネガティブなのか。エイジウェルとエイジテックがもたらす未来

「もういい歳なんだから」。他人の能力を知りもしないのにラベリングし、行動を規制し、尊厳を奪う言葉は、未来の自分に返ってくる。「この歳でそれをするのは...」。偏見は自らをも蝕み、挑戦する気力や可能性を抑え込んでしまう。

エイジズム──年齢に基づく偏見や差別は、誰にとっても他人事ではない。そして莫大な社会的損失を引き起こす。

超高齢化した日本で、エイジズムを変えていくには何が必要だろうか?

そのヒントをビジネスの観点から示唆するイベント「Age Well Japan 2023」が10月、都内であった。

エイジズムを打破する価値観を手に入れる

主催したのは、Z世代によるシニア世代へのサポートサービス「もっとメイト」を運営するAgeWellJapanと、シンガポールを拠点にビジネス開発を手掛けるVivid Creations。

終日にわたって開催されたパネルディスカッションや講演、シニアダンスチームのパフォーマンスに通底していたのは、挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる「Age-Well」という価値観だ。

高齢社会のウェルビーイングを実現するスタートアップ企業も参加し、6社がピッチを披露した。

ヘルスケアの習慣化アプリ「みんチャレ」の開発・運用を軸に事業を展開する「エーテンラボ」は、自治体と協働しているフレイル(※)予防やデジタルデバイド(※)解消の事例を紹介。アプリを通じたソーシャルキャピタルの形成が、シニア世代の孤独対策にもつながっている、と説明した。

介護福祉に特化したマッチングサービス「Sketter」を提供している「プラスロボ」が目指すのは、昭和初期にあったような近所的機能、擬似家族コミュニティだ。「令和の互助インフラ」をミッションに掲げ、誰もが自分のできることで、ちょっとした空き時間を使って介護に関わる「1億総福祉人」の世界をつくりたい、と語った。

※フレイル...健康な状態と要介護状態の中間の段階

※デジタルデバイド...インターネットやパ ソコンなどを利用できる人と利用できない人との間に生じる情報格差

パフォーマンスを披露したダンスチーム
photo by Naoko Kawamura
パフォーマンスを披露したダンスチーム

カンファレンスの最終セッションでは、CX(顧客体験)デザインや事業変革を手掛ける「顧客時間」共同CEOの岩井琢磨氏、奥谷孝司氏が登壇し「Age-Well Innovation エイジウェル イノベーション」をテーマに語り合った。

2人は岩井氏が共著者として参加した「イノベーションの競争戦略」(編著:内田和成・早稲田大名誉教授)を引用しつつ、人々の行動が変わるイノベーションを引き起こす「3つのドライバー」を解説。

エイジウェルイノベーションにおいては、

Age-Ismエイジズム:年齢による偏見、差別。社会構造にある課題 に

Age-Techエイジテック:高齢者や介護従事者のニーズや課題に合わせて設計されたデジタルソリューション。高齢者に関わる人々のために作られたテクノロジー を組み合わせることで、

Age-Well エイジウェル:「挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる」という新たな価値観 が生まれる

というフレームを示した。

人々の心理変化(「Age-Well」という価値観の浸透)で、新たな市場(「Age-Well市場」:ポジティブに歳を重ねる行動を支援する市場)が生まれ、社会が変わっていく。

AgeWellJapan提供

エイジズムは社会的規範に紛れ込み、どの年代にも向けられている。例えば「何歳までに結婚を」というように。そして個人の内面には「自分もこうあらねばらない」という感情の抑圧が起きる。

誰もが年齢に関係なく、ありのままの自分で生きていくために、エイジテックはどう貢献するのか。

奥谷氏は「エイジテックのテクノロジーが必ずしも最先端である必要はない」とした上で、海外のフェムテック、フィンテック領域の潮流にも触れ「キーワードはオーセンティシティ(Authenticity)。スマートネスだけでなく、使う人の課題を解決し、ウェルビーイングを維持できるようなテクノロジーが受け入れられている」と説明。

岩井氏は「テックには、テクノロジー(科学技術)だけでなく、テクニック(人的技能)も含まれる。テクノロジーを運用する人たちの技術(=テクニック)がなければ、Age-Wellな社会には近づかない」と、関わる人の大切さを語った。

AgeWellJapan 提供

言葉が生まれ、世の中の見え方は変わる

さらに、エイジズムを打破するAge-Wellという言葉、Age-Well市場の可能性に言及。

岩井氏は「蓄音機に商業的価値は全くない」(エジソン)、「俳優の声を聞きたいと思う人などいるわけがない」(ワーナー)といった、偉大なイノベーターの残した言葉を例に挙げて「彼らの価値を下げるものでは全くない。ただ、心理変化が起きた時の爆発力を過小評価した」と、未来を予測する難しさに触れつつ、Age-Well市場の「可能性にどれだけ賭けるか。パラダイムが変わった時に、新しい競争原理の中で先頭を走ることが、いかに自分の将来をつくるために大事か」「イノベーションの先駆者として市場を創り、社会を変える主体者を目指してほしい」と参加者らにエールを送った。

奥谷氏は「言葉が生まれることで世の中の見え方が変わる。人々の心理を変えていくことが、世の中を良くしていく。僕らは、生まれてから死ぬまでAge-Wellでいたい。Age-Wellはどの世代にも通じる普遍的なテーマだ」と語り、Age-Well市場の広がりに期待を寄せた。

(取材・文=川村直子/ハフポスト日本版)