勤務時間外のメールチェックはもう終わりにしよう。署名に「ウェルネス文言」を付けるのがアメリカで流行の兆し

リモートワークやハイブリッドワークの導入により、今や多くの労働者にとって仕事とプライベートの時間の境界線が曖昧になっている。これに対抗するため、ビジネスメールの署名に自分の勤務時間を記載したり、相手の都合の良い時間帯に返信してくれて構わないと明記したりする人が増えている。
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Xsandra via Getty Images

ワークライフバランスを重視し、口先だけでなく行動でもその意思を示したいなら、ビジネスメールの署名に”健康的な生活を送る”という意思を伝える「ウェルネス文言」を付け加えるのはどうだろう?

リモートワークやハイブリッドワークの導入により、今や多くの労働者にとって仕事とプライベートの時間の境界線が曖昧になっている。

この状況に対抗するため、ビジネスメールの署名に自分の勤務時間を記載したり、相手の都合の良い時間帯に返信してくれて構わないと明記したりする人が増えている。

例えば、私のある同僚は自分の名前と肩書きの下に、短い「ウェルネス文言」を添えている。

「私の勤務時間は通常、月曜日から金曜日の午前8時30分から午後6時(米東部時間)です。もしこの時間帯があなたの勤務時間外である場合は、この時間帯に返信する必要はありません」

こうした署名のあるメールを受信した人の中には、気に入って真似したいと思う人もいる。

バーチャルアシスタントサービスを運営するヤングさんもそのひとりだ。彼女の署名にはこう書かれている。

「私は個人の時間、周りの世話、休息のための境界線を尊重します。もしあなたがこれらをしている最中にこのメールが届いた場合は、自分の時間を優先し、職場やコンピューターの前に戻るまで返信するのを待ってください」

他にも、主に育児について執筆するフリーライターのセント・エスプリさんは、返信が遅れる場合があることを事前に伝えている。あるクライアントから「返信が遅い」と不満のメールを受け取って以来、4児の母で多忙な彼女は、署名に注意書きを加えた。

「アメリカが働く母親のために手頃な料金の保育サービスを提供しないため、子どもの夏休みにあたる6月・7月・8月はメールの返信が遅くなることがあるのでご了承ください」

セント・エスプリさんは最初、この「注意書き」はやりすぎかと心配したが、人々は「最高ですね」と返信してくれたという。そして彼女がこの「注意書き」をXに投稿すると、すぐに拡散され話題となった。

「いくつかフィードバックをもらったので、この夏はさらに編集を加えました」とセント・エスプリさんは続ける。

「保育危機は主に母親に影響しますが、家族全体にも影響を与えるため、『母親』を『両親』に。他にも、『提供しないため』を『提供することを拒んでいるため』に変えました。現時点でアメリカは何をすべきか分かっているはずなのに、どの権力者も実行しないからです」

実際に署名に加えた「ウェルネス文言」は、セント・エスプリさんの境界線を保つのに役立っているのだろうか?

「緊急ではない要件なうえ24時間も待たせていないのに、急かしてきたり、不満気なメールを送ってくる人はいます。彼らを変えることはできません。でも今は『いつでも対応します』という自分の姿勢を変えようとしています」

専門家たちによると、このトレンドはまだ誕生したばかりだが、クリエイティブ業界では一足早く広がりを見せているという。

人事コンサルタント会社Bay Equity HRのCEOであるドミンゲス氏は、こうした「ウェルネス文言」は労働者の平常心を保ち、仕事とプライベートのバランスを保つための画期的な方法だと感じているという。

メールの署名の下に自分の勤務時間を記載することで、「いつ返信が来るか予測できるので、自身の仕事を計画するのにも役立ちます。連絡が取れる時間帯がわかるので、常にメールをチェックする必要がなくなり、1日の予定を管理しやすくなります」と説明する。

全ての人がお互いの勤務時間を知っていれば、コミュニケーションはずっとスムーズになるとドミンゲス氏は話す。

ワークライフバランスとワーキングマザーの研究をしているニューハンプシャー大学コミュニケーション学教授のボルダ氏は、こうした「ウェルネス文言」を記載する動きが広がっていることは、自然な流れだと感じているという。

アメリカの労働人口は以前に比べ高齢化傾向にあり、65歳以上の労働者も過去最多となる中、ミレニアル世代やZ世代の労働者はワークライフバランスへの明確な期待値を定義し、企業文化に足跡を残しているとボルダ氏は考えている。

また「2020年と2021年にはリモートやハイブリッドワークなどより柔軟な勤務形態への移行が進み、労働者がどのような労働条件が自身の生活と合っているかを考える機会が生まれたと思います」と語った。

ワークライフバランスの「ワーク」の部分をどれだけ調整できるかが分かり、仕事と私生活の境界線をより明確に築き始める人もいる、とボルダ氏は話す。

もちろん、フリーランスや小企業の経営者など、自営業者であれば、勤務時間などについての短い文章を付け加えるのは簡単だ。

しかし、内容があまりにも個人的だったりジョーク混じりな場合、正式なやり取りでは適切ではないと思われることもある、と時間管理コーチのコーニック氏は話す。「一般的な企業文化の中では、統一された一貫性のある署名が推奨されるため通用しないでしょう」と加える。

健康を意識しつつも企業文化にも馴染むような「ウェルネス文言」を使ってみたい人のために、専門家が教えてくれたアドバイスをいくつか紹介しよう。

1. まず最初に、企業文化を知る

まだ「一般的」ではないことに挑戦する前に、職場の温度感を掴み、会社のマーケティング、ブランディング方針を確認することをコーニック氏は推奨する。

もし会社の「ミッションステートメント」などでワークライフバランスの重要性が強調されていれば、おそらく署名に「ウェルネス文言」を加えることは問題ないだろう。

パデュー大学ビジネススクールのジぺイ経営学助教授は、その「お知らせ」が企業文化に合っているかを判断するベストな方法は、同僚を観察し、話をすることだという。「信頼できる同僚数人と協力して、一緒に署名を作成し、より洗練させることもできるかもしれません」と話す。

人事の専門家であるドミンゲス氏は、標準的な勤務時間と連絡に適した時間帯を記載するのは一般的に安全だと述べる。

2. 自分にとって重要なことを記載する

署名をできるだけ短くまとめるため、自分にとって最も重要なことを強調する簡潔な一文を目指すようヤング氏はアドバイスする。それは勤務時間や返信可能な時間帯でも良い。

3. 相手に「して欲しいこと」ではなく、「知っておいて欲しいこと」を書く

ウェルネス文言には、相手に何をして欲しいかではなく、何を知っておいて欲しいかを明確に述べることが重要だ。「あなたの境界線について『指示』するのではなく『情報』として伝えることがカギです」とジペイ氏は語る。

例えば、シンプルに「私の勤務時間は午前8時から午後4時までです」と書くだけで、自分の勤務時間を相手に伝えることができる。

「この文章なら、相手に対して行動を調整することを求めずに、あなたの勤務時間を明確に示すことができます。

4. 健康のために「お知らせ」をつけることに罪悪感を感じないで

こうした境界線を設定することは、自分の1日をうまく管理する助けになるだけでなく、プライベートの時間を大切にするというポジティブな模範を他の同僚に示すことにもなる、とドミンゲス氏は述べる。

「これは、関係するすべての人にとって、『ワーク』の時間が少しでも楽になるようにするためです」

署名に「ウェルネス文言」を加えるのは、職場であなたが最初となるかもしれない。しかしコロナ後この数年間の職場文化の変化を考えると、おそらくあなたが最後ではないだろう。

「より多くの人々がこの健全な変化を選択し始めているように感じます」とヤング氏は話す。

「このような文言を添える必要がある時代にいるのは残念です。誰もメールにつきっきりでいる必要があると感じるべきではありません。そこまで深刻なことなどないし、私たちは皆、メールへの不安から少しでも解放されることが必要です」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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