「アドレノクロムを知ったから殺された」。私は涙が止まらず、パニック状態に陥った【②】

DS、アドレノクロム……。陰謀論について聞かされた女性はパニックに陥った。公認心理師に送ったクレームの返信には、こんなことが書かれていた【「私が巻き込まれた陰謀論」②】

トラウマ克服のため通っていた都内のカウンセリングオフィスで、公認心理師から陰謀論を聞かされたという女性に取材しました。

「誰でも巻き込まれる可能性がある」。そう語る女性の証言や記録をもとに、シリーズ「私が巻き込まれた陰謀論」を全5回でお届けしています。

2025年2月。

5回目のカウンセリングを受けた日の翌日、私はパソコンの画面をじっと見つめていた。

クレームを送るべきか、それともやめるべきか。本文を読み返すうちに、時間だけが過ぎていった。

ただ、あの夜から続く息苦しさを、抱えたままではいられなかった。今すぐ吐き出さなければ、自分が壊れてしまいそうだった。

「私は“伝える”と決めたじゃないか」ーー。そう言い聞かせ、送信ボタンを押した。

【アドレノクロムの話を聞いてから、世の中にはいろんなことがあるのだなと思いました。でも、不安が増して、怖くて夜に眠れなくなってしまいました。このお話はトラウマ克服のために必要だったのでしょうか。次は他の話を聞きたいです】

勇気のいる行動だった。

送信直後、昨日の帰り道から続く息苦しさがまたぶり返し、公認心理師の言葉が何度も再生された。

《三浦春馬と竹内結子はアドレノクロムを知って殺された》

事件性があったなんて話は聞いたことがない。

三浦さんの所属事務所アミューズも、「三浦さんは他殺」などと書かれた書籍やサイトはデマだとしており、「収益を目的としたものもある」とウェブサイト上で注意を呼びかけている。

ただ、頭ではそうわかっていても、この話を公認心理師から聞かされた日の夜、怖いもの見たさでYouTubeを開いてしまった。

画面には、公認心理師と同じような言説を垂れ流す動画がいくつも並んでいた。それをクリックするたびに、視界が揺らいだ。

《三浦春馬、他殺説の真相》《真犯人は〇〇か》《知った人は皆殺し》ーー。

何が現実で、何が嘘なのか。

わけがわからないまま、涙が止まらず、パニック状態に陥った。体には、赤い蕁麻疹が浮かび上がった。

「もしかして、私がおかしいの?」

頭が狂いそうだった。この恐怖の感情を打ち消そうと、ChatGPTに文字を打ち込んだ。

「本当にこんなことがあるの? 私はまともじゃないの?」

AIは「あなたは間違っていない」と言ってくれたが、心は穏やかにならなかった。

今度は、クレームを送ったことで、公認心理師を「怒らせたかもしれない」という不安が、再び胸を締めつけたのだ。

体も衰弱していた。自分を保つのに必死だった。何より、怖かった。

そのまま、朝を迎えた。

昼、公認心理師から返信が届いた。恐る恐るメールを開くと、次のように書かれていた。

「不安にさせてごめんなさい。次回からはそのような話はしません」

ふっと肩の力が抜けた。ようやく安心してセラピーを受けられるかもしれない。

「もう“怖い話”はしないんだ。よかった」

信じてみよう。もう一度だけ。

そのとき、私はほんの少しだけ、希望を取り戻していた。

女性は「クレームのメールを送ることは勇気のいることだった」と話した。
女性は「クレームのメールを送ることは勇気のいることだった」と話した。
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約1カ月後。3月になった。

6回目のカウンセリングの日。足取りはいつもより軽かった。

チャイムを鳴らすと、カウンセリングオフィスのドアが開いた。いつもの個室に通され、公認心理師は優しく微笑んだ。

「それではお願いします。その後の不安はどうですか?」

私は勇気を出して伝えた。

「前回のカウンセリングから帰って、怖い動画を見てしまって。3日くらい調子が悪くて、眠れなかったんです。怖かったです」

公認心理師は「そうね、そうね」と相槌を打った。

ただ、謝罪はない。相槌も、それが本心からなのか、形だけなのか、私にはわからなかった。

「先生は嘘を言っていないと思っているから。でも信じたくなくて、動揺してしまいました。セラピーも受けたかった。頑張って出しているお金なので」

声が震え、胸が熱くなる。

「三浦春馬が殺されたという先生の話がショック過ぎて……。悲しくなっちゃって」

言葉とともに、大粒の涙がこぼれ落ちた。

公認心理師は静かに「うん、うん。そうね」と頷き、少しの沈黙を置いて言った。

「赤ちゃんの頃は自我の壁があまりなくて、神経が剥き出しの状態なので。極端な白黒思考が出ています」

この言葉の意味を、すぐには理解できなかった。

「え、これって私がおかしいと言っているの?」

特にこれまでの“怖い話”には触れず、彼は話を続けた。

母親との愛着をうまく形成できなかったのかもしれません。赤ちゃんの頃の自分に会いにいきましょう。あの頃に欲しかったものは何?」

胸の中で小さなざわめきが広がった。謝罪はないのか。

でも、久しぶりに聞いたセラピーのようなセリフに、ほんのちょっと安堵感が生まれた。

この日は、少なくとも“怖い話”は出なかった。前回に比べれば、まだ良い時間だった。

「またセラピーをしてくれるはず」

私は、4月の予約はキャンセルしないことにした。(取材・文:相本啓太)

第3回は11月12日午前6時30分配信予定】

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