トラウマ克服のため通っていた都内のカウンセリングオフィスで、公認心理師から陰謀論を聞かされたという女性に取材しました。
「誰でも巻き込まれる可能性がある」。そう語る女性の証言や記録をもとに、シリーズ「私が巻き込まれた陰謀論」を全5回でお届けしています。
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「この国に生きる以上、現実を直視するのは国民の役割」ーー。
そう言って、公認心理師は“恐怖”を煽る話を繰り返した。
子どもの頃のトラウマ経験から、人一倍怖がりな私に、「“真実”を知れ」とでも言うように、容赦なく言葉をぶつけてきた。
《三浦春馬と竹内結子はアドレノクロムを知って殺された》
芸能界に関わる仕事をしている私にとって、この言葉は特に衝撃的だった。まるで、私が関わる世界の裏で殺人が行われているかのような口ぶりだった。
何が現実で、何が嘘なのか。恐怖で涙が止まらず、パニック状態に陥り、体に蕁麻疹が浮かび上がった。
次回以降のカウンセリングの予約をキャンセルするメールを送り、「もうこの人とはかかわらない」とわかった時、今度は心の底から怒りが湧いた。
「心の健康を守る公認心理師がこんなことをしてもいいのだろうか」
2025年5月中旬。私は自らが住む地区の消費者生活センターに電話をかけた。
担当者は驚き、丁寧に話を聞いてくれた。しかし、返ってきた言葉は冷たかった。
「既にカウンセリングを受けているじゃないですか。返金は難しいと思いますよ。クオリティの問題で、内容が自分に合わないとか、先生が変だとか、人によって感じ方は違いますよね。人によっては気に入る人もいるかもしれない」
「カウンセリングを受けるには受けたんですよね。しっかり60分間。つまんない話だった、おかしな話だった、ということなら、さっさと辞めればいいですよ」
電話を切った後、私は深く息を吐いた。涙が出そうだった。
「さっさと辞めればよかった」。そんなことは言われなくてもわかっている。
私は自らのトラウマを克服するという目的のため、「我慢したらそのうちセラピーをしてくれる」と信じ、通い続けてきた。
彼が「もう怖い話はしない」と述べたとき、もう一度だけ信じてみようと思った。
でも、彼は今日もあそこで「公認心理師」の看板を掲げている。通うのは、心に傷を負った人たち。良くなると信じ、あの部屋の扉を叩いているのだ。
同じような被害に遭う人が出たらどうするのか。
「泣き寝入りすることはできない」

怒りが原動力になっていた。
地区の消費者生活センターが対応してくれなくても、めげなかった。トラウマが悪化しながらも、計7つの機関に助けを求めた。
消費者生活センター、厚生労働省、日本公認心理師協会ーー。どこかに、誰かに、この理不尽をわかってほしかった。
カウンセリングオフィスに支払った金額は、計11万円。
「心の傷を癒したい」と願って通った場所が、まさか「心を壊す場所」になるなんて、思ってもみなかった。
《三浦春馬と竹内結子はアドレノクロムを知って殺されたんです》
《アメリカ民主党は悪魔儀式でそれを使っている》
《能登の地震は人工的に起こされた。珠洲市がスマートシティだったから》
《ミシェル・オバマもレディ・ガガも実は男性ですよ》
《白人は奪う人種です》
《財務省はDSとつながっています》
《ビル・ゲイツは人口削減のためにワクチンを作っている》
こんな話を浴びるように聞かされた。
そればかりか、まるで“真実を知らないほうがおかしい”と言わんばかりの態度で、彼の話に怖がる私を「神経系の問題」と断じた。
こんなこと、許されていいわけがない。私は、思いつく限りの場所に電話をかけ、メールを送り、経緯を説明する詳細な文書も添付した。
だが、そのたびに「別の機関に相談してみては」と言われ、たらい回しにされるだけだった。
電話口の職員は名乗らず、メールもほとんど返ってこなかった。
「公認心理師は国家資格なのに、なぜ誰も助けてくれないのか。なぜわかりやすい通報窓口がないのか」
そう思うたびに、無気力になった。やがて、体も動かなくなった。
朝、目を開けても起き上がれない。会社に行けない。人と1対1で話すことが、とてつもなく恐ろしく感じるようになった。
「このままでは自分が危ないかもしれない」
そう感じた私は、あるところに連絡した後、玄関を出た。
“命の危険”を感じていた。(取材・文:相本啓太)
【最終回は11月14日午前6時30分配信予定】
