人間と同じで、組織も年をとる。自分達「らしさ」を捨てて新しい細胞を手に入れる理由

【連載】マザーハウス・山口絵理子が歩む"ThirdWay”(第7話)
山口絵理子さん
山口絵理子さん
マザーハウス提供

苦労して生み出したヒット商品や企画を、あえて捨てるというのはなかなか難しいこと。

しかし、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という目標を掲げ、途上国で生産したバッグやジュエリーを販売している「マザーハウス」の山口絵理子さんは「ブランドが生き続けるためには、成功体験を捨てる必要もある」と話します。

そして、成功体験を捨てられない弱さが、ブランドの衰退につながる、とも…。

ハフポストブックスから刊行された『ThirdWay 第3の道のつくり方』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン刊) の内容を再編集しながら、山口さんが実践する働き方・生き方「ThirdWay」の極意を伝える全13回連載の第7回。キーワードは「成功体験を捨てる」。

マザーハウス提供

「らしさ」と「変化」のさじ加減

世の中のニーズが多様化して、多くの人に爆発的に広まる「マスのヒット」が生まれにくくなった消費の変化は、私も肌で感じている。

10年ほど前なら「森ガール」の流行と同時にキャメル色のバッグが全店で売れる、という現象が起きていたのだけれど、今はない。

ブームのパイが小さくて、個人のこだわりも細分化している。

こうなってくると、「うちはこの色、この形」とごく限定的なアイコンを特色にしてきたブランドは苦しくなる。

戦術が一つしかないから、それが受け入れられなくなったときには衰退しかなくなってしまう。

これはすべてのブランドにとって「らしさ」と「変化」のさじ加減の難しさを示している。変化しすぎると「らしくない」と言われ、「らしさ」に固執すると時代を捉えていないと言われる。

私たちは、どうしたらこの二つのサードウェイに立てるのだろうか。

 カメレオンのような変化

私たちの場合、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という根本の哲学には固執してきたが、一方で、その戦術、アプローチの仕方、すべてのHOW TOは、カメレオンのごとくむしろ変化を好んできた。

最初に固めた哲学(「途上国から世界に通用するブランドをつくる」)が手法を限定せずに、工夫次第でいくらでも広がりを持たせられるものだったからよかったのだと思う。

「戦術に自由度をもたせる」というのは、時代に左右されないブランドの〝続ける力〟を備えるコツだと思う。

HANABIRAシリーズ
HANABIRAシリーズ
マザーハウスHP

私は迷わず捨ててきた

トレンドに左右されずにブランドが生き続けるためには、自らの成功体験をどんどん捨てていく必要もある。

ヒット商品が生まれると、そこに頼りたくなるし、安心材料になる。

けれど、もしブームが去ったとき、新たな手を打っていなかったら何も残らなくなる。

ブランドの衰退は、「成功体験を捨てられない弱さ」にあると思う。

だから、私は迷わず自分の成功体験を捨ててきた。

自信をつけてくれた思い出の商品

最初に手応えをつかんだ「HANABIRA」シリーズは、私に自信をつけてくれたし、ブランドの名刺がわりになるアイコンアイテムになってくれた。その後にリリースした「YOZORA」は多くの芸能人の方も愛用してくださっている。

ヒットをつくるほどに、そのアイテムへ資源は集中投下され、カラー展開、サイズ展開が企画される。それはある意味、ビジネスとしては、とても正しい。

しかし、私はデザイナーとしてこの期間にいかに栄養を蓄え、次なる種をまいておくかが、非常に重要だと感じる。「前作を乗り越える、前作を刷新する」ことに果敢に挑戦しなければならない。

YOZORAシリーズ
YOZORAシリーズ
マザーハウス提供

チームを怒鳴ってしまった

ジュエリーで最大のヒットは「しずく」という二つのカラーストーンを組み合わせたものだった。

これはジュエリーづくりを始めて2年後、スリランカの色とりどりの天然石の美しさをお客様に楽しんでもらいたいと思い、対称的な色の二つの石を一つのモチーフとして形づくった作品だ。

毎年クリスマスになると「しずくのポスターを」とお店からリクエストが来る。

私は「いい加減にしろ」とチームに怒鳴ってしまったことがある。

「そういうメンタリティでは、新作はいつまで経ってもスポットライトを浴びないんだよね。なぜ、タネを育てようとしない? 育てなければ『しずく』だって生まれなかったはずだよ?」

今年ではなく、数年先を見据えて

主人公を増やす姿勢が大事なのだ。

今年、来年の数字を見る姿勢では何も生まれない。

世の中の多くのアイディアをつぶしているのは短期的な時間感覚ではないだろうか? どしっとした長期的視野に立てば、「いつか花開くタネをまこう」「実験をしてみよう」という気持ちになるはずだ。目の前の数字と、大事にタネに水をあげる作業は並行して必要だと思う。

そのためにはやっぱり、自分の成功体験を迷わず捨てられるようにならなければいけない。捨てるというより、「乗り越える」気概。

何年経っても新鮮な気持ちでチャレンジする。

その快感を覚えたら、いつだってチャレンジャーでいられる。

山口絵理子さん
山口絵理子さん
マザーハウス 提供

人間の体と同様に組織も確実に年をとる

「らしさ」を持ちながら、変化をし、成功体験を捨てながら前に進む。

組織にもっとも強烈な変化を生むのは、

「新しいチャレンジ」だ。

私たちは「新しい国」への挑戦を続けてきた。そのたびに「新しいアイテム」が品揃えに加わってきた。「新しい」はすでにそこにいる人たち、空間、調和を乱す。

バッグを売っていたみんなに初めてジュエリーを見せたとき、店長会が終わった後に聞いてしまったスタッフの声があった。

「正直さ、ジュエリーって負担おっきいよねえ……。売り方全然わかんないし……」

1年近くインドネシアの田舎に滞在してつくってきた私は、強烈なショックを受けたが、新しさが「ストレス」なのはたしかだ。

それでも新しいことに挑戦し続ける理由がある。

人間の体と同様に組織も確実に年をとる。

新しい細胞が生まれてこないと、停滞や守りの気持ちがどうしても強くなり、いつしか、そこで働く人たちにも活気がなくなってしまう。

何より、これだけ変化の激しい時代を生き抜く組織をデザインするには、変化を恐れないマインドが不可欠だ。刺激物を投入しながら組織を強く、しなやかにデザインしていく気持ちが、経営には大切だと思っている。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)

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山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。

これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。

ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。 

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