2020年02月03日 14時37分 JST | 更新 2020年02月03日 14時37分 JST

醜いのでも劣っているのでもなく「人はそれぞれ違う」だけ。舞台「みにくいアヒルの子」が投げかけるメッセージ

障がい者のミュージカル劇団「ファマリー」が2月、来日公演をする。社会は「違い」があるから豊かで楽しい。このミュージカルを観れば、あなたもきっとそう思うはず。

Michael Ensminger
「ホンク!~みにくいアヒルの子~」

ショービジネスの本場米国で30年にわたって活動を続け、数々の受賞歴もあるミュージカル劇団が2月、日本にやって来る。演目は誰もが知る「みにくいアヒルの子」だ。

「ミュージカル」と聞いて多くの人がイメージするのは、舞台上の誰もが歌い踊る姿だろう。

しかしこの作品はちょっと違う。

主役は脳性まひのある男性、他のキャストもすべて視覚や聴覚、身体などに何らかの「障がい」がある人たちなのだ。

劇には、アーティストたちの特性を「魅せる」パフォーマンスや、それぞれの特性を組み合わさることによって生まれる「2倍の表現力」がちりばめられているという。

公演の仕掛け人たちの話から、その魅力を探ってみよう。

聴覚と視覚、障がいのある2人のアーティストが1つの役を演じる

ホンク!~みにくいアヒルの子~」は、障がいの有無や性、国籍などを超えて多様なパフォーマーが集うイベント「True Colors Festival~超ダイバーシティ芸術祭」の演目の一つだ。このフェスティバルは、2019年9月~2020年7月までの約1年間、都内を中心にダンスや音楽、演劇など多彩なイベントを開催している。

「車いすの女優がドレスを着たフォルムは、まさにアヒルのお母さんそのもの。そうかと思うと劇が進むうちに、役者たちの杖や車いすは観客の意識から消え、演じている役そのものが浮き上がってくる。アーティストたちの一人ひとりの特性を生かした表現と役者の力とが、相乗効果を生むんです」

公演の企画・コーディネーターを務める鈴木京子さんは、ミュージカルの魅力をこう語る。

Michael Ensminger
鹿子澤拳さん(左)と女優サマンサ・バラッソさん(右)

例えば、舞台には聴覚障がいのある日本人ダンサー、鹿子澤拳さんも客演しているが、彼のパートナーを務めるのは目の見えない女優サマンサ・バラッソさんだ。鹿子澤さんがダンスと手話を、歌手でもあるバラッソさんが歌声を担当し、二人一組で一つの役を表現する。

「彼らは、力を半分ずつ補い合っていると言うより、舞台で繰り広げられる表現を2倍、豊かなものにしているのです」と、鈴木さんは言う。

舞台は、美しい白鳥になることがハッピーエンドなのか?とも、観客に問いかける。

主人公のアヒルの子アグリーは、いろいろな動物との出会いを重ねるうちに、自分は醜いのではなく「違う」のだと考え、それは決して恥ずべきことではないと思うようになっていく。

「違うことは醜いことでも、劣っていることでもない。社会はたくさんの違いがあるから豊かで楽しいのだと、観客の意識も変化してくれたら」と鈴木さんは期待する。

障がい者との境界を消す 平気でけんかもできるように

鈴木さんは大手金融機関に勤めた後、舞台やイベント制作に転じ、人気アイドルグループらのステージに携わっていた時期もある。2000年頃、ふとしたきっかけで障がい者の舞台を手伝うようになるまで、福祉や障がいに関する知識はほとんどなかったという。

最初は障がい者に接するのもおそるおそるだった。障がいに関する本を読んで「マニュアル的に」対応し、怒られたこともある。

しかしある時、彼らと「平気でけんかできる」自分に気付いた。

「それまで『障がい者はサポートを必要としている人たち。反論なんかしてはいけない』とためらう心がありました。でも彼らと接するうちに、自分の中の『支援する側』『される側』という境界が消え、ダメなことはダメだと言えるようになっていた」

自分の変化を「面白い」と思った時、仕事への向き合い方も変わったという。

「インクルーシブやダイバーシティという言葉には、健常者が自分たちの社会に、障がい者のための場所を作ってあげるイメージがある。けれども舞台という場を通じて、健常者と障がい者の間の境界線を消していく、あるいはもとから境界なんかないことを示せると思うのです」 

HUFFPOST JAPAN
特定非営利活動法人CUE-Artの鈴木京子さん

美醜や優劣に悩む、すべての人へ届けたい 普遍的なストーリー

公演する米劇団「ファマリー」は、1989年に5人の障がい者によって作られた。「美女と野獣」「シカゴ」など幅広いレパートリーの中から、「みにくいアヒルの子」を選んだのは、「違いを受け入れる」という作品のテーマが、フェスティバルのメッセージと共通していたからだ。

また、セリフは全て英語。だからこそ、幅広い年齢の人に知られているストーリーが選ばれた。

すべての人が理解できるよう、上演には様々な工夫が凝らされている。普通の日本語字幕だけでなく、子どもや知的障がい、発達障がいを抱える人にも分かりやすいよう、簡単な字幕も用意。聴覚障がいのある外国人に対応するため、英語字幕もある。このほか視覚障がい者への音声ガイドと聴覚障がい者向けの音声補聴、希望者には事前解説も提供する。

True Colors Festivalを主催する日本財団の青木透さんは「アグリーの物語は、私たち健常者の日常生活にも当てはまることが多い」と言う。

「誰もが美醜や優劣で悩んだり、人と違う部分が恥ずかしいと思ったりした経験があるはず。また、性格も価値観も違う他人との関わり方に、普段から頭を悩ませているはずです。障がいのある俳優たちが個性を活かして演じる舞台ですが、だからこそ力強く観客のみなさんに自分ごととして受け止められるメッセージを届けられると思います」

Michael Ensminger
「ホンク!~みにくいアヒルの子~」

「違い」に潜む可能性を感じて 乙武洋匡さん、りゅうちぇるさんも登場

鈴木さんはファミリー層だけでなく、普段あまり障がい者と接する経験のない若者らにも、劇場へ足を運んでほしいという。

「舞台にも観客席にも、障がい者という、自分たちと『違う』人がたくさんいることでしょう。彼らと楽しい時間を共に過ごすことで、違いに潜む可能性を体感してもらえるはずです。健常者の舞台では見られない小道具や仕掛け、衣装も注目です」

ミュージカルは2月15、16日の両日、豊島区立芸術文化劇場で上演される。

開演前には、観客が舞台美術に触れることができる「タッチツアー」も実施される。また終演後は、ファマリーの演出家や出演者、そして、ともにフェスティバルアンバサダーであるRYUCHELL(りゅうちぇる)さん(15日)、乙武洋匡さん(16日)のアフタートークも予定されている。

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日本財団の青木透さん

日本財団の青木さんは「普段ミュージカルを見ないような親子にも見てほしい。乙武さんやRYUCHELLさんに会いたい、というちょっとミーハーな動機も大歓迎です」とほほ笑む。

「街中で障がいのある人が困っている時、つい声掛けをためらってしまう人も多いと思います。でもたとえ正解じゃなくても、思慮深くなくても、彼らと接することですべてが始まる。ミュージカルが、最初の一歩を踏み出すきっかけになれば、と願っています」

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