「アップサイクル」という言葉をご存じでしょうか。
古着や廃材を使って、商品としての価値を高めるような加工を施し、新たなものをつくるという意味です。廃棄物をそのまま再資源化したり、再利用したりする「リサイクル」とは、意味が異なります。
「アディダス」がプラスチック廃棄物をアップサイクルした素材でスポーツウェアを作ったり、「ビームス」が自社倉庫に眠っている商品をリメイクして新たな価値を持った衣服を生み出すブランドを立ち上げたり、ファッション界の大手の動きも加速しています。
2007年から、廃タイヤをアップサイクルしたバッグを販売している「モンドデザイン」(東京都港区)で、代表取締役を務める堀池洋平さんは、「手に取ってみたら、実はアップサイクルだった、というくらいが良いかなと思う」と語ります。廃タイヤに着目した理由や、アップサイクルに取り組んで感じたことを聞きました。
ーーなぜ、バッグの素材として廃タイヤに着目したのですか?
もともとやっていた広告デザインの仕事を辞めて、2006年に会社を立ち上げました。自分が使いたいな、と思えるバッグがなかなか見つからず、自分たちで作ってみようと考えたのがきっかけです。2007年に廃タイヤを使ったバッグの販売を始めました。
最初からタイヤに着目していたわけではありません。もともと環境問題に関心があったので、建築現場の廃材やウェットスーツなど、世の中にはどんな廃材があるのか、色々と調べました。そこで出会ったのが廃タイヤ。一定の廃棄量があり、耐久性があって水に強く、質感も良い。バッグの素材として良いな、と思いました。
ーーどのように廃タイヤを集めるんですか?
最初の数年間は、国内でタイヤをリサイクルしている団体に相談して集めていました。現在は、廃タイヤがたくさん集まるタイで回収し、現地で魚の開きのようにタイヤチューブを加工してから輸入しています。大体、年間1万本分ほどの廃タイヤを使っています。
海外で捨てられているタイヤは、長い年月使われている場合が多く、ぼこぼこと深い溝ができています。その溝が、バッグにした時に味わいになります。
ーーバッグを作るための細かな加工は、難しそうに見えます。
皮やナイロンの縫製技術を持っている国内の職人さんにお願いしています。当初は、ゴムの素材を加工してくれる職人さんがなかなか見つからず、50~100軒問い合わせをして、ようやく見つけました。
ゴムなので滑りが悪く、布のようにミシンでスムーズに縫うことができません。婉曲しているため、縫いながら微調整するしかない。財布など小物を作る場合は、開いて3ミリほどの厚さになったチューブを、さらに半分くらいの厚さにすいてから作ります。高い縫製技術が必要になります。
ーーどんな特徴がありますか。
お客さんから好評なのは、メンテナンスが楽、ということです。水にぬれても拭くだけでよいので、わずらわしさがないと言ってもらえます。
各地の色々なタイヤを使っているので、ひとつひとつ柄が違います。うろこのような柄に見える物もあれば、深い溝が入っているものもある。
ーーアップサイクルに取り組んできて、感じることは。
バッグを買う時、価格やデザイン、機能に納得してもらわなければ、手に取ってもらえません。アップサイクルやリサイクルに価値を置くお客さんもいますが、メインの理由にはなかなかならない。通常は、同じような品質の製品なら、価格の安い方を買います。「エコだから、高い物でも良いので買おう」、とはならないのではないでしょうか。
たまに電車で使ってくれている方を見つけると、うれしくなります。ビジネスパーソンの方が、仕事の相手先との話のネタになるから、と言って買ってくれるときもうれしいですね。「このバッグ、実は捨てられたタイヤで作られているんですよ」と言うと、会話が広がるそうです。
売上の一部を「WWF」(世界自然保護基金)へ寄付する活動を続けていますが、廃タイヤを使っているからといって、環境問題の解決にそこまで貢献しているとは思っていません。
手に取った人が、「あ、これはアップサイクルの商品なんだ」と「結果的に」感じてくれるくらいの方が良いかなと思います。リサイクルやアップサイクルに関心を持ったり、何か変化を感じたりしてくれたらな、と思います。楽しまないと、なかなか続かないな、と思います。
ーー今後の展開は。
現在は、東京、横浜、大阪と国内に3店舗、香港に1店舗があります。将来的には、海外に販路を広げたいと思います。また、素材の雰囲気から男性向けの商品が多いので、女性向けの商品にも挑戦したいです。