2019年12月23日 08時01分 JST | 更新 2019年12月23日 13時16分 JST

商店街から広がる、新しい団地の暮らし。多世代がつながるコミュニティづくりの秘訣とは

場所はあるのに交流が生まれない。そんな課題を解決したのは、とある“異業種タッグ”

YASUHIRO SUZUKI

介護のため、子育てのため…。必要に迫られて転居するのではなく、住みたい場所で、自分らしい暮らしをするためには何が必要? そんな「住まい」と「暮らし」を取り巻く社会課題を、コミュニティづくりで解決しようと取り組む地域がある。 

UR都市機構と、ある有名企業との“異業種タッグ”。団地の商店街から生まれた、あるコミュニティの目的とは?


商店街から見てきた、人と街の変化

東京都板橋区と練馬区にまたがる「光が丘パークタウン」。戦後にニュータウンとして整備された、東京ドームおよそ40個分の広さを誇る都内有数の大団地エリアだ。

その中でも、板橋区赤塚に広がる「光が丘パークタウンゆりの木通り北」でこの日、クリスマスイベントが開かれていた。

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たくさんの人で賑わうイベント会場=11月30日、東京都板橋区の光が丘パークタウン

子供から大人まで、団地に住む人もそうでない人もこの場所に集まり、賑わっている。その様子を見て、目を細める男性がいた。光が丘パークタウンゆりの木通り北の一角にある「光が丘ゆりの木商店街」の商店会長をつとめる甲斐 治さんだ。

団地の完成とともに開業した「かい薬局」の2代目として店を営み、住まいもこの地に構える。団地と街、人々の変化を一番近くで見てきた甲斐さんは、「商店街のイベントに、こんなにたくさんの人が集まる日がまた来るなんて。想像もしていなかった」と感無量の様子。

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商店会会長の甲斐治さん。およそ40年にわたり、この団地を見てきた

少子高齢化の余波は大きく、「団地に隣接する小学校は4クラスから1クラスになった。昔から住む方も年齢を重ねて歩けなくなり、団地を出ていく常連さんも見てきた」。

商店街を取り巻く環境の変化は、これだけではない。品揃え豊富な大型店、コンビニエンスストアなどと競合せざるを得ない状況になった。

「ここ30年で、商店街の面々も随分変わった。小売店として最初から残っているのは、うちともう1店舗だけ」と甲斐さんが話すように、この商店街も例外ではなかった。「みんな、店の経営で手一杯。商店会の会員も少しずつ減り、近年の活動はあまり活発ではなかった」。

しかし今は、再び人が集まる場所を目指し、新たな取り組みにも挑戦している。その背中を押したのは、無印良品を展開する株式会社良品計画だった。

 

環境は整っているのに「もったいなかった」

赤塚エリアの活性化を考えていたURと、地域活性化への関わり方を模索していた良品計画。2017年に両者は「光が丘パークタウン赤塚エリアの活性化の取組に係る協定書」を締結し、「団地を人が集まる場所にする」ことを目指すタッグがスタートした。

翌年、空き部屋だった場所に良品計画の社員寮兼コミュニティースペースが、商店街の空き店舗には「MUJIcom」がオープン。当時の状況を、同店舗店長の加藤優李さんは「人が集まれる環境は整っているはずなのに、交流が生まれない。もったいなかったですね」と振り返る。

YASUHIRO SUZIKI
MUJIcom 光が丘ゆりの木商店街店長の加藤優李さん。オープン前からこの団地に通い、商店会や住民との距離を縮めようと努めたという

「社員寮と店舗がオープンした今こそ、団地が変わるチャンスかな、と。積極的にみなさんの声を聞くようにしました」。その中で気づいたのは、「人が集う場にしたいという思いは、みんな同じ。ノウハウ、時間、人手など、さまざまなリソースが足りないこと、そして気持ちが前を向いていないことがなによりの課題」だということ。

そこで、加藤さんら良品計画がサポートし、”新生”商店会立ち上げに向けた準備会を今年9月に発足。その初めての取り組みとなったのが、このクリスマスイベントだ。

「URと良品計画のタッグがスタートしてから、団地は本当に変わった」と、甲斐さんは振り返る。URと無印良品が連携してリノベーションした「MUJI×UR」の住戸に人が入り、MUJIcomがオープンしたことで団地の外からも人が集まるようになった。

変わったのは、人の流れだけではない。「これまでは、お店の利益ばかりにとらわれていた。でも今日のイベントは、儲けは二の次。とにかく人が集まるきっかけになれば」と話すように、商店会にも大きな変化が生まれた。

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子供が参加できるワークショップも。狙い通り、多世代が行き交う場となった

「空き店舗への誘致や団地の環境整備など、ハード面はURが変えてくれる。私たちは、人と人の繋がり、コミュニティというソフト面から活性化させて行けたら」と加藤さん。その言葉通り、良品計画の社員は住民と積極的にコミュニケーションをとり、自治会のイベントをサポートするなど、時間をかけて関係性を深めてきた。

そして実現したこの日のイベント。

主催は商店会だが、MUJIcomに通う住民がワークショップのアイデアを出し、出店者を紹介。自治会は音響のサポート、豚汁の出店などに協力し、参加者がひと息つける焚き火スペースをUR社内の有志が設けるなど、団地に関わる全てのコミュニティによって作り上げられた特別なものだ。

「商店会と、自治会と、住民のみなさん、そして大家さんであるUR。それぞれをつなぐハブになれていたら」と加藤さんは話す。

「商店会の運営を住民の方がリードしたり、自治会と商店会が連携してイベントをやったり。コミュニティ同士がつながって、団地全体が盛り上がることが目標です」。


全ての住まう人がつながる「ミクストコミュニティ」

少子高齢化が進む中、「住まい」や「街」には多くの課題が生じている。URはそうした社会課題に対し、65年にわたる住まいとまちづくりの経験をもとにした課題解決に取り組んでいる。それが団地の「地域医療福祉拠点化」。

同社ウェルフェア推進課長の大久保有美子さんは、「課題は地域によってさまざま。団地の立地条件やニーズに合わせて、必要な取り組み、できることを探している」と話す。

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UR都市機構 東京北エリア経営部ウェルフェア推進課長の大久保有美子さん

多くの人が住まい、豊かな屋外空間を備える団地を「地域の資源」と捉え、
地方公共団体や民間企業、大学などと連携しながら様々な生活スタイルに対応した住宅、地域に必要な施設・サービスの整備を進めていく。そうすることで、多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちを目指す取り組みが「地域医療福祉拠点化」だ。
光が丘パークタウンゆりの木通り北は、その拠点のひとつ。

大久保さんによると、「URの団地は、周辺の地域と比較して高齢化率が高く、単身高齢者が多い傾向もあり、そうした方たちの孤立が課題の一つ。ご近所付き合いの希薄化、若い世代と顔を合わせて話す機会も減少しており、そのせいで生じる隣人トラブルもある」という。

「多世代が関われるコミュニティ、つまり“ミクストコミュニティ”によって解決できる課題はたくさんある」。


決まった形はない。課題に合わせて、できることを

光が丘パークタウン赤塚エリアでは、良品計画の社員寮や店舗がオープンしたことで、団地に若い世代が増えた。さらに同社を軸とした商店会がコミュニティを盛り上げ、つながりを作ることで多世代が関わる場が生まれた。

このような取り組みは全国に広がっている。

愛知県の豊明団地では、同社と藤田医科大学、豊明市が相互に包括協定を締結。団地内のスペースを活用し、同大学の教員や医療専門職が、居住者の医療や介護に関する無料相談を受け付ける保健室を設けている。また、学生らが団地内に居住し、高齢者との食事会・防災訓練・公園清掃など自治会活動に参加する動きもあるという。

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自治会主催“ふれあい会食”での様子=愛知県豊明市の豊明団地

その他にも、同社が超高齢社会に対応した住まい・コミュニティの形成に取り組む一環として、コンビニ大手4社と連携し、生活支援サービスを提供するコンビニの誘致を進めている。従来のコンビニの利便性に加え、団地の管理サービス窓口と協力して集会所の鍵の貸出し等を行ったり、人が集うコミュニティ形成の場として、団地を活性化させることを目指すものだ。

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セブン-イレブンJS森之宮団地店でのイベントの様子=大阪府大阪市の森ノ宮団地

大久保さんは「地域医療福祉拠点化に決まった形はないし、団地によって抱える課題も、解決へのアプローチもさまざま」と話す。多様なタッグを組みながら、地域の状況に応じて必要なものを組み合わせ、住宅・施設・サービスなどの整備を推進していくのが、同社の取り組みの特徴と言える。

「この団地に良品計画が入って変化が生まれたように、URの役割はきっかけを作ること」と大久保さん。賑わうクリスマスイベントを見ながら、「私たちは場を提供し、環境を整えるまでが仕事。そこに暮らす人たちにタスキを渡して、今日のような日を迎えられることが何よりのやりがい。今日のような光景が、いろんな団地で実現すること、また、それを継続するための仕組みづくりを模索していきたい」と話した。

◇◇◇

戦後から長きにわたり、日本の生活を支えてきた団地。URは、団地を地域の資源とした「地域医療福祉拠点化」の実現を目指し、住まいやコミュニティを含めた新しいまちづくりに取り組んでいる。

第3回は、“大阪最後の一等地”での大規模都市再生。街のミクロからマクロまで携わる、開発の全貌とは?