「ジェンダー平等」と「DX」は日本の未来をつくるカギ――。
「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションのもと、医療介護の求人サイト「ジョブメドレー」やオンライン診療システム「クリニクス」などのインターネットサービスを提供している株式会社メドレーは、国際女性デーに「女性」「医療DX」をテーマにした鼎談を実施。
少子高齢化が進む日本の持続可能な成長には、ジェンダー平等や女性のさらなる活躍が求められています。日本の社会経済の今後を占う重要なトピックスについて、衆議院議員・牧島かれんさん、人事院人事官・伊藤かつらさん、株式会社メドレー執行役員・今井久美子さんが語り合った。
「デジタル」と「社会課題の解決」「女性」はリンクする
今井さん(以下、今井):デジタル大臣を務められた牧島先生は現在もデジタル政策に取り組まれていますが、デジタル分野におけるジェンダー平等について、どんなお考えをお持ちになりましたか?
牧島さん(以下、牧島):女性のエンパワーメントは、日本の政策や国際的な施策のうえで非常に重要です。例えば、デジタル分野、理系分野への女性の参画拡大は、かねてより言われていることです。
デジタルはツールであり目的ではない。では、デジタルを使いこなして何がしたいのか? と問えば、社会課題を解決したい。そして、この国ひいては世界に暮らす私たち一人ひとりが安心して暮らせる社会をつくりたい。
また社会や街をデザインする意味で言えば、女性の感じる困難などを課題解決の原動力と捉えることができる。女性は課題解決のプレイヤーとして活躍し、社会を変える原動力になれる。その意味で「デジタル」「社会課題の解決」そして「女性」はリンクしていると思います。
また、昨今リスキリングやリカレントが重視されていますが、日本ではデジタル人材を230万人増やそうとしている。その点を加味しても、女性が新たな挑戦をする分野として、デジタルは可能性があると考えています。
今井:人事院において政策方針決定過程への女性の参画拡大や多様な人材の活用、ジェンダー平等に取り組まれている伊藤人事官にお伺いします。伊藤人事官が今の職務において、とくに力を入れていることはありますか?
伊藤さん(以下、伊藤):人事院では国家公務員のうち約30万人の人事行政を担当しています。まず取り組んでいるのが、エンプロイージャーニー(採用、育成、評価、登用、退職までの一連の流れ)を通じて、ジェンダーや年齢、職歴などを問わず多様な人材が個性を発揮し、働きがいを持ってパフォーマンスを出す。そのような公務組織づくりを目指しています。
やりがいがある仕事は、組織全体の雰囲気を良くします。そして、国民に対してのサービスクオリティーも上がる。組織がいきいきすると、その組織に入りたいと思う人も増える。これは国家公務組織、ひいては国家のサステナビリティにも繋がり、女性を含む全ての人のウェルビーイングにとっても非常に重要だと考えています。
立法プロセスを通じて「女性の健康を共に考える」
今井:続いて、女性の健康と医療DXについて伺います。牧島先生はかねてより「女性の健康の包括的支援に関する法律案」に携わられていますが、同法案のポイントを教えてください。
牧島:まず女性の健康を取り巻く環境を理解するという点で、女性の皆さんが健康診断や婦人科検診を受けておられるのか、世界と比較しながら注意深く見ていく必要があります。
たとえばフルタイムで雇用されていない女性の場合、会社の定期健診の対象になっていないであろうこと。また、家族の健康を案ずるケアギバーとしての立場にある女性も多く、自身の健康管理が疎かになりがちではないか、といった議論があります。
また女性の生涯を考えてみると、ホルモンバランスが変化していく。思春期に入り、初潮があり、妊娠や出産をする方もいる。そして更年期を迎え、閉経し、老後にいたる。人生100年時代において、女性の健康をライフステージに応じて考える必要があります。
さらに、昨今の傾向として晩婚化や第一子の出産年齢が上がっていること、加えて初潮を迎える年齢が若くなっていることなどから、女性が生涯で経験する生理の回数が増えている。
この事実を、実は私自身、法律案の勉強会で学びました。ですので、多くの方にこの情報は届いてないのではないか。生理をはじめ、立法プロセスを通じて多くの女性たちと「健康について共に考える」ムーブメントを起こしていきたいと考えています。
そして女性の皆さんが自身の健康へ意識を向ける過程において、デジタルの活用が役に立つのではないかと思います。自分の健康情報をどのように医療従事者に活用してもらうかなどの整備は、今後の課題ではないでしょうか。
今井:ありがとうございます。医療DXにおける弊社の調査によると、オンライン診療に対する女性の関心が高い。20〜30代を中心に、働く女性や子育てをしている女性がオンライン診療を活用しています。
一方で、電話診療とオンライン診療を合わせた普及率は15.2%に留まります。アメリカの普及率がおよそ80%ということを勘案すると、日本はまだ普及の余地がある。電子カルテの普及率も他国より低い状況です。医療DXを国や自治体、医療機関、そして企業が連携してできることはあるでしょうか?
牧島:政府として、オンライン診療から服薬指導まで、コロナ禍に一気通貫でおこなえるようにしました。中山間地域や、人目が気になって婦人科に通えない方など、需要はあると思っています。オンライン診療を含む医療DXの推進には、最初の一歩を促すことが大事。つまり、診療を体験できる場所を身近なところに用意するのが良いと考えています。
たとえば規制改革のなかで議論してきたのは、コミュニティにとって身近な公民館に、オンライン診療を手軽かつ安全に受けられる場を設けるというアイデア。そうした空間が身近につくられれば、少しずつ状況が変わるのでは。今、政府が推進している電子カルテやマイナ保険証などの医療DXについても、同様だと思います。
組織のいたるところに、変化を求める「魂」がこもっている
今井:伊藤人事官に、女性の働き方とDXについて伺います。雇用や能力評価といった人事分野や労働環境におけるデジタル化は、女性の活躍や多様な働き方に影響を与えると思います。その点について、ご意見を聞かせてください。
伊藤:人事院での事例をお話すると、「ガバメントソリューションサービス(GSS)※」を通じて、デジタル庁主導で国家公務員全体に新しい働き方やオフィス環境をつくっていく取り組みが進められており、人事院はいち早く導入しました。
※業務実施環境(PCやネットワーク環境)を標準化し、最新技術を採用。各府省庁の環境を統合することで、行政機関の生産性やセキュリティの向上を図る取り組み
たとえばセキュリティを担保しながらモバイル端末を導入し、全職員がどこでも仕事やチャットができる。手上げ方式で募った「DXアンバサダー」が中心となって、新しいツール上にローコード(※)でアプリをつくる。そうしたデジタル環境を初めて経験した。これが組織としても大きなカルチャー改革につながりました。
※ローコード(Low-Code):必要最小限のソースコードを書くことでアプリを開発する手法。ローコードツールでは多くの機能が提供されており、それらを組み合わせることで高速かつ簡単にアプリがつくれる
恐らく職員の多くは、自分たちがデジタルを使いこなすとは思ってもみなかった。それが、やってみたらできる。この「自分たちは学ぶことができる」「業務のやり方を変えてもいい」というマインドチェンジやリスキリングが、非常に大きいことだと思っています。
そして、これは女性の働き方についても同じことが言えます。変化に対する低い受容性、女性が組織でなかなか活躍できないことの背景には、男性中心社会であった価値観や、「今まで」への強いこだわりがあると感じます。
人事院では、デジタル化を通じて「今までと変えていい。変われるんだ。変えたら便利なんだ」という意識が生まれた。同じように、「今まで」の女性の働き方を変えるマインドチェンジも起こせるはず。そしてリスキリングが進むことは、女性の活躍だけでなく日本経済の成長にとっても大きなオポチュニティだと思います。
今井:最後に、女性が活躍できる働き方を実現するために、人事院で健康について取り組まれていることはありますか?
伊藤:まず、人事院では国家公務員全体の育児休業の取得を推進しています。女性は100%の取得率、男性も62.8%と高い取得率です。また不妊治療のための休暇を先んじて導入するなど、女性の活躍を組織としてバックアップしています。
今井:不妊治療の相談にもオンライン診療は有用なので、上手に活用していただけたら嬉しいです。また、メドレーも男性の育休取得率は41.7%、育休からの復帰率も100%と比較的高く、こういった仕組みをとりやすいカルチャーの醸成にも注力しています。
伊藤:カルチャーを変えるのって、本当に大変です。だけど組織のいたるところに、変化を求める魂がこもっています。だから、ボトムアップの取り組みからトップダウンのコミュニケーションまで、組織の隅々まで丁寧に働きかけることが重要。そして、最後は諦めないことですね。
今井:とても貴重なお二人のお話に、私自身、元気をもらいました。読者の皆さんも、日本のこれからをリードする立場のお二人の言葉に励まされた方もいるかと思います。今日はありがとうございました。
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写真:KAORI NISHIDA