日本の教育において、大きな課題となっているジェンダーギャップ。
女子大学の減少や共学化が進む中、特に理系分野(STEM領域)における女子学生やSTEM領域で働く女性の比率の低さは、深刻な社会課題としてますます顕在化している。
そうした中で「女子大学生ICT駆動ソーシャルイノベーションコンソーシアム(WUSIC)」は、女子大学生が経験ゼロからアプリ開発に挑戦し、チームで社会課題解決型のアプリを制作する実践型プログラム「アプリ開発ブートキャンプ2025」を開催。イベント最終日、富士通本社で開催された学生による発表会を取材した。
IT化が進む現代。男女の教育格差が進行する可能性も

少子化の深刻化に伴い、次世代の働き手やリーダーの減少も予測されている。そうした中で女性活躍の推進は企業や社会にとっての急務となっているが、現代の日本は「働く」の手前にある教育においても深刻なジェンダーギャップを抱えている。
1998年に98校あった女子大学は、2000年代初頭から共学化や閉校が進み、現在では約70校に減少。さらに現代は急速なIT化が進み、社会や産業の構造転換が進んでいる。
これに伴い、STEM領域ではより多くの働き手が求められることが推察できるが、教育格差の中でもSTEM領域におけるジェンダーギャップは特筆して深刻だ。
日本の女子学生の理科や数学の学力はOECDの38加盟国で1位を記録しているにも関わらず、「女子は理系に向かない」などのスティグマを含めた複合的な背景から、STEM分野で活躍する日本人女性はOECDの最下位を記録している。
さらに日本のIT業界における女性エンジニアの比率は約20%程度と低い水準にあり、多様な視点に基づくITサービス・製品の開発やイノベーションの観点からも、是正に向けた取り組みが求められている。
多様な「ボーダーレス」に着目したアプリ開発を体験

今年で5年目を迎えた本イベントは、アプリ開発やデザインの手法を学びながら、社会課題を解決するアプリを開発することで、文理系を問わずICTリテラシーを習得し、Society 5.0時代(仮想空間と現実空間の融合により経済発展と社会的課題の解決を目指す社会)を牽引する女性リーダーの育成を目指す内容だ。
過去のブートキャンプの参加者は、子どものメンタルサポート、被災者向け心のケア、子どもの野菜嫌い克服など、多様な視点からアプリ開発に挑戦した。
主催のWUSICには津田塾大学、日本女子大学、東京女子大学、大妻女子大学、東京家政大学の学生、教員とIT企業が参画しており、今年は各大学の学生33人(8チーム)が参加した。
8月4日~8月22日の期間中、参加者は「基礎学習・アイデア創出」「デザイン」「開発」の流れで全体学習や各チーム毎のアイデア発表・開発を進め、最終日の発表に備える。基礎学習の講義では、アプリ開発の手法やサービス、デザインに関する基礎知識を学習し、アプリ開発のプロセスをゼロから体験できるという。

今年の発表テーマは「ボーダーレス」。各グループの発表内容は、都市と地方の地域格差、異文化理解との共生、世代間の交流促進、身体障害の疑似体験、子育てをする親と地域のつながりなど多岐にわたった。
異文化理解と共生をテーマに設定したアプリでは、孤立していると感じている外国人労働者人口の大きさに着目。クイズ機能を通じて日本人や異なるルーツを持つ外国人労働者が互いの文化を学び合うスペース作りを提案した。
その他にも、クイズを通じてデジタルデバイドの是正を目指す高齢者向けアプリや、被災時の行動をサポートするチャット機能を搭載したアプリなどが発表された。

各チームの発表後には、審査員から開発、デザイン、戦略などの多角的なフィードバックが送られた。質疑応答では、開発に使用したコード内容についての質問に受け答えするなど、短期間での学習成果を大いに発揮した参加者もいた。
開発過程を振り返り、学生の中からは「ChatGPTなどのアプリを活用しながら情報を集めたりもしましたが、自分が欲しい情報をAIから正確に聞き出すためには使い手の言語化能力が問われると改めて痛感しました」や「グループワークはオンラインでも行いましたが、対面のときとは違ったコミュニケーションの難しさがありました」などの感想が寄せられた。AIと人間の両輪で開発をする難しさや楽しさ、文理系という垣根を超えた総合的なスキルの必要性を学んだという。
「自分たちにもこんなことができるんだ」と思ってほしい

授賞式を終え、WUSIC代表の井上俊也さん(大妻女子大学キャリア教育センター教授)は「テーマが『ボーダーレス』という幅広い設定ということもあり、企画の段階から各チームで色々な意見が出たと思います。近年の大学生は高校課程から情報学習をしていますし、スマホやアプリへの親和感もあり、レベルの高い内容でした」と今年の活動を振り返った。
発表内容については「外国人と日本人、若年層と高齢者など、色々なボーダーに興味を持って取り組んでいただけたことが印象的でした。また、災害に関連した発表も印象的です。地震や豪雨などの自然災害が頻発する現代の課題を『ITの力で解決したい』という若い世代の思いが伝わってくる内容でした」と総評した。また「社会にはどんな課題があるのか。仮説を設定し、そこに実際に策を講じることは非常にいい経験になったのではないでしょうか」とコメント。社会課題の抽出やそれらの解決に向けて取り組む能力が、今後の社会の担い手となる若い世代に大いに求められると強調した。
STEM領域のジェンダーを取り巻く現状については、「(女性であることによって)進路に迷いや不安を持っている学生もいるでしょう。今回の経験を通じて『自分たちにもこんなことができるんだ』と思っていただければ幸いです」とコメント。
最後に「この経験を忘れず学生生活でも活かしてほしいです。来年度のリベンジはもちろん、運営側に回って新しい経験を積んでいただくなど、引き続き関わっていただければ幸いです」と話し、イベントは幕を下ろした。
