■内容では上回っていたミラン
トップ下にはポーリ、2列目の左サイドにはカカがいて、右にはターラブが回されてきた。先発落ちとなり、しかもポーリが負傷すれば先にサポナーラが呼ばれ、後半25分に起用されたと思いきやポジションはゴールから遠いレジスタ。本田を中心に考えれば、ユベントス戦における彼の扱いは不憫だった感は確かに否めない。
結果は出せなくても、本人が得意とするトップ下で使わせてもらえないのだから仕方がないではないか。本田を活かしきれないセードルフ監督が無能で、ミランというチームが情けないのだ――現在の状況を見れば、そういう考えに及んでも不思議はない。むしろファン感情としては自然だ。
もしこれで、ミランがユベントスになす術無く大敗していたのなら、セードルフへの批判も大いに結構だろう。ただ問題(?)は、彼らが内容で相手を上回ってしまったことだ。
ELトラブゾンスポル戦から中2日でぶつかったユベントス陣営には疲労も残っており、それでも試合をものにした分ミランが弱かったとも言えるが、前半に7度あった枠内シュートが決まっていればどう転んだかは分からかった。
そのために、セードルフは戦術面での理屈付けをきちっとした上で、ユベントス戦のプランを立てた。そしてそれを成立させる上で、指揮官は本田よりも他の選手を選択したということだ。翻ってこの試合でのアプローチからは、定位置を勝ち得るために本田に足りないものは何か、そしてそのためには何が必要かという情報が読み取れる。
■なぜトップ下にポーリを起用したのか?
1月の就任から4-2-3-1のシステムを用い、攻撃的なサッカーを打ち出してきたセードルフ監督だが、CLアトレティコ・マドリー戦とこのユベントス戦では、はっきりと志向を変えてきた。
ただ攻撃的な選手を前に多く並べるだけに留まらず、この2試合では相手のサッカーを研究した上で、戦術的な攻略法も練った。その上で選択されたのがトップ下のポーリであり、両サイドのカカとターラブだったのだ。
ユベントスの組み立ての柱は、ピルロやボヌッチから出される縦パスである。そのためには中盤で厳しくプレスを掛け、コースを切る必要がある。つまりピルロに張り付き、中央のスペースを埋め、攻守が切り替わった際には前へダッシュを掛けられる存在が必要で、そのための最良の選択がポーリだったということだ。後半早々、その彼が負傷した際にも、走れるサポナーラを入れている。
一方攻撃において、ミランは両サイドを徹底して攻めた。3バックを敷くユベントスはWB一人がサイドを担当するが、これに対しMFとSBを配置出来る4-2-3-1ではサイドで数的有利が確保出来る。そしてそこを、速攻主体で突く。
右では好調のターラブが強気に仕掛けてチャンスを作り、決定機ではミスの多かったカカも、懸命に走ってエマヌエルソンとボールを繋いで前へ運んでいた。
こうしたプレスからの速攻という一連の流れを、ユベントス相手に対しては徹底して行わなければならなかった。現状、ユベントスはイタリアで最もプレスが強力で、攻守の切り替えも速い。それを封じるためにひたすら走り、数多く速攻を仕掛けることが必要となり(俗にいう「インテンシティの高さ」とはこのことを指す)、さもなくば逆にやられるのだ。
■本田に求められるものは多々ある
そういうゲームプランの中で、イタリア移籍後相手のプレスに苦しむことの多かった本田が、果たしてフィットしたと想像出来るだろうか? ポーリのような汗かき役は期待出来ないし、遅攻を掛けようものならユベントスのプレスの餌食になる。
サンプドリア戦では右サイドを走り、スペースを効率よく使おうとする意識を見せた本田だが、カカやターラブとの比較では彼らに一日の長があると判断されたのだろう。
試合後セードルフ監督は「チームの見せたインテンシティは非常に良く、次に繋がる」と発言しており、ユベントスントス戦での闘いが今後のベースとなることを示唆している。本田が2列目のポジションに割って入るためには、それなりの運動量と戦術的な貢献、そしてそれらをこなした上でのチャンスメイクが必要となる。
さて、後半25分から投入された本田は、2列目ではなくレジスタ的に起用された。もっともこの意図についてセードルフ監督は「攻撃の枚数を増やし、縦にボールを出してもらいたかった」と説明している。コンバートというよりは、単に0-2という状況下で攻め手を増やしたかったということだろう。
■見習うべきは長友
信頼関係の構築とそのための努力が不可避。隣のインテルで、長友がすでに証明している【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】
だが、期待に応えられてはいなかった。前線にボールは入らず、テベスを抜き損なってボールを奪われてからはミスも増えた。試合は事実上決した状態ではあるものの、周囲の信頼を得るためにも頑張って正確にパスを入れて欲しかった。
一列下での組み立ては中盤のプレッシャーを回避し、視野も取り易くなるという利点もあるのだが、それを活かせたのはようやくロスタイム、右のサポナーラにダイレクトで展開した一本だけだった。
得意なポジションで起用されてはいない。だが今は何より、与えられたチャンスの中で結果を出し、周囲からの信用を勝ちうることが先決なのではないだろうか。自分を探し、パスを付けてもらいたいのなら、やはり信頼関係の構築とそのための努力が不可避だ。それは隣のインテルで、長友がすでに証明している。
今の状況は厳しいが、外国人選手がイタリアサッカーの適応に苦労すること自体は珍しいことではない。ここから本田が、どういうふうに立ち上がって行くのかに期待したい。
コンフェデ杯で、キエッリーニやデ・ロッシを振り回しチャンスを作っていた彼に、少なくとも能力面での適合性がないとは思わない。
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(2014年3月4日フットボールチャンネル「本田圭佑に足りないものは何か? ユーベ戦、ミランの戦術から見えた先発落ちの理由」)