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2016年03月30日 15時41分 JST | 更新 2017年03月30日 18時12分 JST

「民泊」解禁の論点整理(上)そもそも「宿泊」とはどういうことか?

一般の住宅などを宿代わりに提供する「民泊」が何かと話題になっている。

「マンション内で民泊をやっている部屋があるらしい」といった話は、東京都心などでもあちこちで耳にするようになった。外国人観光客らの短期滞在に伴い、騒音やゴミ出しなどでトラブルになるケースも少なくない。昨年末には、京都市で違法な民泊の摘発に至った事例もあった。

「新ビジネスとして」「東京五輪対策」

一方、新たなビジネスとしての民泊への期待もある。

ひとつは、世界で注目を集めている「シェアリングエコノミー」の流れだ。シェアリングエコノミーとは、個人が物やサービスを必要な人に共有する仕組みで、インターネットやSNSを利用して諸分野で新たなビジネスとして急拡大しつつある。

トップランナーと目されるのが、ライドシェア(一般の自動車をタクシー代わりに利用)のUber(ウーバー)やLyft(リフト)などと並んで、ホームシェア(民泊)のAirbnb(エアビーアンドビー)だ。

Airbnb 社は、2008年にサンフランシスコに誕生し、2015年時点では日本を含む世界191カ国、3万4000都市以上に展開。企業価値は250億ドルともいわれる。

我が国を訪れる外国人観光客の急増への対応という観点からも注目度は大きい。東京や大阪などでは、ホテルが満杯で宿泊需要に対応しきれない状況が生まれており、2020年の東京オリンピックに向けてさらに需要拡大が見込まれる。日本国内の民泊の経済効果は、新経済連盟の試算によれば総額10兆円以上にもなるという。

こうした中で、安倍内閣は民泊の推進に積極的に取り組みつつある。新聞などでも、

・今年1月末から、大田区で国家戦略特区の制度を使った民泊がスタートした

・4月からは全国で、旅館業法の面積要件が緩和され、民泊の許可取得が容易になる

・さらに、ホームステイ型の民泊についてもう一段の規制緩和が検討されている

といった動きが報じられている。

しかし、冒頭で触れたトラブルなどのマイナス面もある。宿泊需要があるからといって、規制緩和を進めてしまってよいのだろうか?多くの居住者にとって生活の平穏が害されるのでないかと不安を抱く方も少なくないだろう。

法的に真っ黒な「ヤミ民泊」も

筆者は実は、政府内でこうした検討を行う会議のいくつかに(これが「いくつか」あることについては後述する)、委員などの立場で参加している1人だ。

民泊積極推進派の1人と目されていると思うが、決して「規制緩和一辺倒で進めるべき」とは考えていない。

むしろ、民泊に伴う諸問題を解消するルールをきちんと設定し、一方で無用な規制は緩和して、健全な形で民泊を広げていくべきと考えている。筆者個人というだけでなく、安倍内閣としても(政府内に「いくつか」の動きがあるものの)、基本的にはこうした方向だと思う。

現状が甚だまずいのは、新たな民泊への需要が高まる中で、ルール整備が遅れたまま、法的にグレーないし真っ黒な「ヤミ民泊」が実態として広がりつつあることだ。

これでは、周辺住民にも利用者にも迷惑がかかる。新たな現実に対応したルール整備が喫緊の課題だ。

では、民泊のルール整備は、現状でどこまで進み、今後どうなっていくのか。

これを整理することは、実は難題だ。

そもそも現行の規制が複雑でわかりづらく、さらに、新たなルール整備の動きも、既に触れたように複数の動きが混在しているためだ。報道関係者の方々の多くも、全体像を把握できていないと思う。

結果として、新聞などでは、「旅館業法の面積基準の緩和(延床面積33㎡以上から、収容人員当たり3.3㎡以上に)」といった単発的な動きの表層だけが報じられている。

そこで、以下では、少々ややこしくなるかもしれないが、まず、民泊を巡る現行規制の整理から始めたい。

1、宿泊施設に関する現行規制の枠組み

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まず、自宅などを利用して民泊をうっかり始めると法律違反になる、という話は聞いたことのある人が多いだろう。

旅館業法では、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」(=「旅館業」、第2条)を経営しようとするときは、都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市区長)の許可を受けなければならない(第3条)と規定されている。

友達をただで泊めてあげるといったことなら「旅館業」にはならないが、有料で(=「宿泊料を受けて」)、反復継続したビジネス(=「営業」)として運営する場合には、許可が必要なわけだ。

ただ、「宿泊」とは何なのか、法律の条文では「寝具を使用して施設を利用すること」としか書かれていない。

この関連で、古くからよく問題になったのが、マンスリーマンションやウイークリーマンションだ。当たり前だが、マンションの部屋を2年契約で貸すならば、家具付きだろうと「住宅の賃貸」であって、旅館業法は適用されない。

しかし、短期間で利用させる場合、「宿泊」と「住宅」の境目が問題になってくる。

結論からいうと、現行の運用では、一般に、マンスリーマンションは旅館業法の適用対象外(つまり「住宅」)、ウイークリーマンションは旅館業法の適用対象(つまり「宿泊施設」)とされている。

これは、厚生労働省(旧厚生省の時代)の通達で、「宿泊」にあたるかどうかの基準として、1)施設の「衛生上の維持管理責任」が営業者にあること、2)宿泊者が「生活の本拠」を有さないこと、という2つが示され、後者の「生活の本拠」の判断目安が1カ月とされているためだ。

旅館業法は、ちょっと不思議に感じられるかもしれないが、厚生労働省が所管している。医薬・生活衛生局に属する生活衛生課という課が担当だ。これは、公衆浴場や理美容室などと並びで、「公衆衛生の確保」(不衛生な宿泊施設で伝染病が広がるといった事態の防止)が規制目的とされているためだ。

宿泊施設を運営しようとするときは、旅館業法上、「ホテル」「旅館」「簡易宿所」のいずれかのカテゴリーで許可を受けなければならない。「ホテル」は洋式、「旅館」は和式、「簡易宿所」は民宿やカプセルホテルと考えたらよい。

表1のとおり、それぞれのカテゴリーごとに、客室の床面積、客室数、フロント設備など、施設の満たすべき基準が定められている。

さらに、宿泊施設については、建築基準法と消防法で、一般の住宅とは異なる特別な規制が課される。

・住居専用地域には建てられない(建築基準法の用途規制)

・高い水準の防火構造などが求められる(建築基準法の構造設備基準)

・誘導灯などの設備が求められる(消防法)

といったことだ。

念のため付言すると、住宅の賃貸であれば、賃貸に出すからといって特別な規制が課されることはなく、自ら居住する住宅と同じ扱いだ。

2、民泊に関する現行の特例ルール

民泊を始めようとする際のベーシックなやり方は、表1のルールに基づき、「ホテル」「旅館」または「簡易宿所」として許可を取得することだ。

しかし、一般の住宅を活用する場合、これは難しいことが多い。例えば、和室が数室ある大きな一軒家を使おうとしてもフロント設備が存在しない、あるいは、もっと小さな家の一間を使おうとする場合には延床面積が足りないといったことになる。

そこで、従来から、一定の民泊を認めるための特例ルールが設けられてきた。

ただ、これがわかりづらい。いくつかの類型の民泊について、それぞれの観点で別個にルール設定してきていて、規制がつぎはぎのパッチワーク状態だからだ。厳密性は多少犠牲にしつつ、概略を整理すると表2のとおりだ。

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まず「イベント民泊」は、例えば、有名アイドルグループのコンサートで市内の宿が満杯になるといったときに自宅を貸し出すケースだ。厚生労働省の通達では、「年1回(2~3日程度)のイベント開催時であって、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いもの」とされる。

これに該当する場合は、旅館業法の対象にならず、住宅扱いのまま貸し出すことが認められる。先に触れたように、旅館業法の対象は反復継続したビジネス(=「営業」)だが、これに当たらないという整理だ。

次に「農家民泊」は、いわゆるグリーンツーリズムの拡大という観点で、2000年代初頭に特例が設けられた。農林漁業体験とセットで農家など(農林漁業者の運営する施設)に宿泊させる場合、旅館業法の適用は受けるが、

・簡易宿所の延床面積要件(33㎡以上)を適用せず

・建築基準法や消防法でも特例扱いがなされる(小規模な一定の施設では住宅扱いとされるなど)

これにより、農家の一部(空き部屋など)を活用した農家民泊が可能になった。

また、「農家民泊」にはもうひとつの類型もある。利用者から体験料だけを徴収し、旅館業法の適用対象外とされているケースだ。これは、旅館業法第2条の「宿泊料を受けて」に当たらないと認められたものだ。

古民家などの歴史的建築物を利用した「古民家民泊」も、観光客には人気が高い。ただ、旅館業法との関係では、フロント設備がないことがたいていネックになるため、フロント設備を不要とするなどの特例ルールが設けられた。

特例ルールの対象となるのは、

・文化財保護法上の伝統的建造物ならすべて

・それ以外の歴史的建築物は、国家戦略特区(注)内に限り、自治体の条例で建築物を定めて対象とすることができる

(注)国家戦略特区とは、地域限定で規制改革を実験的に行なう仕組みとして2013年にスタートしたもの。国・自治体・民間が一体となって集中的に規制改革を進めるため、区域は、「東京圏」(東京都、神奈川県、千葉市、成田市)、「関西圏」(大阪府、京都府、兵庫県)、「愛知県」、「広島県・今治市」、「沖縄県」、「福岡市・北九州市」、「新潟市」、「仙台市」、「養父市」、「仙北市」の10カ所に限られている。

なお、国家戦略特区に限定した民泊の特例ルールとして、「古民家民泊(の一部)」のほか、下で述べる「特区民泊」がある。特区での民泊ルールというと、後者を指すことが多い。

最後に、大田区でスタートした「特区民泊」について解説しておこう。

これは、外国人滞在客の拡大などに対応するため、2013年の国家戦略特区法制定と同時に設けられた特例ルールだ。一般の住宅を活用することを念頭に、一言でいえば、住宅と宿泊施設の中間形態にあたるルールを新設したものだ。

・滞在日数は、最低7~10日以上(この範囲内で自治体が条例で定める)

・旅館業法の適用対象外だが、その代わり、国家戦略特区法のもとでの特定認定は必要(25㎡以上などの形式要件が満たされれば認定される)

・建築基準法上の用途規制は住宅扱いで、住居専用地域でも運営できるが、その代わり、近隣住民への告知、苦情窓口の設置の義務が課される

といったことだ。

なお、外国人滞在にも適した施設を対象とする観点で「25㎡以上」「外国語での案内表示」などの要件が課されており、法令上の名称は「外国人滞在施設経営事業」だが、もちろん外国人だけでなく日本人も滞在できる。

外国人専用などといった誤解を招かないよう、本稿では「特区民泊」という呼称を用いている。

この特例は、国家戦略特区内に限られ、かつ、自治体の条例で最低滞在日数(7~10日のいずれとするか)を定められた場合、はじめて活用可能になる。

2013年に制度が設けられて以降、なかなか条例を制定する自治体が現れなかったが、昨年末に大田区議会で条例制定され、今年1月末からようやく制度の実働に至った。

大阪府議会、大阪市議会でも条令が制定されており(大阪府の条例は、大阪市など保健所設置市以外のエリアが対象)、それぞれ4月、10月から運用スタートの予定だ。

大田区が3月までに開催した5回の説明会には計約1000人が参加し、関係者の関心は高いようだ。しかし、残念ながら、少なくともこれまでのところ、実際に認定を受けた物件はわずか4件(3月18日現在)。特区民泊が一気に拡大しそうな状況にはまだなっていない。

要因はおそらく2つあり、ひとつは、最低滞在日数の制約だ。大田区・大阪府・大阪市のいずれも、7~10日の範囲内で最も短い「7日」を選択しているが、それでも「6泊7日以上」では、多くの観光客のニーズには対応できない。

2013年に制度を作った際にも、もっと短い滞在を認めるべきとの議論はあった。しかし、既存の旅館との競合の問題など、政治的な配慮もあって「7~10日以上に限る」とされたものだ。その後も、日数短縮の議論は何度かなされているが、まだ進展はない。

2つ目の要因は、民泊の規制緩和の方針が報じられていることだろう。

おそらく、もうしばらく待てば、もっと抜本的な規制緩和が進むのでないかとの期待があって、多くの関係者(物件オーナーなど)は様子見をしている面もあると思われる。(つづく)

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原英史

1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。

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(2015年3月24日フォーサイトより転載)