パルロの声と動作に合わせて体操
利用者の集団レクリエーションや体操にコミュニケーションロボットを積極活用している施設がある。茨城県結城市の結城デイサービスセンター「青嵐荘」(菅谷勉施設長)だ。ロボット導入により集団レク・体操のメニューは大幅に増加。職員の負担は軽減し、利用者に合わせた個別リハビリも行えるようになっている。
「パルロはかわいくて、お話ししていて楽しい。私はすごく歌が好きで、今日は一緒に『北酒場』を歌ってくれて本当にうれしかった」。コミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」との会話を楽しんだ三村モトさん(84)は、パルロが三村さんを認識し、「一緒に歌おう」と誘ってくれたことを喜んだ。
社会福祉法人芳香会(宇留野光子理事長)が運営する青嵐荘は、養護老人ホームに併設された定員23人の通所介護事業所。60人が登録し、1日平均18人が利用している。
パルロ導入のきっかけは、2014年3月に開かれたパルロ活用セミナーに宇留野理事長が参加したこと。入所利用者の話し相手、孤独感解消に役立つのではないかという思いがあったという。
パルロは12年6月に富士ソフト㈱が高齢者施設向けに発売した高度な人工知能を搭載した全高約40㌢のロボット。主に「会話する」「歩く」「覚える」「つながる」の4機能があり、ダンス・歌・クイズ・ゲームなどの集団レク・体操を行うことができる。
レクなどの内容は自動的に随時更新されるため、日替わりの出し物が可能で、「レクやって」の一言で約30分間の集団レク・体操を司会進行する。また、100人以上の顔と名前を覚え、その人を認識すると名前で話しかけたり、インターネットで最新のニュースや天気予報などの情報を取得し伝えたりもする。
セミナー後、宇留野理事長はパルロを1カ月テスト導入。その結果、入所施設より通所介護の方が活用できると分かり、生活相談員の沼田陽一さんを中心に、14年8月から青嵐荘で本格的に使用することにした。
青嵐荘の集団レク・体操の担当は主に常勤2人、非常勤4人の介護員・看護師で、困ったのはロボットを活用するための体制づくり。パソコンが苦手な職員が多く、壊すことへの不安を抱いていた。そこで沼田さんは、介護員のリーダーと連携し、毎月の定例会議の際に講習会を開くなどして少しずつ不安を取り除き、7カ月後には全員が操作できるようにした。
■全職員が「効果あり」
パルロを導入して1年3カ月。その効果は利用者だけでなく、職員、業務内容の改善にも及んでいる。
利用者は、導入当初から自分の顔と名前を覚えていて話しかけてくれるパルロに好感を持ち、現在もパルロ主導の集団レク・体操に喜んで参加している人が多い。ただ、直接会話する人は、他の利用者への遠慮もあり減少気味。パルロを媒介にした利用者同士・職員との会話は導入時よりも弾んでおり、使い方が少し変わってきているという。
職員は、パルロが集団レク・体操を主導してくれることで、担当者が前日に何をするか悩むことが減り、補助的な立場になったことで利用者のサポートに専念できるようになった。3月に職員6人を対象にした調査では全員が「効果があった」と答え、「肉体的負担が軽減された」など職員にもプラスになったという意見が出された。
業務面では、パルロ使用時の勤務体制や使い方を見直した結果、集団レク・体操は2人体制で行うことが効果的だと判明。同時間に他の業務ができるようになり、11月からはトレーニング機器などを使った個別リハビリを始め、集団レク・体操が苦手な人や、個別リハビリを率先したい人から好評を得ている。
「動物が苦手な人がいるようにパルロが苦手な人もいる。利用者全員がパルロの集団レク・体操をしてくれるわけではない。パルロ任せでなく、職員が個別リハビリなど新たなことに挑戦してくれたことがうれしい」と菅谷施設長は話す。
開所21年の歴史ある青嵐荘に導入された最先端ロボットとそれを生かした取り組みには、利用者を引きつけ、笑顔にする大きな魅力があるようだ。
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