【熊本地震】児童養護施設の子どもたちが避難所でボランティア 活動の感想は

「震災という恐怖と不安を跳ね返す貴重な活動だった」

避難所でおにぎりを配る子どもたち(提供=慈愛園、4月18日)

熊本市の(福)慈愛園(内村公春理事長)が運営する児童養護施設の子どもたちは、4月に熊本地震が起きてから、避難所でボランティアを行った。18日から地域の小学校に避難する住民に物資を配給。困りごとの聞き取りもし、多くの人に「ありがとう」と声を掛けられたという。そうした体験で生まれた子どもの気持ちの変化とは。  

児童養護施設「慈愛園子供ホーム」には、2歳から高校生まで70人ほどが暮らす。14日や16日の地震後は、全員が敷地内の運動場に避難し、毛布にくるまりながら一夜を明かすことになった。

慈愛園の運動場で毛布にくるまり一夜を過ごす子どもたち(提供=慈愛園、4月16日未明)

幸いにも慈愛園の建物に大きな損傷はなく人的被害もなし。水道は井戸水で、プロパンガスを使用していたため、ライフラインに問題は起きなかった。  

食料の備蓄は3日分ほど。緒方健一・同園長も不安を抱えていたところ、かつて園から巣立った人たちが次々と連絡してきたという。  

最初に物資を送ってきたのは、現在は沖縄で料理人をしている20代男性。17日から2回に分け、カップ麺450食を送ってきた。また同じく20代女性がツイッターで慈愛園の状況を訴えたところ、全国から食材や紙オムツなどが届いた。結局、匿名も含めて、物資の提供は100件を超えるほどになった。  

地震で混乱していた17日夜、慈愛園では夕食に園出身者が送ってきたカップ麺を提供した。しかし、その際、子どもたちからは「ご飯はこれだけなの」「テレビも特番ばかりでつまらない」などと不満の声が聞こえてきた。そこで、緒方園長は18日朝、全員を運動場に集めてこう話したという。  

「今、地域には地震で十分に食べ物がない人もいる。我々を心配して物資を送ってくれた先輩方には感謝してほしい。こういう時だからこそ、我々ができることをやろう」。  

この呼び掛けに約半数の子どもたちが応じた。市内の学校が休校だったこともあり、18日から地域の避難所である小学校で活動を開始。15人の中高生は、お湯、おにぎり、みそ汁などを直接手渡したという。  

さらに、避難者一人ひとりを回り、何か困ったことがないか聞き取りも実施。「夜は寒い」「生理用品がほしい」「ラジオで情報が知りたい」などの声が集まり、解決に向けて動いた。  

活動は、地震直後で一番混乱していた18~20日に集中的に行った。また、ゴールデンウィーク中にも2回活動。同園主任児童指導員の田中一幸さんは「最初は不安そうな子もいたが、そのうち態度も変わった。日頃見せない子どもの潜在能力の高さを見せつけられた」と話した。  

そうした活動について、慈愛園の子どもたちが文章にしている。  

人見知りだった中3女子は、活動するうちに知らない人とも話せるようになった。「人のことを考えずに生活してきたが、周りの人のことを考えられるようになった」と振り返る。  

また中1男子は、物資を届けた際、皆が「ありがとう」と笑顔だったことが忘れられず、「日頃できない体験をして、人の役に立つことがどんなにいいことか分かった」と感じた。  

避難所を回った高1男子も「サポートするうちに避難者の間に笑顔が生まれてうれしかった」。「人間同士が支え合って生きる重大さを知った。これから自信を持ち、いろいろな活動へ積極的に参加したい」と意欲を示す。  

さらに中2女子は、子どもからお年寄りまで多くの人に感謝され、泣きそうになったという。その経験を踏まえ、「将来こういうこと(仕事)をもっとしたい」と決意した。  

緒方園長は「震災という恐怖と不安を跳ね返す貴重な活動だった」と指摘する。「何かを受ける側ではなく与える側となり、さらに必要とされる経験は、きっと将来の糧となる。子どもたちと共に、熊本の復興に向けて努力していきたい」と話している。

(2016年5月23日「福祉新聞」より転載)

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