右から米山理事長、入倉かおる・津久井やまゆり園長。左端は黒岩知事
神奈川県は県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で7月に発生した殺傷事件を受け、同施設を現在の敷地で建て替えることを決めた。
指定管理者として同施設を運営する社会福祉法人かながわ共同会(米山勝彦理事長)や入所者の家族会の要望を踏まえ、凄惨な事件現場となった現在の建物のままでは入所者や職員が事件の記憶にとらわれてしまうと判断した。
しかし、建て替えには時間と費用がかかるなど、解決すべき問題が残っている。
黒岩祐治・同県知事は9月23日の会見で「再生のシンボルとなる全く新しいイメージの建物とすることができ、神奈川からこの理不尽な事件に屈しないという強いメッセージを発信できる」と意気込みを語った。
工事費は60億~80億円かかり、完成は4年後の2020年度となる見込み。県は補正予算を組み、16年度中に基本構想を固める。現在の入所者約90人が工事期間中に暮らす県立施設を確保したことも明らかにした。
しかし、工事期間中の居住環境が今よりも良くなる保障はない。また、同施設の関係者の間では、定員規模を減らして再建すべきだとする意見、逆に、入所待機者がいるので定員を減らしては困るという意見がある。
「防犯」と「地域への開放」をどう両立させるか、そもそも山奥の大規模な入所施設で障害者が暮らすことが妥当なのかも問われることになる。県は建て替え費用の一部を国に求めようとしているだけに、基本構想を練る議論は県や法人内にとどまらなくなる可能性もある。
県の再発防止委発足
9月21日には、弁護士や防犯の専門家など第3者で構成する県の検証委員会の初会合を開いた。11月中に再発防止策を報告書にまとめ、県は17年度予算に反映する。委員長には障害者福祉が専門の石渡和実・東洋英和女学院大教授が就いた。
かながわ共同会が9月13日に県に提出した中間報告(非公表)をもとに事実関係を検証し、なぜ事件を防げなかったのか、今後どのように対応すべきかを中心に議論する。
犯行予告を書いた容疑者による手紙をめぐり、その内容の詳細が施設側に伝わっていなかったことがかねて問題視されており、委員会は10月上旬に神奈川県警の担当者を呼んで報告を求める。
この点は黒岩知事も重視する。厚生労働省の再発防止検討チームの中間報告(9月14日発表)は警察の対応の検証が乏しく、容疑者の措置入院歴をめぐる検証が中心だったことを念頭に「国は中間報告をまとめたが、県は県として情報共有の在り方などをしっかり検証する」と話した。
なお、同県は事件の犠牲者を追悼する県主催の「送る会」の開催を断念した。死亡した19人のうち10人の遺族と面談した結果、「内輪でささやかにやりたい」との意向が強いという。9月15日の会見で明らかにした。事件後、19人の氏名は遺族の希望により非公表とされている。
ピープルファースト 全国大会で黙とう
9月21・22両日に横浜市内で開かれた、知的障害者らで構成する「ピープルファースト」の全国大会は、相模原事件の犠牲者を追悼する集会になった。
21日は参加した約1000人が黙とう。事件後に考えたことなどを発言し、花や折り鶴を壇上にささげた。
ピープルファーストジャパンの中山千秋会長(大阪府)は、「これだけの事件が起きても私たちの声が聞かれることはないので、もっと社会に届けないといけない。私たちは入所施設を求めてはいない」などと話した。
19人の犠牲者が匿名とされている点については「亡くなっても一人の人間として扱われていない。差別されていると感じるし、一番つらい」(土本秋夫さん・北海道)といった意見が上がった。
大会には黒岩知事が出席したほか菅義偉・内閣官房長官がビデオメッセージを寄せた。
ピープルファーストとは「障害者である前に一人の人間だ」という意味で、アメリカの知的障害者が発信。世界各国に当事者活動が広がり、日本では1994年に第1回大会が開かれた。
ピープルファースト大会の参加者らが花と折り鶴を捧げた
(2016年10月3日「福祉新聞」より転載)