川内村民の帰村・雇用・復興につながればと思い、川内村の遠藤村長から特別養護老人ホーム開設の要請に答えていきたいと思います。
誠励会グループは、平成5年に設立し、ひらた中央病院を中心に医療機関・介護施設・通所系サービス事業所合わせて21施設を運営しています。病院がある石川郡5町村(平田村・石川町・古殿町・浅川町・玉川村)は、約4万4千人の人口に対して、病院はひらた中央病院だけしかないので、責任を感じながら地域医療に少しでも貢献できるよう日々邁進しております。現在は、特別養護老人ホームかわうちの開所に向けて全力で取り組んでいます。
川内村は、阿武隈高地の最高峰、大滝根山をはじめ多くの山岳に囲まれた高原性の盆地です。約90パーセントが山林、原野で占められており豊かな自然環境を形成しています。千翁川は、福島の水30選に選ばれイワナが生息しており、震災前は村外・県外からも渓流釣りを楽しく方が多く、国の天然記念物に指定を受けている平伏沼(ヘブスヌマ)はモリオアオガエルの生息を支えています。そんな自然豊かな川内村でしたが、平成23年3月の東日本大震災及び原発事故により、川内村は一変しました。村は、村東部の福島第一原発から半径20キロの警戒区域に入り、村民約3千人の2割が避難指示の対象になりました。村は、3月16日に全村避難を決め、福島県内の郡山市に役場機能を移しました。
避難先のビックパレット(郡山市)に、訪問する機会があり訪れると遠藤村長は、村民一人ひとりに「体調は大丈夫ですか?」「ご飯は食べれてますか?」「夜は寝れてますか?」と声をかけていたとこに感銘を受けました。その時に、私は「川内村のためにすべて協力する」と決めました。
翌年の1月には「戻りたい人から戻りましょう 」と帰村宣言をして、同年4月から帰村が始まり、村民が川内村で生活するためには医療の充実が不可欠でした。そこで、当院から整形外科・消化器内科の医師を派遣いたしました。現在も同じく2名の医師が川内村で診療を続けています。川内消防からの救急搬送にも全面的に受け入れを強化して、震災前には救急患者の受け入れが一人もいなかったのに対して、昨年は50件受け入れしました。村民の放射能への不安解消にホールボディカウンターによる全身検査・甲状腺検査も実施しております。
そんな中、遠藤村長から平成25年のはじめに相談を受けました。
川内村には介護施設がなく、戻りたくても戻れない高齢者、そしてその家族がいます。
都内の福祉関係の企業と介護施設の開設に向けて協議を進めてきましたが、人材確保することが困難と判断したために都内の企業から辞退の連絡が入りました。村長は川内村に介護施設の需要性を感じており、村民のためにも双葉郡のためにも是が非でも介護施設を村内に開設して、戻りたくても戻れずに避難先の介護施設で生活している村民、その家族の帰村のキッカケになってくれればと相談を受けました。
私は、村長の村民に対する強い気持ちに「やりましょう」と即決しました。実際に人材が集まる自信がなかったのが事実ですが、震災以降の川内村に対する思い、そして村長の強い気持ちに常に答えていきたと思っておりましたので、今回の特別養護老人ホームの要請を受けることにしました。
社会福祉法人 千翁福祉会と称し、法人認可を受け老人ホームの建設を着工しております。「千翁福祉会」の名称は遠藤村長に命名いただきました。由来は川内村を流れる千翁川について紹介されました。
この川は、上流に民家がないこともあって、大変清らかな流れです。真夏でも冷たく、川面を流れる涼水があなたを迎えてくれます。川の両岸は、ミズナラ・ブナ・イヌブナ・カスミザクラ・ミズキなどの豊かな雑木林があり、雨が降ってもこの林が自然の濾過作用で濁った水をきれいな水に変えてくれます。
だから、いつでもきれいな流れを楽しくことが出来る。このような清流のイメージにかさねて、「千が多くの、沢山の意があり、翁媼はお年寄りに対する尊称であることから、翁の文字に高齢者全体を含ませて、高齢者福祉事業の名称に命名をいただきました。
現在、施設の整備をはじめ、開設に向けて準備をしております。双葉郡の入所希望者が多いが、働き手がまだ足りなく、面接を随時行っております。川内村民の方も多く面接させていただき、特別養護老人ホームの開所と同時に帰村することを希望される方、子どもの出産と同時に川内村に戻り、川内村で生活するために特別養護老人ホームかわうちで働くことを決め、現在はひらた中央病院で研修を受けている看護師もおります。川内村出身でこの特養で働くことが決まっている社会福祉士は、平成26年4月からひらた中央病院で相談支援業務をしております。村に対して「高齢者・障がい者が安心して生活できる地域を作ることによって、川内村の復興につなげたい」と村への愛情、そして特養への意気込みを感じています。
このような帰村を決めている村民と話をすると川内村民の村に対する気持ちが伝わり、なおさら「特別養護老人ホームかわうち」が復興のシンボルになり、村が活性化するために全身全霊で取り組むことを新たに決意いたしました。
現状の人材確保は、川内村民、近隣の市町村からだけでは難しく、県外からでも「川内村で仕事がしたい・復興に貢献した」と思っている方のために施設の敷地内に職員宿舎を建設中です。ぜひ川内村で働きたいと思っている方がいましたらご連絡いただければ幸いです。
この特別養護老人ホームかわうちの事業は、ただ単に介護施設の運営ではなく、「戻れる人から戻ってきてほしい」と世界でも稀な帰村宣言をした村長・川内村民の村に対する気持ちに答えること、そして、世界の皆さんに原発事故後のある自治体と民間医療機関の取り組みを知っていただきたいと存じます。それが福島県の復興にもつながると信じております。
(2015年7月23日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)