橋下徹市長の新党構想で「政界引退を明言したのに?」というモヤモヤ

長年、記者をやっていた人間としては政治家がウソをつく人種であることなど身にしみて理解している。

長年、記者をやっていた人間としては政治家がウソをつく人種であることなど身にしみて理解している。

舌の根も乾かないうちに前言撤回し、態度を豹変させる政治家もたくさん見てきた。

でも、橋下徹さん、まさかあなたもそんな人だったとは・・・・。

少なからずショックを受けている。

読売新聞の記事によると、橋下市長をめぐる現在の政治状況はこんなことらしい。

維新分裂、橋下新党結成へ…「大阪維新」衣替え(読売新聞 8月30日)

維新の党は29日、事実上の分裂状態となった。

橋下徹大阪市長は同日、自らが代表を務める地域政党・大阪維新の会を国政政党に衣替えし、新党を結成する考えを表明した。新党は10月下旬に発足し、維新の党所属の国会議員十数人が参加する見通しだ。一方、同党の松野代表らは民主党との合流を目指し、近く協議開始を打診する方針を固めた。野党再編の動きは一気に加速しそうだ。

橋下氏は29日、大阪府枚方市で街頭演説し、「政党は分裂と統合の繰り返しだ。大阪維新の会という国政政党を作る道筋を付けて、松井(一郎)大阪府知事や会のメンバーにその政治グループを引き渡したい」と述べ、新党を結成する意向を表明した。

来年夏の参院選を念頭に、「大阪維新の会の看板を背負った国会議員を、北海道から九州まで誕生させたい」とも語り、新党で全国的に候補者擁立を目指す考えも明らかにした。

橋下、松井両氏は29日夜、大阪府泉佐野市で大阪を地盤とする国会議員10人に新党構想を説明した。橋下氏は、10月1日告示の維新の党代表選に合わせて新党結成を正式に表明し、10月20日頃まで参加議員を募る考えを伝えた。これに先立ち、松井氏は記者団に対し、「(橋下氏の国政進出は)十分ある」と述べた。橋下氏は12月18日の大阪市長の任期満了後、政界を引退する考えを表明していた。

出典:ヨミウリ・オンライン

この記事でも少し触れてはいるが、橋下市長は今年5月に行われた「大阪都構想」をめぐる住民投票で反対票が賛成票を上回った結果を受けて、「政界引退」を表明していた。テレビでの彼の記者会見の様子を見ていても、一世一代の大勝負に挑み、その結果、惜しくも敗れた橋下氏は終始笑顔で、その潔さが際立っていた。

橋下徹氏、笑顔で引退表明「大変幸せな7年半、本当に悔いがない」【会見詳報】=ハフィントンポスト

(一部を抜き書き)

Q 任期満了で退くというお考えに変わりは?

橋下:市長任期まではやりますけど、その後は政治家はやりません。

Q 市長とかだけでなく、政治の世界には一切?

橋下:弁護士はやります。維新の党の法律顧問を雇ってもらえないかとさっき江田さんに言ったんですけど。

Q 今後の任期はどのように

橋下:各党に、こういう結論がでましたので話し合いをお願いしたい。いろんな課題、議会で進んでいないこともありますけども、任期満了までに進めるところは進めていきたい。自民、民主、公明で、改正自治法の総合区制度を使って住民の皆さんにみじかな行政をしたほうがいいという提案もあった。維新の市議団とも議論して、少しでも前に進めれば。

Q 笑顔に見えるが、そのお気持ちは

橋下:いやー、7年半、自分なりにやれるところはやってきたつもり。38歳から無理してやってきたところもあるでしょうね。もともと自分のことで生きてきた人間が、ちょっと公の仕事でお返ししなきゃという気持ちで政治の道に入った。有権者の皆さんからすれば、おかしいじゃないか、やりすぎじゃないかということもいろいろあるけど、自分なりに悔いのない政治家としてのこれまでの7年半。思う存分やらさせてもらった。今日もこういう舞台で住民投票の結果で政治家を辞めることを言わせてもらうなんて、本当に納税者のみなさんに申し訳ないけど大変幸せな7年半だった。

(中略)

Q そうはいっても過去に発言を覆したことはある。100%ないですか?

橋下:また2万%って言わせたいんですか?(注:橋下氏は2008年、大阪府知事選への立候補を「2万%ない」と否定し、その後翻した経緯がある) あのときはご存知の通り、僕が番組収録を抱えていて、番組の予定が組まれていたので、どうしても「出ない」と言わないと放送できなかったのでああいう言い方をした。今はそういう制約はないので、嘘をつく必要もない。政治家は僕の人生から終了です。

Q 12月になって大阪や日本の情勢が劇的に変わったら、将来にわたってもう一度政治家に、という可能性は?

橋下:ないですよ。まず一つは住民のみなさんの気持ちをくみとれていなかった。負けるんだったら仕掛けるべきじゃない。その判断が間違っていた。政治家としていちばんだめです。それから、僕みたいな政治家はワンポイントリリーフ。課題が出た時に解決する実務家。政治家の原理原則は嫌われちゃいけない。僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険です。敵がいない政治家がやらなきゃいけない。敵を作る政治家は本当にワンポイントリリーフ。必要とされて、いらなくなれば交代。権力は使い捨てがいちばん健全です。でも僕みたいなスタイルで8年やらせてもらった。大阪もどうなのかなあ。

(中略)

Q 任期満了で退くというお考えに変わりは?

橋下:市長任期まではやりますけど、その後は政治家はやりません。

Q 市長とかだけでなく、政治の世界には一切?

橋下:弁護士はやります。維新の党の法律顧問を雇ってもらえないかとさっき江田さんに言ったんですけど

(中略)

安倍総理のようにリベンジした例もある。安倍氏に自身を重ねるといったことはありますか?

橋下:総理は僕なんかよりすごい政治家です。ありえません。今回、最高の政治家人生を歩ませてもらって、悔いがあればやりますよ。何も悔いがない。自分の期限を切らさせてもらって、こんな最高なことはない。せまい人間関係で生きてきたものが、様々なメンバーとやらせてもらった。自分の力を出し尽くしたと自分でも思ってるし、これ以上のことやれと言われても無理。誰か本書いてください。

出典:ハフィントンポスト(吉野太一朗)

この時の橋下氏の「潔い引退表明」については、日頃、橋下氏が敵対視することが多かった朝日新聞を含め、多くのメディアが「ひとつの時代が終わった」と感慨と共感を込めた報道をしていた。

私自身、橋下氏の主張には必ずしも賛同できない点も多かったが、いろいろな問題を「自分の言葉」ではっきりと伝え、その言葉通りに実現していこうとする政治スタイルにはある種の「爽やかさ」を感じ、旧来型の政治を変えつつある可能性も感じていた。

だからこそ、引退表明を明言した自分の言葉をまるで忘れたかのような「新党」の報道に驚かされた。

12月18日までの大阪市長の任期満了もまだ来ていない。

政治を完全に引退する、と言っていた言葉は何だったのだろう。

橋下徹という人間にとって、「言葉」はそんなに軽いものだったのだろうか。

5月の記者会見の時とは、状況が変わった、今は国政の危機だ、とでも言うのだろうか。

国の安全保障をめぐっても、本来は憲法の条文の「言葉」を変えるかどうか議論すべきところを 「状況が変わった」などと「解釈」を変更するという安直で乱暴な手段を政権が選ぶなど、どうにもこうにも「言葉」が大事にされないこの国の政治状況で、「有言実行」の数少ない政治家の一人が橋下氏だと思っていたのだが・・・。

彼が明言していた「引退」が撤回されようとしていることに対して、新聞やテレビ各社の反応は鈍い、彼がはっきりと引退を表明していたことを問題視するわけでもない。

たとえば、NHKニュースはそのことに触れなかった。

橋下氏 新党の結成を目指す考え表明(NHK 8月29日 )

地域政党「大阪維新の会」の代表を務める大阪市の橋下市長は、大阪・枚方市で街頭演説を行い、「『大阪維新の会』という国政政党をつくる道筋をつけたい」と述べ、新党の結成を目指す考えを明らかにしました。

出典:NHK WEB NEWS

どうか徹底的に追及してほしい。橋下徹という政治家にとって「言葉」はそんなに軽いのか。新党結成で彼が国政に出る時に、いったい、どんな言い訳をするのだろうか。「状況が変わった」だろうか?

小さなことだと思う人がいるかもしれない。

だが、ことは橋下氏一人の問題ではなく、政治家と「言葉の重み」をめぐる問題だ。

簡単にそんな前言撤回を許してしまう報道機関ばかりだから、政治家たちはメディアを思い通りにコントロールしてしまう。

(2015年8月30日「Yahoo!ニュース個人」より転載)

注目記事