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2018年10月25日 16時48分 JST | 更新 2018年10月25日 16時48分 JST

沖縄県知事選~玉城氏の危うい圧勝と待ち受けるいばらの道~

今回の選挙で明らかになった沖縄政治構造の変化と、玉城新知事を待ち受ける困難な状況を考える。

時事通信社
沖縄県知事選で初当選した玉城デニー氏

9月30日の沖縄県知事選挙は、玉城デニー氏の圧勝に終わった。選挙結果をめぐっては、すでに多くの分析がなされているが、この記事では、今回の選挙で明らかになった沖縄政治構造の変化と、玉城新知事を待ち受ける困難な状況を考える。

沖縄のメディアでは、名護市長選で一敗地にまみれた辺野古反対派「オール沖縄」が、巻き返しに成功したという論調が主流である。県知事選挙後の豊見城市長選(10月14日)に続いて那覇市長選(10月21日)でも、辺野古反対派「オール沖縄」陣営が推す候補が勝利した。特に那覇市長選では、自民・公明の士気が下がっていたこともあり、ダブルスコアに近い圧倒的な勝利であった。陣営内のムードは、一見明るい。一方で、知事と「オール沖縄」を待ち構える状況の困難さに身構える関係者も少なくない。

<玉城候補圧勝の陰で革新の衰退>

県知事選に関する各社の出口調査や分析、両陣営の選挙関係者の話を総合すると、自民党の2割強、公明の約3割、無党派層の約7割が玉城氏に投票したと推測される。革新系(共産党、社民党など)の9割5分程度が玉城氏に投票したというデータと合わせると、14~15万票の差がついても不思議ではなかった。しかし、実際には8万票差であった。玉城氏大勝の陰で革新系の衰退が進行したのである。

沖縄の革新勢力は、無党派層や公明支持者などからなる中間派・中道系(以下、中道系)や、安倍政権に反発する保守の穏健派を巻き込まなければ、もはや大型選挙には勝てない。その背景には、革新系が、基地問題にこだわるあまり、生活・経済の分野で具体的なビジョンを示してこなかったことがある。幅広い層からの支持を得られなくなったのは当然だが、とりわけ若者の革新離れは深刻である。

玉城氏にとっても、今回の勝利は、諸手を挙げて喜べるものではない。彼に投票した中道系や保守穏健派に明確な政策の基軸はないし、組織化も進んでいない。反安倍のムードに乗って、無党派・中道系の票が玉城デニー氏に集中したに過ぎない。「オール沖縄」陣営の危うい勝利であった。

<政府・自民党の戦略ミス>

一方の自民・公明も勢いがない。本年2月の名護市長選で勝利し、一時的に盛り上がったものの、知事選では、両党支持者層のかなりの票が玉城氏に流れる失態を演じた。

自民・公明・維新が連携して物量作戦で臨み、成功を収めた今年2月の名護市長選挙のスタイルを踏襲したにもかかわらず、佐喜眞陣営はなぜ惨敗を喫したのか。

実は、名護市長を2期務めた稲嶺進氏は、任期中、ほとんどのエネルギーを「辺野古問題」に費やす一方で、「辺野古問題」の直接の現場である辺野古区(地域)に対しては冷淡であった。この地域では保守系が強く、稲嶺氏の支持者が少なかったためと言われる。

つまり基地反対派の稲嶺前市長は、地域住民全体を代表する行政のトップであるという認識が薄く、保守系市民の行政ニーズには目を向けない傾向があった。稲嶺落選の原因は他にもあるが、基地反対を優先する「行政の政治化」もまた大きな要因であったと言える。

さらに、名護市を含めた沖縄本島北部は、美ら海水族館を除けば、観光ブームから取り残されてきたという焦りもあり、自民党の利益誘導型の方針は名護市民に大いにアピールした側面も無視できない。

ところが、県知事選挙においては、「携帯電話料金の4割削減」に象徴されるような自民党のバラマキ政策は、逆効果となった。県全体としてみれば、観光ブームとホテルやマンション建設ラッシュで好景気に沸いている。政府からの財政支援への要請は、以前ほど強くはない。政府と自民党本部は、経済状況を読み間違え「最後は金目でしょ」と言わんばかりの公約を乱発し、沖縄県民のプライドを傷つけたのだ。

<本土国会議員たちの沖縄に対する理解不足>

第二次安倍政権が成立した2012年以降、在沖縄の政府出先機関や、地元の議員などからの情報を収集するボトムアップ型回路は目詰まりを起こし、沖縄の現実を無視するトップダウン型の政治スタイルが目立った。特に、「沖縄基地負担軽減」も担当する菅官房長官の強硬な政治姿勢は、沖縄では傲慢に見え、評判が悪い。

さらに、選挙期間中に大挙して沖縄に押し掛けた自民党の国会議員の面々のほとんどは、沖縄の地域事情や、「基地問題」の複雑な歴史的、政治的背景などについて、十分な知識を持たなかった。そのため、沖縄県民の微妙な感情を逆撫でするような発言も目立ち、沖縄の自民党や経済界の関係者からは、不満の声が漏れたほどである。

知名度が低く、政府とのパイプの太さを強調する佐喜眞候補と、政権大番頭の菅氏が宣伝カーの車上に並んで立つ映像が繰り返しテレビやネットで流れたことも、佐喜眞氏にはマイナスになった。自民党国会議員の無神経な発言や、菅氏の沖縄に対する冷淡な態度と相まって、佐喜眞候補が本土の政府・自民党の「傀儡」のように見えたからである。

本土からの指示や命令、沖縄を見下ろす態度に強い不快感を抱く沖縄県民が多い。本土政治家たちの不遜な態度を戒める大物政治家が沖縄に見当たらなかったことは、佐喜眞陣営にとって致命的であった。

<玉城新知事を待ち構えるいばらの道>

選挙に大差で勝利した玉城氏ではあるが、彼の行く手には難問が山積する。

まずは、辺野古工事の問題に対処しなければならない。本年8月31日に沖縄県は辺野古工事に必要な「埋め立て承認」を撤回した。そのため、工事は停止しているが、10月17日には、政府は撤回の執行停止を申し立て、同時に撤回の取り消しを求める行政不服審査を請求し、沖縄県との対決姿勢を強めている。

執行停止が認められれば、工事は再開できるが、最終的には法廷に持ち込まれるであろう。しかし、この裁判で県が勝訴すると考える人は少ない。工事再開が遅れる可能性はあっても、工事を恒久的に停止させることはほぼ不可能である。

埋め立ての準備段階の工事が進んだこともあり、県民の多くは、辺野古の新しい飛行場の建設は阻止できないと半ば諦めてはいる。同時に、政府に可能な限り抵抗し、大幅に飛行場建設を遅らせることで、沖縄県民の意地を見せたいという気持ちも強い。

また、工事が大幅に遅れれば、日米の政局の展開次第で、辺野古計画が変更される可能性もゼロではないという思いもある。玉城氏は、その可能性に一縷の望みをかけて、抵抗手段を考案するのであろう。ただし、抵抗が効果を上げなければ、県民の新知事への期待は失望に転化する可能性がある。

一方で、玉城知事は、基地問題にだけエネルギーを注ぎ込むわけにはいかない。並行して、来年度の沖縄関連予算の件で、政府に要請しなければならない立場にもある。来年度は沖縄の特別な優遇税制の改正時期とも重なるので、年度末にかけて2か月ほど続く予算折衝は間違いなく正念場となる。

好景気とは言え、沖縄関連予算が削減されたり、酒税を初めとする特別減税措置が廃止されたりすれば、沖縄経済へのダメージは大きい。そうなれば、玉城氏を支持した経済界関係者は不満を積もらせるだろう。行政経験がない玉城氏にとって、基地問題と予算要請のバランスは厄介な問題である。

元来、玉城デニー氏は中道系であり、「オール沖縄」陣営に属しつつ、革新系とは一線を画してきた。民主党公認を得て国会議員に初当選以来、小沢一郎氏と行動を共にしてきており、革新系の他の議員とは異なる道を歩んできている。革新系が掲げる政策の丸呑みはできないだろう。

反面、故翁長氏の遺志を継ぎ、「オール沖縄」陣営を代表する形で知事選に出馬して当選しただけに、陣営の中核を占める革新勢力の意向を無視することもできない。その革新系は、自身の存在意義を基地問題にあると確信しており、行政への関心は薄い。中道系の強力な支持基盤が確立できていない玉城氏は、革新からの強い要求にどのように対応するか、頭を悩ます日々が続くことになる。

玉城新知事は、翁長前知事と同じスタイルで突き進んでも、事態を切り開ける可能性がないことは十分承知しているであろう。独自色を打ち出したいところだが、それは容易ではない。玉城氏が10月16日に行った県議会での知事就任あいさつの中で、多くの時間を割いたのは、基地問題ではなく経済社会政策であったが、早速、翌日の有力地方紙2紙は、基地問題について姿勢が「後退した」とする記事を掲載した。今後、革新勢力やその周辺の言論人たちは、知事に対して、辺野古工事阻止を他の政策より優先すべき、と突き上げるであろう。

彼自身が就任のあいさつで述べたように、玉城氏は「いばらの道」を進まねばならない。一県の知事でありながら、本土政府と交渉する際に、日米同盟の動向も念頭に置かねばならない。それは沖縄県知事の宿命でもある。玉城氏がどのような手腕を発揮し、新しい展望を切り開けるのか、沖縄県民も本土政府も注目している。