SONYの2012年度の連結決算は最終損益が5年ぶりの黒字になり、日本の景気回復の明るい話題として取り上げられています。大変、結構なことです。円安効果なのでしょうか、アベノミクスがSONYを救ったのでしょうか。水を差すようで申し訳ないのですが、そうではなく、見事な会計マジックを使って黒字をつくったのです。
SONYの実態はいまだに赤字体質から抜け出したと見るのはまだ早いという感じがします。
SONYの営業利益は2,301億円でした。前年の673億円の赤字からよくぞ回復したものだということですが、自社ビルや保有株式、化学事業の子会社などの売却益の一部を営業利益に計上しているので、「連結で黒字化を達成できたが、最も大きかったのは資産売却」(加藤優CFO)という状態です。
ニューヨークのマンハッタンの36階建ての本社ビルや建てて間もないソニーシティ大崎ビルを売って得た利益を、営業利益に入れるのは、日本では違和感がありますが、米国会計基準ではそうできるそうです。
ソネットエンタテイメントの完全子会社化と、その後のソネットエンタテイメントが保有していたDeNA株の売却という見事なマジックも駆使して、ようやく黒字をつくったという感が否めません。
ところで、SONYはいったい何屋さんで、なにが本業なのでしょうか。確かにテレビを売っています。デジカメもあり、SONYモバイルを完全子会社化してスマートフォンもやっています。プレイステーションもあり、パソコンまでをカバーする総合エレクロ二クス産業に見えます。SONYの本業はエレクトロニクスというイメージです。
しかし本業は利益を生み出せてこそ本業といえます。2012年度の営業利益を事業分野別に見ると、違うSONYが見えてきます。もっとも稼いでいるのが金融事業で、1,458億円の利益を生んでいます。続いてが映画事業で478億円、イメージセンサーなどのデバイス事業が439億円、音楽事業が372億円で、それらの事業がほとんどの利益を生み出しているのです。
SONYモバイルを完全子会社化したことで、売上高は嵩上げされましたが、このモバイル・プロダクツ&コミュニケーション事業は972億円の営業赤字です。液晶テレビを抱えるホームエンタテインメント&サウンド事業も843億円の営業赤字です。デジカメやプレイステーションは赤字にこそなっていませんが、利益を出しているというほどではありません。
セグメント別売上高・営業利益(ソニー決算説明会資料より)
デバイスはともかく、エレクトロニクスは赤字体質から抜け出せておらず、SONYが存続できているのは、金融、映画、音楽、そして資産売却によってです。しかも資産の大きなものは売り尽くしたでしょうから、今後はもうそのマジックは効きません。
しかし、角度をかえてSONYを眺めてみればどうでしょう。SONYが金融、映画、音楽を本業とする会社で、ゲームのソフトも売れる会社、しかもソネットエンタテインメントを吸収したので、ネットワーク事業やオンラインゲーム事業を持っている企業だとすると、SONYのイメージが変わって来ませんか。
吸収前のソネットエンターテインメントの2011年度の決算では、934億円の売上で、営業利益が100億円だったのでプレイステーションやデジカメよりもはるかに稼ぎ出しているのです。SONYから、たたき売りの世界となってしまったエレクトロニクス産業を引き算すると、むしろ、なにか新しいビジネスが生まれてきそうなイメージがしてきませんか。
しかし、どうも経営は、いまだに液晶テレビから抜け出せないようです。まだ4Kテレビで高付加価値化をはかって利益改善をはかろうというのです。
円安で映画事業などの収益はさらにあがってくるでしょうが、市場が荒廃し、しかも敗北してしまった事業にまだ執着するというのは、外野席から見ればなにか異様な動きに見えてしまいます。稼げる事業で得た利益を勝算のない事業にそそぎこんでいるのですから。
SONYは、エンターテインメント、ネットワーク、そしてエレクトロニクス技術をもったユニークな企業です。SONYは、しっちゃかめっちゃか事業を拡散させ、いったい何屋さんなのかがわからなくなって、挙げ句の果ては今日では最悪な「総合」という冠まで頂いてしまったのですが、そろそろ事業と事業、技術と技術の組み合わせで、新しいコンセプトをもったあっと驚く製品やサービス、また市場を創造していく戦略が求められてきているのではないでしょうか。
2013年度は本業のエレクトロニクスでも黒字を目指すとしているのですが、SONYがレッド・オーシャンと化した市場から抜け出すことを決意した時に、アップルともサムスンとも違う、ユニークなSONYの新しい道が開けてきそうに感じてなりません。リストラ部屋をつくるよりは、鮮やかで見事な経営戦略を見せてもらいたいものです。
(この記事は、2013年05月10日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載しました)