変化への適応に苦しむ「ワタミ」と「ゼンショー」

ワタミが中間決算で、上場以来初の営業赤字に陥っています。国内の外食事業の営業赤字が前期の2.4億円から23.5億円に拡大したことが響いたものでしょう。
時事通信社

ワタミが中間決算で、上場以来初の営業赤字に陥っています。国内の外食事業の営業赤字が前期の2.4億円から23.5億円に拡大したことが響いたものでしょう。すき家を中核とするゼンショーも2015年3月期の業績予想を下方修正し、営業損益が17億円の赤字になると発表しています。両社の不振はブラック企業の烙印を押された影響のようにも見えますが、経営悪化の原因は、両社ではかなり異なっているようです。しかし経営が時代に合わなくなった点は共通していることを感じます。

ワタミはかなり厳しい状況ではないでしょうか。客離れ、売上の減少で起こった経営不振から抜け出す出口が見つかっていないからです。国内外食の店舗数も4月の641店舗から10月には599店舗に減り、さらに2014年度に計102店舗を閉めると報じられています。

新たな成長事業と考えた介護事業も前期から横ばい、宅食事業も売上減と総崩れにむかっているようです。

創業者の渡邉美樹氏のブラック企業とされたことを風評と受け流すとか、「全力で走らせて、それを一週間続けさせれば、それは『無理』じゃなくなる」といったカルト的な発言なども、さらにイメージを悪化させることにつながったのでしょうが、それ以上に、居酒屋チェーンという業態がもはや時代に合わなくなってしまったのではないでしょうか。

それに変わる業態を再構築しない限り、いくらプロモーションで瞬間的に客離れに歯止めをかけても、時代の変化を乗り切ることは至難の業です。時代の流れに乗って伸びた経営が、時代の流れで沈んでいく様はよく目にする光景です。ホームページのIR情報の冒頭の「お願い」にも痛々しさすら感じます。

しかしゼンショーの場合は、かなり様相が異なっています。ワンオペの限界、人出不足問題がクローズアップされていますが、本業の「すき家」そのものの月次情報を見ると、赤字に陥るほど悪い状態とはいえないように見えます。

ゼンショーは、上半期の既存店売上高が予想を下回ったことなどを理由に2015年3月期の業績予想を、売上高が5250.68億円から5092.91億円に、営業利益は80.55億円の黒字から17.74億円の赤字に下方修正したことを発表していますが、どうなんでしょうか。

すき家の月次情報では、上半期の全店売上高は、前年と比較して96.9%でしたが、既存店では105.1%と前年を上回っています。10月も全店売上高は92.5%で、既存店売上高は103.3%でした。深夜営業を取りやめた店舗数が10月末時点で1172店舗と予想より増え収益を圧迫したといわれていますが、それなら既存店の売上高は減少しているはずです。すくなくとも既存店では、国内消費の低迷のなかでは健闘しているほうだと思えます。

すき家の既存店は好調で、全店ではいまひとつということは、新店がうまくいっていないのかもしれません。あるいはすき家以外の店舗で売上が低迷しているとしか考えられません。

しかし、それでもゼンショーの経営には黄色信号が点滅しはじめていることを感じます。成長はしてきたものの、財務体質がよくないことはこれまでも指摘されていましたが、それがさらなる悪化です。これまで、ゼンショーはまるで高度成長期の経営のように、借金によって、多角化と店舗の拡大を推し進めてきました。財務体質の改善は経営課題としてきたはずですが、1,452億円だった2013年3月末の有利子負債が、2014年3月末にはさらに増加し、1,520億円に膨らんでいます。

成長にブレーキがかかり、しかも人件費増、原材料費高騰などで営業利益が落ちてくると、この成長モデルは破綻してきます。

2014年6月末時点で、1年以内に返さなければならない有利子負債(短期借入金、償還予定社債、返済予定長期借入金)が約541億円ですが、現預金は434億円しかありません。しかも営業赤字が長引くと、銀行の協力がなければ、資金ショートが起こってくる状況です。

現代は変化が激しい時代です。その変化を取り込むなり、変化に対応することを前提とした経営が求められます。大手家電メーカーの多くが、事業領域を見直し、大きく事業内容を変化させ、時代変化を乗り切ってきています。「変われる」体質づくりが重要なのでしょう。

変化を目の当たりにして、かつての成功の法則から抜けられなければ経営の危機を招くことを、ワタミとゼンショーが反面教師として示してくれているように感じます。

(2014年11月13日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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