日本テレビが2014年10月にスタートした情報番組「SENSORS」。最先端のテクノロジーやクリエイティブをテーマにしたテレビ番組ではありつつも、Webメディア「sensors.jp」に掲載したコンテンツの中から、とりわけ話題になったものを放送したり、番組を無料オンデマンド配信するなど、"Webありき"な建て付けが特徴だ。
2014年以降、携帯・スマートフォンの合計接触時間がテレビを上回ったと言われる。テレビ離れが叫ばれる中、日テレはWebありきの番組で何を狙っているのか。プロジェクト・マネジャーの加藤友規氏とクリエイティブ・ディレクターの海野大輔氏に話を伺った。
SENSORSのトップページ。記事は月に20本程度更新されている
Webが"おまけ"ではない番組
----SENSORSではWebとテレビの住み分けをどう考えていますか?
加藤氏:普通、テレビの場合って放送するタイミングをユーザーの接点として捉えていて、Webはあくまで"おまけ"になっていることがほとんどです。SENSORSはその考え方を転換して、まずWebのsensors.jpで接点を持つことを意識しました。Webにいろんな情報を集積し、その中で最も面白いものをテレビで放映するという構図です。
--放送開始からわずか半年弱で「SENSORS IGNITION 2015」というリアルイベントを開催した狙いは何だったのでしょうか。
加藤氏:視聴者やWebメディアの読者の方々ともっとコミュニケーションを取っていきたい。SENSORSを好きだと感じてくれる人と触れ合う場を設けたい。そんな思いからリアルイベントを開催しようと。 開催を発表する前は、どうなるか全く想像がついていなかったのですが、蓋を開けてみるとまだイベントの中身もほとんど決まっていない状態にも関わらず応募者が殺到しまして、あっという間にチケットが売り切れました。参加者も25%ほどは女性の方で、想定していたよりも男だらけなイベントにはならなくてよかったかなと思っています(笑)
こうしたイベントは、テクノロジーやエンターテイメントに関心のある人々を集めて、関係を強くして、SENSORSの事業開発をもっと進めていくためのコミュニケーションの場として機能させていきたいなと思いましたね。
----Webありきであったり、イベント連動というのはテレビ業界では新規性が高そうですが、どのような反響がありましたか?
加藤氏:どちらかというと社内より、社外の反響の方がありましたね。著名なクリエイターの方々をお呼びして座談会を開き、その模様を放送したりしているのですが、こうした座組みの対談を聞いてみたかったという声をいただくことが多いです。イベントの開催に踏み切ったのも、こうしたニーズがあることを知ったからというのも大きいんです。
----社内からの反響は?
海野氏:社内では、「なんか変なことやろうとしているな」といった感じで様子を見られているような感じで(笑) ただ、続けていくうちに一部の人が話しかけてくれるようになりました。そういった人たちは、たいていメディアの未来に関して危機感を持っている。もしくは、メディアの未来を切り開いていくことに挑戦したいと感じている人ですね。番組制作サイドにしろ、ビジネスにどう結びつけるかを考える営業サイドの人間にしろ、関心を持ってくれている人の視線は熱いですね。
Web界隈以外の人が腑に落ちるコンテンツ
----SENSORSは、「広い層に届ける」というよりは「ある程度限定された人に届ける」コンテンツのように映ります。
海野氏:私は「ズームイン!!SUPER」をはじめとする情報番組のディレクター/プロデューサーを経験し、そこから転じて現職のインターネット事業に携わっています。この経緯の中で様々な業界の人々に出会い、エンタメ業界全体がビジネスとして成立するのかが今問われていると感じました。例えば、チームラボの猪子寿之さんが「テレビ持っていない」と発言していたりとか。IT業界の人にとってテレビは無視されている部分もある。だったらそういう人たちにとって面白いものを作っていきたいなと思っていたんです。
その問題意識を情報番組出身の人間として切り取っていったら、SENSORSのようなアウトプットになりました。それは確かに「広い層に届ける」ことを心がけていた情報番組時代の経験を裏切るような感覚です。取り上げる話題の選択でいえば「限定された人」の関心領域にとどまるものが多くなっている。普通のテレビの感覚から逸脱しているのではないか? 何かを踏み外していないか? と自分でも不安に思うほどです。
とは言いながら、ITやテクノロジーの分野の話って、実は映像になっているほうが伝わりやすかったり、「この映像面白い!」 という納得感を、誰でも持ってもらえると信じています。その意味で視聴者の方々を限定してはおりません。先進的なテクノロジーのように、ある意味で尖って見えることでも、Web界隈の人ではない視聴者にとっても十分腑に落ちる、面白がってもらえる、そんな水準のコンテンツを目指して制作しています。 僕としては、今はまだ注目されていなくて、でもすごい未来を見て活動している人たちが、SENSORSに取り上げられたことがきっかけで、大きくスケールするといいなと思いますね。
Webやイベントが入り口でも構わない
海野氏:私達がやりたいのは、Web界隈の人だけに向けているわけではなくて、一般の人たちにとっても、テクノロジーの最前線で起こっている面白いことを、一緒に面白がりましょうっていうことなんです。たとえ偶然テレビでSENSORSを見た人でも、面白がってもらえるコンテンツを目指して。これまでは縁がなかったかもしれないけれど、これを機会に一緒に面白がりましょう、みたいな。
そして、イベントで一緒に遊びましょう、Webでも歓迎します、といったスタンス。SENSORSのコンタクトポイントはテレビとイベント、そしてWeb。この3つがあり、そのどこから入ってもらってもいいと思っています。私達SENSORSにとってはこの3つは同列の媒体であり、主従も上下もありません。Webもテレビも同じ感覚で楽しむ現代人の感覚に寄り添いたいと思うのです。
加藤氏:多くの人がテレビとの接触時間が減ってきているなかで、テレビを見ている層とWebで情報を収集している層、この双方に面白いと思ってもらえる共通の価値を提供することがテレビには求められているように感じます。SENSORSの価値観は、テクノロジーとエンターテイメントが交わる先端領域を共に面白がるということだと考えていて、その共通の価値観をちゃんと提供できているかどうかを手探りで考えながら検証しています。
Webとイベント、テレビというメディアを組み合わせて、共通の価値を大きくしていける存在ってやっぱりテレビ局しかいないと僕は考えています。とはいえ、今のSENSORSで十分だとは思っていなので、どうやったらこのプロジェクトがもっと加速していくのか、ぜひ感度の高いITやWeb界隈の人から意見をもらいたいですね。
(2015年7月22日「HRナビ」より転載)
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