(東京)国際協力機構(JICA)は、方針と実際の取り組みにおいて人権の促進と保護に一層力を入れるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは田中明彦JICA理事長宛の書簡で述べた。日本は長年にわたる世界最大級のドナー国でありながら、JICAは活動の中で人権に高い優先順位を与えておらず、相手国の人権上の懸念を理解するために必要なリソースも割いていない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの1年にわたり、JICAとの会合や書面でのやりとりなどを通じて、人権に関するJICAの方針と実際の取り組みを調査してきた。JICAは、人権侵害を頻発する政府でも援助の主要な受益者と見なすことが多い一方で、現地のコミュニティや専門家、より広範な社会との協議にかける時間は不均衡なほどに短い、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。その結果、JICA職員は自分たちが活動している国の人権状況や政治状況全般をよく把握していないことが多い。
「この約25年間、日本政府は人権を援助の原則のひとつだと主張してきた。しかし人権尊重を確保するうえで、政府の巧みな言葉づかいと現実の運用との間には大きな落差が存在している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「JICAはこれまでのやり方を改め、世界最大級のドナー国という立場を人権状況の改善のために用いるべきだ。」
独裁的、抑圧的または人権侵害が多発する国の場合でも、JICAは、事業の受益者であるコミュニティではなく、政府との関係構築のため不均衡なほどに時間を費やしていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。JICAが援助先政府からの脅迫や暴力、法的措置にさらされたコミュニティや個人のために介入することはほとんどない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチに対する2015年2月13日付書簡で、JICAは人権上の懸念に対処する責任はないとし、「事業のもたらす環境社会的配慮についての最終責任は援助対象国を含めた事業提案者にある」と述べた。しかし、事業が支援対象と意図する人びとやコミュニティに利益をもたらすため、JICAは事業の実施前、実施中、実施後にリソースを投入することで全国的及びその地域の状況を理解し、人権状況と政治的側面を事業に統合すべきだ。
JICAはまた、下請け契約者がJICAの基準を遵守し、人権侵害を行わないようにするためのモニタリング基準の策定を行っていない。企業や政府が行う開発事業や経済活動で起きる人権侵害の多くは、下請け契約者によるものであり、JICAは契約者と同じ基準を下請け契約者にも適用してモニタリングし、契約締結前に詳しい背景情報を求めるべきだ。
人権の促進と保護に向けたJICAへの勧告/提言は、ほかに以下などを含む。
· 私的にも公にも人権上の懸念事項を政府に提起すること
· 事業の実施前、実施中、実施後に、影響を受けるコミュニティと協議すること
· 少数者集団、周辺化された集団、地元および国際的な人権団体と接触し、状況を理解し、すべての意見をしっかり聴くこと
· 地域社会の住民がJICAに接触し、提案や苦情、人権侵害行為の報告を簡単に行えるようにすること
· JICA職員に研修を行い、現地コミュニティの苦情や懸念に迅速かつ建設的に対応するようにすること
· ジェンダー、マイノリティ、障がいへの配慮を、すべての技術協力事業、コミュニティ・ベース事業、インフラ整備事業などに織り込むこと
「これまで以上に人権に着目しコミットすれば、日本は世界の人権を促進、保護する上で更に重要な役割を果たすことができる」と、前出のアダムス局長は述べた。「新しく定められた開発協力大綱も、基本的人権の促進に積極的に貢献することをうたっている。日本は自らの言葉を実践に移すべきだ。」
(2015年6月23日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)