(ニューヨーク)― ビルマでの民族浄化から逃れたロヒンギャの保護と支援ニーズに応えることは、ベトナムとフィリピンに世界各地の首脳が集まり、11月10日から行われる一連の首脳会議の最優先課題であるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日付で「ビルマのロヒンギャ危機で生じた難民と国内避難民の保護に関する10原則」を公開したのにあわせて述べた。
ロヒンギャ難民にはビルマ国内の住んでいた場所に戻る権利があるが、あらゆる帰還は自発的な意志に基づいた安全なものであり、かつ帰還者の人権が完全に尊重されなければならない。
世界各国の首脳はビルマに対し、人権侵害をもたらす軍事作戦の停止、さらなる残虐行為の防止、ロヒンギャが安心と尊厳が確保された状態で帰還を選択できる条件整備を求めて圧力を掛けることが求められていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
「ロヒンギャ危機はきわめて大きく、焦眉の急を告げる問題だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民の権利局長ビル・フレリックは述べた。
「APECとASEANの首脳会議に参加する政府指導者は、ロヒンギャの権利を最優先で話し合うべきだ。」
今回公開した「10原則」は、ロヒンギャ難民危機に対応する各国政府と人道機関のガイドとなるべく策定された。
ドナー国に対し、バングラデシュにいるロヒンギャ難民と、ビルマに留まるあらゆる民族の国内避難民について、人道ニーズに応える寛大な支援を行うことへの緊急要請も含んでいる。
バングラデシュ政府には難民申請者に対して国境を閉ざさず、ノンルフールマン原則を尊重し、帰還を強制しないことが求められる。
ノンルフールマン原則は、迫害を受けるか、拷問あるいは、残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いを受ける現実的な危険がありうる場所への難民の帰還を禁じている。
多くの難民がヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取りで帰還の希望を述べたが、現状が安全である、または近い将来安全になると思っていた人はいなかった。
バングラデシュの難民キャンプは持続可能な解決策ではないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
バングラデシュ政府と人道支援に携わる同国政府のパートナー機関は、難民キャンプを今回の危機に対応する一時的な解決策と捉えた上で、自由な移動と尊厳ある自活を促す住居への移行を実行可能な限り早く実施すべきである。
バングラデシュはコックス・バザールに大規模な難民キャンプを建設中だが、当局者は周囲を鉄条網で覆う予定だと話している。
バングラデシュ当局は、ロヒンギャ難民をコックス・バザールからテンガーチャー(Thengar Char)島へ移動させる可能性をこれまでに示唆してきた。
この島は無人で開発もされておらず、洪水被害の確率も高い。
大規模キャンプの建設も島への移動のどちらも、難民から移動の自由や生計、食料、教育の権利を奪うものであり、国際人権法の下でバングラデシュが履行すべき義務に違反する。
「バングラデシュ政府は今回の危機に寛大に対応しており、ビルマから逃れてきたロヒンギャにも国境を閉ざしていない」と、前出のフレリック局長は述べた。
「しかし、しっかりしたモニタリングを実施し、バングラデシュが難民申請者に国境を閉ざさず、難民に対して教育、健康、就労の権利を尊重していくようにしなければならない。」
ビルマ政府は、本国への帰還を望むロヒンギャは国内避難民キャンプで生活すべきだという見解を示してきた。
ビルマ国内の避難民キャンプと「安全地帯」は、帰還者にとって受入れ可能な解決策ではないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
自らの住居、土地、所有物、常居所地を恣意的あるいは非合法的に奪われた難民と国内避難民には、常居所地または好きな場所に戻る権利、および所有物の返還を求める権利がある。
ビルマは元住んでいた場所に帰還ができない、または帰還を望まない人びとについて、失った住居や所有物への補償を求める権利を尊重すべきである。
2012年にラカイン州で発生した反ロヒンギャ暴力事件後、ロヒンギャ国内避難民が収容されたことを考えると、こうしたキャンプが設置されれば、基本的権利の制限が生じ、帰還するロヒンギャ難民と国内避難民が他のビルマ国民から隔離されて、民族的・宗教的差別が悪化することは避けられないだろう。
こうしたキャンプは恒久化することがありうるので、帰還する難民や国内避難民が自宅を再建し、自らの土地を耕し、再び生計を営み、ビルマ社会に再統合される上で障壁となる可能性がある。
バングラデシュのロヒンギャ難民は、この数カ月の民族浄化作戦(ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれを人道に対する罪に該当すると判断)から逃れた人びとだけではない。
これまでのビルマ政府の抑圧と暴力から逃れた人びとが数十万人いるのだ。あわせて、およそ百万もの難民がバングラデシュにいる可能性がある。
ビルマ国内のロヒンギャの窮状に拍車をかけているのは、差別的な1982年国籍法に基づきビルマ政府が実質的にロヒンギャの国籍を認めていないことだ。
この措置が、移動制限、医療・生計手段・住居・教育を利用することへの制限、恣意的逮捕と拘禁といった人権侵害行為の継続を助長している。
「今回の危機的事態が協議されるあらゆる高レベル会合で、各国首脳はロヒンギャ難民を正しい名前で呼ぶこと、つまり「ロヒンギャ難民」という名称を用いることが求められている」と、前出のフレリック局長は述べた。
「各国政府は、婉曲語法や遠回しな言い方を用いて、難民としてのあらゆる権利を享受するのにふさわしい難民ではないとか、民族的アイデンティティやビルマ国籍がないなどという仄めかしを行ってはならない。」
(2017年11月8日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)