(ダルエスサラーム)– オマーンとアラブ首長国連邦(UAE)のタンザニア人家事労働者は、過度の長時間労働や給与の未払い、身体的および性的虐待に直面している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。
両国における査証スポンサー(身元引受)制度が人権侵害を引き起こす原因となっているほか、タンザニア政府の保護政策が不十分であることも相まって、女性たちが搾取にさらされている。
報告書「『ロボットのように働いています』:オマーンとアラブ首長国連邦で人権侵害に直面するタンザニア人家事労働者たち」(全100ページ)は、タンザニア、オマーン、およびUAEの政府が、タンザニアの移住家事労働者の保護を怠っている実態について調査・検証したもの。
オマーンおよびUAEのカファーラ (=身元引受人、スポンサー)制度は、移住労働者を雇用主に縛り付けるものであり、労働法上の保護がないゆえに労働者が幅広い人権侵害にさらされている。
あっ旋および移住に関するタンザニア法および政策は不十分であり、タンザニア人女性はすぐに人権侵害に直面してしまうほか、搾取された労働者への十分な支援も行われていない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東の女性権利担当調査員ロスナ・ベグムは、「オマーンやUAEにいる多くのタンザニア人家事労働者は、閉ざされた環境の中で長時間労働、賃金未払い、人権侵害に苦しんでいる」と指摘する。
「雇用主やあっ旋業者による虐待から逃れた労働者たちは、助けを求めた先の警察や自国の大使館職員が、むしろ職場に戻るよう強制してきたと証言している。さもなくば、給与を返上して帰国するための渡航費を何カ月もかけて稼がなければならないというのである。」
湾岸諸国に滞在するほとんどの家事労働者はアジア人で、多くはインドネシア、フィリピン、インド、スリランカ出身者だ。
これらの国々では、家事労働者を保護するため、徐々に保護対策や最低賃金の義務づけを強化している。
一部は湾岸諸国へのあっ旋を全面禁止にしたため、あっ旋業者は保護対策が不十分な東アフリカへの関心を強めている。
湾岸諸国では多くの場合、東アフリカ出身の労働者を他の国の労働者よりもはるかに安く雇うことができる。
中東地域には、タンザニア出身の労働者が数万人規模で滞在している。まともな労働条件のもとで働いている人もいるが、多くは人権侵害に直面している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タンザニア政府関係者や労働組合員、あっ旋業者を含む87人や、オマーンまたはUAEで家事労働者として働いていたタンザニア人女性50人に聞き取り調査を実施。
国内労働者の半数はタンザニア本土出身で、残りの半分は️半自治のザンジバル島出身者だった。
調査に応じたほぼ全員が、雇用主とあっ旋業者に旅券を没収されたと語った。多くは、最長で1日21時間の長時間労働を休憩や休日なしでさせられていたという。
給与も約束されたより少ないか、全くないこともあり、まかないは腐った食べ物や残り物で、毎日のように大声で侮辱されたり、身体的または性的に虐待されていた。
こうした実態の一部は、強制労働や強制労働への人身取引に該当する。女性たちは人権侵害的な労働環境から脱出する手段をほとんど持ち合わせていなかった。
ダルエスサラームの Basma N.(21)は、雇用主が彼女を1日21時間働かせ、身体的に虐待したと訴える。
雇用主の兄弟に2度レイプされそうになった。
逃げ出したところ、雇用主のあっ旋費用を返さなかったために逮捕され、3カ月間の給与を返上しなければならなかった。
帰国のための航空代を借りなければならず、タンザニアに戻った時は財政的、身体的、感情的すべてにおいて、タンザニアを去った時よりも状態は悪くなったと話す。
オマーンとUAEは、家事労働者を労働法の対象から除外している。
オマーンの家事労働者規制(2004年)は不十分なもので、雇用主の違反に対する罰則がない。同国は、労働権を法的に保護していない湾岸地域唯一の国でもある。
2017年9月、UAEは家事労働者にも労働権を認める初の国内法を発布したが、保護の内容は一般労働法よりも弱い。
カファーラ制度は、オマーンとUAEにおける家事労働者の権利に対する最大の障害であり、廃止されるべきだ。
家事労働者は、当初の雇用主の同意なしに雇用先を変更することができない。逃げると「出奔」の罪で立件されうる。
一部の労働者は、雇用主やあっ旋業者が「離職」の条件として給与を強制的に没収したり、当初の雇用主にあっ旋料を再支払いした新雇用主のもとで働いたり、帰国用航空費として数カ月ただ働きしたり、あるいはあっ旋料を給与から差し引くことを強制したと証言する。
オマーンでは、時として警察と人材省の職員が、雇用主の虐待を逃れた労働者から費用を回収するのを手伝っていた。
UAEの新法は、あっ旋業者が料金を徴収したり、あっ旋費用の払い戻しを要求したりすることを禁じているが、雇用主がそうすることを禁じるものではない。
むしろ契約終了前の離職を家事労働者が望む場合は、雇用主が契約違反をしたのではない限り、1カ月分の給与を雇用主に支払うと定めている。
2011年以降、タンザニアは海外移住労働者の保護を一部拡大してきたが、あっ旋と移住に関する政策は不十分で、当初から労働者のリスクを高めている状態だ。救済措置もほとんどとられていない。
タンザニアでは、海外に移住するための手続きを労働省が担当しているが、多くの労働者がこのチャネルを介さずに移住している。
当局は女性に対しあっ旋機関を通じて移住するよう義務づけているが、人権侵害などの事案でどのようにあっ旋業者が対応すべきか、最低限の基準を設けておらず、違反行為があった場合の立ち入り検査や罰則もない。
タンザニア本土およびザンジバル島の規制により、あっ旋業者が労働者に手数料や諸費用を請求することは禁じられているものの、多くの女性があっ旋業者はいずれにせよ代金を請求していたと証言する。
オマーンおよびUAEにおける家事労働者をめぐるタンザニアの標準契約は、労働者のために最低限の雇用条件を設定している。
しかしながら、ほとんどの家事労働者は、雇用主がこうした契約を遵守していないと語った。オマーンおよびUAEにおいて、タンザニアの契約が法的拘束力を持たないことも、原因の一部だ。
タンザニア大使館は適切な保護制度の欠如から、自国労働者のために、未払いの給与返還や補償の提供、帰国費用の負担を雇用主に対して強制する力を持たない。
タンザニアには、海外で人権侵害や搾取に直面した労働者に、医療支援を提供する苦情申立てのメカニズムやチャネルがない。
経済的再統合政策の欠如から、人権侵害に直面したとしてもなお、再び移住を模索する女性が後を絶たない。
タンザニアは人権侵害を予防し、かつ対応するための戦略を立案すべきだ。具体的には、あっ旋をめぐる厳格な規制・監督、人権に基づくトレーニング・プログラム、帰国用航空費の肩代わりを含む大使館の支援などがある。
ベグム調査員は、「タンザニアは、女性が家事労働のため安全に海外へ移住できることを保障しなければならない」と指摘する。「タンザニア、オマーン、UAEはともに協力して家事労働者の搾取を阻止し、人権侵害を捜査した上で、加害者を訴追すべきだ。」
(2017年11月14日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)