僕は会社が好きだった。
毎日決まった時間に起きて、満員電車に揺られ、帰りには吹きすさぶバス停でバスを待つ必要があったとしても。
毎日のほとんどの時間が、意味があるとは思えない会議で費やされるとしても。
多くの仕事はお客様に向いた営業そのものではなく、管理や内部への説明やお偉いさんに向けての仕事だったにしても。
精魂を込めてやった仕事、最高の出来と思える仕事を、タイムリミットギリギリで上司に突き返されたとしても。
苦手な仕事を、無理に任されることがあったとしても。
ときには残業の連続で、へとへとになりながらただ働きをしなくてはならなかったにしても。
娘の小学校の運動会の日に、どうしても出勤しなくてはならなかったとしても。
安酒場で、上司の自慢話にまるまる1時間付き合わなければならなかったとしても。
部下のちょんぼで、菓子折りをさげてお客様にお詫びに行き、お前じゃ話にならん、上司を出せと言われたとしても。
ボーナスの額が、同期の誰かより、微妙に少ないらしくても。
それでも会社が好きだった。
僕の本を読んでくださった、僕のことをよく知るある元上司がおっしゃった。
書いてあることはわかるけど・・・ひとつだけはっきりしていることは、あのまま会社にいたら、君なら役員になれたってことだ。
今さらお世辞を言っても意味がない、はずである。
僕はその方のその言葉にびっくりした。
その人は、僕にも、そんな可能性をほんとうに見ていてくれたのだろうか。
実は、現在、その人はとても偉くなっており、人事権に大きな影響力をもっておられるのである。
ただし、そうおっしゃってくださったのは、その人ひとりだ。
たぶん、ほかの多くの人は、僕が会社でダメだった理由を、本のなかに頷きながら読んでくださったのだと思う。
僕は今自分が歩いている道を気に入っている。
だから、やっぱり会社を辞めないほうが良かったのかも、と言いたいわけではない。
僕は会社員時代、たくさんの失敗をしたし、100%有能というわけでもなく、多くの間違った考えに固執し、見栄やつまらないプライドにとらわれていた。
その人はすでに辞めてしまった僕に、どんな手形を切っても大丈夫とばかりに、そうおっしゃってくださったに違いないのだが、もし、その時、本当ですかとしつこく食い下がっていたら、きっと、その人は「変わることができたなら」ということを条件につけくわえられたはずだ。
もし、その人がおっしゃるように、会社員としての道が開けるとしたら、僕は大きく「変わる」必要があった。
いま、その人の言葉をもって振り返ってみると、僕にはできないことがたくさんあり、またたくさんの考え違いをしてきたのだが、最大の「壁」は、じつは、「自分で高くした壁」ではないかとも思うのだ。
「僕にはできない」「僕には会社に大きく貢献できることはない」「僕よりうまくやれるヤツがたくさんいる」「僕には向いていない」etc。
もちろん、たくさんの人にNO!と、お前には無理!と言われてきたが、その「壁」をほんとうに超えられないほど高くしたのは、誰あろう、僕自身ではなかったか。
そして、僕はほんとうに変わることができなかったのだろうか。
本にいただいたコメントに胸を突かれるものがある。
たとえば、Amazonでいただいたコメント。
自分がいま、置かれてる状況のようでとても参考になった。
会社に入って、お客様の要望に応えるために頑張り、それが会社の評価につながり、結果会社に貢献できるとおもって一心不乱、がむしゃらに働きまくったが会社はそんな人間なんて必要としていなかった。
お客様の要望に応えるために残業時間も年間1000時間超え、お客様のためと思い独断で仕事を推し進めてきた結果、とても扱いずらいつまはじき者になっていたことにこの本を読むまで気がつかなかった。
会社は評価してくれていると思っていたが、本に書いてある著者と同じような状況になっていたことに今更ながら気付かされ今後の人生についてかんがえさせる一冊でした。
とても為になると思います。
もっと早くこの本に出会っていたら僕の人生も変わっていたかもしれない...と思いました。
もしこれを書いてくださった方が、かつての僕と同じような状況にあるとしたら、伝えたいことはたったひとつ。
どこかに、あなたの可能性をみてくれている人がいる。
そして、その人は、あなたが「変わる」ことができたら、もっと大きな舞台でやって欲しいことがあるのにと思っているはずである。
人生でほかになにかやり残したと思えることがあるなら、僕のようにほかのことに挑戦してみてもよいと思う。
だけど、会社が好きでなにが悪いんだろうか。
会社が好きだ、でも、会社で壁にぶちあたっていると思うなら、その壁は自分がつくったものではないのか、ほんとうに自分を変えてみるということができないのか、もう一度考えてみるべきだ。
やっぱり、会社が好きなら、もっと会社と仲間と社会に貢献したいなら、今からでも遅くはない。
あなた自身の考え方を変えることができたら、きっと、あなたの会社人生も変わる。
photo from National Library of Ireland on The Commons
(2015年5月23日「ICHIROYAのブログ」より転載)