秘密保護法案の衆院通過をどう理解すべきか?

特定秘密保護法案が衆議院本会議を自民・公明両党とみんなの党などの賛成多数で可決した。テレビで夜のニュースを観て感じたのは野党に迫力が感じられない事である。

特定秘密保護法案が衆議院本会議を自民・公明両党とみんなの党などの賛成多数で可決した。テレビで夜のニュースを観て感じたのは野党に迫力が感じられない事である。みんなの党はさっさと賛成に回っている。採決に際し修正に加わった日本維新の会議員は退席しており、秘密保護法案には賛成だが手続きは気に食わないという事の様である。一方、破綻した安愚楽牧場の広告塔を務めていた民主党の海江田万里代表がいちゃもんを付けたところで国民の共鳴を得る事は難しい。図らずも参議院選挙直後に発表した、野党消滅の背景とは?で予言した内容が的中したという事であろう。

一方、マスコミは勿論秘密保護法案で大騒ぎを演じている。しかしながら、私の見るところでは「笛吹けど踊らず」状態で、国民はマスコミの馬鹿騒ぎを冷ややかに傍観しているとしか思えない。マスコミが「国民の知る権利が危ない」と国民の不安を煽りたてても、「危ないのはマスコミの既得権益だろう」くらいの意識ではないのか?「これでは真実に辿り着けない」と訴えても、「記者クラブで涎垂らして昼寝していてはダメに決まっている。突撃取材を真面目にやれ!」といった国民の受け止め方ではないのか? ハフポストも含め、ネットメディアの台頭により国民のマスコミへの信頼感は確実に凋落している。

■ NSC活動の開始とコインの裏表の関係にある秘密保護法案の成立

安倍政権が何故秘密保護法案の可決・成立を急ぐのか? この肝心の点をマスコミはきちんと国民に伝えていない様に思う。従って、野党が「いろいろ問題がありそうだ」とか「もっと慎重に議論すべきである」といった昭和政治の残渣が漂う無意味ないちゃもんに終始する訳である。先ず理解すべきは「NSC活動の開始とコインの裏表の関係にある秘密保護法案の成立」という前提条件ではないのか?

日本版NSCが間もなく誕生し、来年4月から活動を開始する。しかしながら「日米のインテリジェンス協力」が機能不全では仏作って魂入れず状態に陥ってしまう。安倍政権としては当然何としてもこの事態は回避したいはずである。従って、国内で拙速の誹りを受けようとも、情報管理に万全を尽くしているところをアメリカ政府にアピールしなければならない。具体的には今回の秘密保護法案の成立という事になる。

■ 次に来るのは集団的自衛権行使認可

秘密保護法案の立法化がなされれば「日米のインテリジェンス協力体制」が一旦確立し、NSCが正式に活動を開始する事になる。この段階となれば次に来るのは集団的自衛権行使認可への展開である事は明らかであろう。

会議には日本から岸田外務大臣と小野寺防衛大臣、アメリカからケリー国務長官とヘーゲル国防長官が出席した。会議後に公開された共同発表では、日米安保の取り組みの強化という大前提を再度確認した上で、


  • 国家安全保障会議(NSC)設置及び国家安全保障戦略(NSS)策定の準備
  • 集団的自衛権の行使に関する事項を含む安全保障の法的基盤の再検討
  • 防衛予算の増額
  • 防衛大綱の見直し
  • 防衛力の強化

といった、安倍政権が目指す防衛政策を明記。これに、アメリカが「お墨付き」を与え歓迎する形となった。これまでのガイドラインにおける日本の役割は「後方支援」だったが、高まる中国の圧力を背景に、日本も「前線」で貢献することをアメリカから求められている。

NSC活動の開始、それを可能とする秘密保護法案の成立、その後に来る集団的自衛権行使認可を一括りで理解する必要がある。これにより、先ず日本が国防を固める。次いで、今世紀成長が期待できる唯一の市場であるアジア・太平洋地域を日米で協力し「平和と繁栄の海」にする展開となる。NSC活動の開始、それを可能とする秘密保護法案の成立、その後に来る集団的自衛権行使認可は域内の「交易」と「投資」の標準化を意図するTPPとはコインの裏表の関係にあり、日本の成長戦略の要と理解すべきであろう。

■ 北朝鮮というリスク

話を一旦秘密保護法案の成立に戻そう。何故今こういう事をせねばならないかといえば、日本が近隣国のリスクに晒されているからに他ならない。北朝鮮はいうまでもなく無垢な日本国民を拉致した「ならず者国家」である。更には多くのテロを引き起こした「テロ国家」でもある。リビアのカダフィ大佐が殺害され、核協議が合意に達し国際社会にイランが復帰する事が確実な現在、世界に残された唯一の「ならず者国家」なのかも知れない。

この危険な北朝鮮は「ミサイル」と「核」の開発を決して止めようとはしない。目的ははっきりしている。核弾頭を搭載したミサイルを東京に向け、日本から金を脅し取るためである。北朝鮮の産業政策は悉く失敗しており、その結果国家経済は破綻してしまっている。従って、「ミサイル」と「核」の開発は金王朝を維持するための唯一の方法と確信しているに違いない。北朝鮮というリスクに対し、本来であれば日米韓が連携し最適の対応をすべきなのである。しかしながら、私が見るところ、韓国の朴大統領は自国の防衛はアメリカ軍に丸投げし、日本に対しては誹謗中傷に終始している。歴史の解釈についても一方的な思い込みと捏造の度が過ぎている。本来は北朝鮮というリスクであったものが朝鮮半島全体のリスクになってしまっている。ここに日本が秘密保護法案の成立を急ぎ、「日米のインテリジェンス協力体制」確立を急がねばならない理由が存在する。

■ 中国というリスク

中国のリスクについては詳しい説明は不要であろう。最近も尖閣諸島上空を防空識別圏に設定するなど日本への軍事的挑発を止めようとはしない。中国の軍事的脅威に対抗するためには自衛隊の増強による防衛力の強化が必要である事はいうまでもない。一方、自衛隊の運用を効率的に行うためには集団的自衛権行使認可が必要となる。更には、その前提としての秘密保護法案の成立やNSC活動の開始が可及的速やかに達成されねばならない事となる。

そして、忘れてならないのは中国のリスクが日本への軍事的挑発に限らないという事実である。中国政府は多くの深刻な課題に直面している

■中国政府が直面する前門の虎、後門の狼

中国は「中国四千年の歴史」といわれる様に長い歴史を有する国である。そして、中身はといえば(1)統一王朝の誕生。(2)官僚腐敗の蔓延。(3)民衆の蜂起と地方の反乱。(4)分裂。の繰り返しである。現在は「(2)官僚腐敗の蔓延が最終段階にさしかかり、(3)民衆の蜂起と地方の反乱が始まろうとしている段階」というのが私の見立てである。従って、中国政府が直面する前門の虎とは官僚腐敗の蔓延に起因する民衆の蜂起と地方の反乱と考えても良いのではないだろうか?

一方、後門の狼は正に破裂寸前のバブルとバブルの破裂によって生じる不良債権という事になる。バブルは瞬間的には巨万の富を創出する。中国では共産党幹部や彼らに連なる既得権益者がこの恩恵に浴しており、彼らの不正蓄財の温床になっている。こう考えてみると、虎も狼も実態は中国共産党そのものという皮肉な結果になる。従って、問題の抜本解決は「政治を民主化した上での市場経済への移行」という結論になるはずである。こういう理論武装をした上で今月9日より北京で始まる「第18期3中全会」の推移を注視してはどうだろうか?

第18期3中全会の結果を見守ったが、結局のところ対処療法以外何もなかった。共産党王朝延命のための延命治療のみでは何れ死が訪れるのではないのか? 上記に加え、最近、「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織が「ジハード」宣言を行った。新疆ウイグル地区の問題が中国政府の説明する「国内問題」、「地域問題」ではなく、中国政府とイスラム過激派の戦いという新たなステージに移行したと受け止めるべきであろう。新疆ウイグル地区は西アフリカサヘル地区から延々東に延びるイスラム東西回廊の東の端に位置する。

一方、イスラム人口比率を示す地図が極めて興味深い事実を示唆している。イスラム教徒の目でこの地図を眺めれば、イスラム国家は西アフリカ、サヘル地域から始まり、北アフリカ、中東、ペルシャ(イラン、アフガニスタン、パキスタンを経由して中央アジア、新疆ウイグル自治区まで続く東西大回廊を形成しているという事になる。新疆ウイグル自治区はパキスタン、アフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンと国境を接するが何れもイスラム国家である。仮に、今回の自爆テロを切掛けに中国政府がウイグル系中国人の弾圧を強化すれば、世界に点在する16億人のイスラム教徒は同胞の苦難に同情するだろうし、隣国のイスラム国家は難民の受け入れは当然として、それ以上の支援にも乗り出す事になるはずである。

今後、中国がイスラム過激派との終わりのない戦いに巻き込まれれば間違いなく消耗し疲弊して行く事となる。これに、共産党幹部や国営企業幹部の腐敗、不良債権に起因する金融問題、経済の低成長とこれによる失業問題などが重篤化する事は間違いなく、中国の将来がどうなるのか全く読めない。JETROの資料によれば、現在中国には約2.3万社の日系企業が進出し、約14万人の邦人が現地に滞在している。一方、財務省の10月貿易統計によれば対中輸出額は1兆1,479億円。輸入は1兆6,543億円と巨額である。

この数字を見れば、中国に動乱があった場合東シナ海の向こう側の火事と眺めるのではなく、我が事として日本が取り組まねばならない事は一目瞭然であろう。そのためには、「日米のインテリジェンス協力体制」が齎す事になる刻々と移り変わる中国の状況を把握した上で、最適の対応策を構築し、速やかに実行する事が最善の対応となる。そして、今回の秘密保護法案衆院通過はその一丁目一番地という位置付けになるのである。

注目記事