昨日ハフィントンポスト経由、国民の思考停止が原発停止を許容し、そして日本は死ぬを公開した。読者の反応はコメント欄にあるので、これを参照願いたい。一部の例外を除き相変わらず原発再稼働には反対というものである。原発問題は「感情」から「科学」への移行期といっても、未だ「感情」のところで無意味に足踏みをしているのかも知れない。それでは、こういう状況を安倍政権が指を咥え傍観していたら現役世代は一体どうなるのだろうか?野垂れ死にが嫌なら国民はどうすべきなのか?今回はそこにポイントを絞り論考を試みたい。
■ 35才Aさんの場合
「Aさんは35才で夫婦と子供二人の4人家族で生活している。生まれ故郷から近い地方県庁所在地にある国立大学工学部を卒業後、地元に主力工場がある電炉メーカーに就職し、以来一貫して生産管理畑を歩んでいる。二人の子供を伸び伸びと育てたいと思い、貯蓄した5百万円に長期固定金利型の住宅ローン「フラット35」で残りの3千5百万円を調達し、4千万で庭付きでゆったり広めの戸建て住宅を購入した。
■ Aさんに取っての不幸
職場の上司である、工場長、生産管理部長は同じ大学、しかも同じ工学部の先輩である。従って、入社以来何かと目をかけて貰っている。Aさんの学歴で日本を代表する様な名門製造業に就職していたら肩身が狭かったかも知れない。しかしながら、この企業に就職しこれまでは幸いにして人間関係にも恵まれたエリートコースを歩む事が出来た。
Aさんの運命暗転の切っ掛けは3.11であった。日本国中の原発が稼働停止となり、その結果、産業界は電力不足を懸念すると共に、電力料金上昇圧力に晒された。電力を大量に使用する電炉メーカーに取っては致命的である。電気料金値上げは電炉業に対する『廃業勧告』に等しいというのは何も誇張ではない。Aさんの勤め先もAさんが入社以来勤務する主力工場を閉鎖し、別の県にある新鋭工場に集約する事を決定した。
■ Aさんに残された選択肢
Aさんに残された選択肢は二つしかない。第一は金銭解雇に応じ、割増退職金を受け取った上で転職先を探す事である。とはいえ、Aさんの職務履歴は電炉メーカーでの生産管理に限定されており、業界自体が電力料金値上げに起因する土砂降り状態とあってはキャリアを生かしての転職は先ず不可能だ。所有する自宅もまたAさんに取って足枷となっている。自宅からの通勤圏内での職探しは先ず不可能で、自宅を処分する必要があるが4千万で購入した自宅はいざ売却するとなると2千万の値段しかつかない。未だ、3千万の借入金が残っており、これでは売りたくても売れない。
残りの選択肢は、現地で工場長に栄転する事が決まっている上司の生産管理部長に付いて東南アジアの合弁企業に副工場長として赴任する事である。努力家のAさんは入社以来何時かこういう日が来るかと思い、こつこつ英語の勉強を行い、毎年TOEFLにも挑戦し、その結果を人事部に報告する事を怠らなかった。生産管理部長の推薦のみならず、合弁工場操業の中核となる生産管理に精通している事、及び英語が堪能で現地幹部社員とコミュニケーションが取れる能力が経営幹部に強くアピールした訳である。
■ 結局海外赴任を決断したAさん
上記経緯からAさんは結局海外赴任を決断した。現地の住居は社宅として勤め先が手配してくれる。一方、自宅は家賃@10万円で賃貸に回せる予定である。年俸は基本据え置きだが別途海外赴任手当200万円が支給されるので、家賃収入と併せ年間300万円強の収入増となる。現地の物価は日本に比べ遥かに安いのでかなりリッチな生活を楽しめるはずである。
仮にAさんが国内に留まったら、一体どういう展開となったであろうか?転職が巧く行かねば当然失業者になってしまう。失業が嫌なら年俸が半分でも三分の一でも転職せねばならない。初めての仕事でざぞ気苦労も多いだろう。更には、その年俸で新たに借りた賃貸住宅の家賃を払い、二人の子供を育て、所有する自宅のローンを支払うのは不可能であろう。結果、お決まりの金融機関による所有する自宅の競売になる。それでも住宅ローンの完済は無理で、自宅を失った上に、多額の借金を背負う事になる。悲惨の一言である。
■ 天国か?地獄か?を決めるのは「あなたは世界で戦えますか?」
結局のところ、Aさんが海外赴任という天国行の切符を手に入れる事が出来たのは、Aさんの事を勤め先の経営陣が海外で「即戦力」と認めてくれたからである。Aさんの体験したピンチ、Aさんのピンチに際しての決断は、今後多くの現役世代が同様体験する事になる。野垂れ死にが嫌なら生き残るために努力する必要がある、そしてその努力の結果とは「あなたは世界で戦えますか?」と問われ、「Yes」と答える事を可能とする、本人が努力し身に着けた能力なのである。