靖国参拝断念を高村正彦副総裁経由中国に伝えた安倍首相の深慮遠謀

産経新聞の伝えるところでは、 「安倍首相はもう靖国に行かない」 高村氏「日中関係が進展すれば」中国要人に伝達との話である。安倍首相の靖国参拝断念を前提に、中国側に11月に北京で開催予定のAPEC首脳会議での首脳会談を提案したと理解して良いだろう。昨年末の安倍首相の靖国参拝は、アメリカ国務省が「失望」したと同盟国に対しては異例の声明を出すなどリスクの高い物であった。

産経新聞の伝えるところでは、 「安倍首相はもう靖国に行かない」 高村氏「日中関係が進展すれば」中国要人に伝達との話である。安倍首相の靖国参拝断念を前提に、中国側に11月に北京で開催予定のAPEC首脳会議での首脳会談を提案したと理解して良いだろう。昨年末の安倍首相の靖国参拝は、アメリカ国務省が「失望」したと同盟国に対しては異例の声明を出すなどリスクの高い物であった。

しかしながら、今となってみれば、靖国参拝断念が中韓に対する立派な外交カードになっている。今回、この事実を日本政府が公表した事により中国、韓国両政府は難しい対応を迫られる事になるのでは?と推測する。少し前に公表した、激変する北東アジア情勢の続編として、一か月後の終戦記念日を念頭に今回の件を論考する事にした次第である。

どの要人に対してかは明らかにしていないが、高村氏は会談で「首脳会談が実現し、日中関係が進展すれば首相が靖国神社に行くことはないと思う。安倍首相が約束することではないが、私はそう思う」と指摘した。相手側は聞き置いたとの反応だったという。高村氏は張氏との会談では首相の靖国参拝に理解を求めた上で、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際の首脳会談を提案した。

内政干渉に等しい8月15日の靖国参拝批判

早いもので、今年も後一か月で8月15日の終戦記念日がやって来る。最早夏の風物詩といっても良いだろう。盆が近づき、多くの日本人が先祖のお墓のある田舎に帰省するこの時期になると「靖国」関連で中韓両政府が日本政府に対し内政干渉を繰り返す。そして、情けない事に日本のマスコミもこれに同調する。NHKの如き公共放送ですら、キャスターが「主要閣僚が、8月15日に靖国神社に参拝すれば、中国、韓国両政府の強い反発は必至で、両国との関係の正常化はさらに遠のく」などと、平然と世論誘導を行う。

私が問題視しているのは、日本のマスコミの論調は余りに表層的であり、中国、韓国両政府が日本叩きを止めようとしない背景、真相を日本国民に説明しない点である。露骨にいってしまえば、中国・韓国ともに重篤な国内問題を抱えており、国民の不満や怒りの矛先を無理やりにでも日本に向けない事には政権運営が困難になってしまうという事である。更に、中国に関しては詳細は後述するが、国際社会からの孤立という問題もあり、中国社会にはそれなりに閉塞感が漂っていると推測する。

中国政府の直面する困難な状況

勿論、根本的には「権力は銃口から生まれる」という中国共産党の党是に起因する事は明らかである。しかしながら、直接的には「天安門事件」が中国近代史のターニングポイントであろう。「天安門事件」の何たるかについては流石に改めての詳細な解説は必要ないと思う。政治の民主化を要求して天安門に集結した丸腰の学生達に向かい、軍が銃口を向けるだけではなく実際に発砲し、軍による大量虐殺が行われたという事件である。当時の中国最高権力者は鄧小平であり、政治の民主化は先送りした上で中国国民が豊かになる事を優先した。

「先に豊かになれる者から豊かになれ」という先富論は日本でも有名である。私は1990年から1995年までの5年間中国市場を担当したが、海に近い沿海部の発展は目覚ましかった。しかしながら、今となっては中国沿海部の発展は著しいものの、内陸部は貧困のままに放置され、貧富の格差が放置出来ないレベルにまで達している。

「天安門事件」によって封印された、中国共産党の解体に繋がる「政治の民主化」と「天安門事件」以降加速された「改革開放」による「格差拡大」が今の中国の政治・社会を大きく揺さぶっているのである。更には、抑圧されたウイグル族によりテロが繰り返され、それが一段と過酷なウイグル族に対する抑圧となりウイグル族の憎しみと怒りを拡大している。これもまた中国国内の特徴的な負(憎しみ)の連鎖である。

孤立を深める中国

中国の武力を背景とした東シナ海、南シナ海での傍若無人振りは目に余るものがある。その結果、中国の国益に決して資する事がないばかりか、国際社会で中国を孤立化さす事になる。中国政府は何故こんな単純な事に気が付かないのであろうか?習近平総書記は中国共産党保守派、人民解放軍を制御出来ていないという話を最近良く耳にする様になった。

中国の余りに自己中心的な対外姿勢の結果、フィリピンの基地にアメリカ軍が再び駐留する事が決定した。更には、マレーシア、インドネシア、シンガポールなども米国海軍との関係強化に傾斜している。日米同盟は既に強固であり、これらの国々と日本が準同盟を締結する日も近いだろう。一方、ベトナムはフィリピンに続き国際司法裁判所に提訴する予定と聞いている。そうなれば、中国の軍事力を背景とする誠に以て自己中心的な領有権主張が更に白日の下に晒される展開となる。

習近平総書記の対外姿勢はCICAでの「アジア安保構想」に如実に表れている。CICA概要については、遅れて来た大国中国は一体何処に向かうのか?で説明しているので、これを参照願いたい。ポイントは下記となる。

南シナ海で中国はフィリッピンに漁船を拿捕され、一方、ベトナムとは小競り合いが続いている。中国としては力(軍事力)により現状打破を図りたいのは山々であろうが、しっぺ返し、副作用が怖いのも事実。一方、この状態に指を咥え座視している様では国民から手緩いとの批判を浴び、政権の維持が難しくなってしまう。進も地獄、退くも地獄の状況に陥った中国がロシアとの軍事同盟を誇示する事で状況の打開を図るというのはあり得るシナリオだ。しかしながら、西側諸国がこれに反発するのは当然で、結果、中国の孤立が更に進む事になる。

「アジア安保構想」とは、「アジアの問題はアジア人によって解決されねばならない」との表現だが、畢竟、アジア太平洋地域におけるアメリカの役割と影響を排除し、中国がアメリカに取って代るという決意夷表明そのものである。当然の話としてアメリカとしてはこれを容認出来ない。アメリカのみならず、CICAに出席しなかった日本を筆頭に、同様不参加であったフィリピン、インドネシア、シンガポールが反対するのは当然である。

一方、CICA開催時には揚子江河口で中ロ合同軍事演習を行い蜜月ぶりをアピールした中国とロシアであるが、偶々この時期便宜上共通の利益を見出したに過ぎない。ロシアが人口で大きく劣る中国の風下に立つ事を望む事はない。日本にもガスを売却したいし、領土問題はあるが日本との間に平和条約を締結し、日本から資金と技術を導入してシベリア開発を加速させたいはずである。そもそも、中国とロシアの間に信頼関係はなく、両国の関係は、互いに相手側を長期的には猜疑心とともに見ているという状況が継続するに過ぎない。

経済、政治ともに視界不良な韓国

上述した中国以上に韓国の現状は遥かに厳しい。先ず経済から始めよう。朝鮮日報の韓国経済が失速した理由が、韓国が陥ってしまった現状を赤裸々に描写している。

「飛んでいた飛行機のエンジンを止め、滑降飛行しているようだ。乗客はエンジンが止まったことも知らずに―」

ある財界関係者は現場で感じる体感景気をそう形容した。急速に成長してきた韓国経済が勢いを失い徐々に低迷しつつあるにもかかわらず、韓国の政府や国民が危機感を感じられずにいることへの懸念だ。

私は以前から韓国経済が取敢えずの見てくれは良いが、実態はハリウッドの映画撮影に使用する「張りぼて」状態である事を指摘して来た。

つまりはこういう事である。過度な輸出依存。過度な財閥依存。過度なSamusung依存。過度なスマホ依存である。成程、スマホの輸出がずっと好調なら問題はない。しかしながら、日本から主要部品と高度材料の殆どを輸入し、更には日本から輸入した生産設備で組み立てているのが実情である。これでは、直ぐに人件費の遥かに安い中国に真似されてしまう。

製品価格は下落を続け、優良ビジネスは薄利ビジネスに、そしてあっというまに赤字ビジネスに転落してしまう。これが、最早理屈ではなく現実に起こっているという事である。韓国経済に取って地獄の蓋が開いてしまった以上、何処まで落ちて行くのか想像すら出来ない。

韓国の政治も経済同様視界不良である。根本的な捻れの部分は、激変する北東アジア情勢で説明しているので、こちらを参照願いたい。ポイントは下記である。

韓国に取って「中韓同盟」は地獄へと続く一本道

「中韓同盟」といったところで、実質は韓国が日本の敗戦のよって棚牡丹的に手に入れた「自由」と「民主主義」の価値を放棄し、昔ながらの「華夷秩序」、「冊封」の時代に回帰する事、もっと露骨にいってしまえば中国の属国になる事に他ならない。これこそが、朴槿恵大統領の父親朴正煕元大統領が最も忌避した朝鮮半島に脈々と伝承される「事大主義=長い物には巻かれろ」に他ならない。上述の通り、この方向に舵を切れば間違いなく対米、対日関係を毀損し、更には中国との間の領土問題に苦しむ東南アジア諸国との関係も悪化し、アジアで孤立する展開となる。

朴政権に対する支持率の低下と不支持率の上昇は政権の液状化を我々に強く印象付けた。更に、追い打ちをかける様に韓国与党代表選、非朴槿恵派が圧勝 大統領に痛手との事である。朴大統領に取って「泣きっ面に蜂」といったところであろう。与党セヌリ党は朴政権が既に「泥船」であると認識し、まるで沈む船から鼠が逃げ出す様に朴大統領を見限ってしまった。

中國、習近平総書記、韓国、朴大統領ともに8月15日も迫っており、ここは日本を何時もの様に悪者に仕立てあげ、日本を叩く事で国民の不満や怒りを逸らせたいところであろう。しかしながら、安倍首相は早々に靖国参拝断念を高村正彦副総裁経由中国に伝え、その事を今回メディアに公表してしまった。それでも中韓両政府は例年の様に日本叩きを始めるのだろうか?国際社会で両国が孤立を深めるだけと思うが。靖国参拝断念が有効な外交カードになったのではないのか?実に興味深い。

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