2014年オールスターゲームが終了した。試合は見所満載もファン投票の減少には歯止めがかからずテレビ放送も途中で打ち切られるなど、ビジネス面では苦境にあるようだ。そんな閉塞状態を打開するには一層ゲームの質を高めることが必要だろう。
第1戦では、赤ヘル初優勝の1975年の球宴を彷彿とさせる広島勢の活躍に、圧巻の3連続奪三振が印象的だった岸孝之(西武)。第2戦も大谷翔平(日本ハム)と藤浪晋太郎(阪神)の剛速球を攻略した鳥谷敬(阪神)やソフトバンクのウィリー・モー・ペーニャの打棒、MVPに輝いた柳田悠岐(ソフトバンク)の好守にわたる活躍など見応えが満載だった。
また、昨季大いに気になった西岡剛(阪神)、藤浪、中田翔(日本ハム)の大阪桐蔭トリオによるコントまがいのエセ乱闘や、牧田和久(西武)の公式戦ではあり得ないサイドスローなどの茶番が少なかったことも評価できる。
こう書くといつも議論になるのが、「球宴に求められる本気度」だ。多少のスタンドプレーは「ファンサービスのうち」だし、そもそも「球宴は勝利をトコトン追求するべきものではない」という考えもある。確かにそうだ。勝利が最も大事なら、球宴の監督はベストの先発投手に規定一杯の3回を投げさせるだろう。求められる本気度に関しての判断基準は十人十色だろうが、私はこう解釈している。「野球という競技に対するリスペクトに欠けていないかどうか」だ。
その点では、ファンの注目を惹き付けた大谷と藤浪の投げ合いも全面的には支持できない。剛速球は野球の醍醐味のひとつだが、投球は球速を競い合うものではないからだ。彼らが本来の投球を披露し、その結果として日本最速タイの162キロを記録するなり、150キロ台を連発したのならともかく、「速い球を投げること」自体が目的になっていたからだ。その結果両投手とも失点し、結果自体は褒められたものではなかった。この試合の放映権を持つテレビ局やスポンサーからの要請があったのかもしれない。速球のみを続けるあまり投球が単調になり打たれているのに、それを矯正する意思が感じられなかった。営業主導の投球だったとも言える。その意味ではこの投げ合いは全力勝負ではあったが、野球へのリスペクトには欠けていた。
メジャーでもこの点は議論になる。今年の球宴では今季限りの引退を表明しているヤンキースのデレック・ジーターに対し、カージナルスのアダム・ウェインライトが「花を持たせるために意図的に打ちやすい球を投げた」と発言し物議を醸した。また、2012年には剛速球王のジャスティン・バーランダー(タイガース)が「ファンのために」とプレーボールから速球のみを連発し、結果的に激しく打ちこまれ逆にファンから叩かれた。01年には最後の球宴となったカル・リプケン・ジュニアを讃えるためのセレモニーが試合を中断し行われ、「演出過剰」とメディアはMLBを批判したものだ。
話は変わるが、現在の球宴は必ずしもファンの支持を得ているとは言い難い。試合途中で中継を打ち切るという「昭和チック」な放送形態を採ったテレビ局には抗議が集中したらしいが、逆に言えばそこまでするほどビジネス的に魅力があるコンテンツではないということだ。また、広島の選手が7人もファン投票で選出されたことに関しては「カープ女子の力恐るべし」と肯定的に報道するメディアが多かったが、これもファン投票総数の深刻な減少(12年に18年ぶりに200万票を割り、13年は約180万で今年は約160万だった)が背後にあってのことだろう。
球宴人気を回復するために必要なことは数多くあるが、まずはプレーの質を高めることだ。それには勝敗に拘らずとも、野球へのリスペクトに欠ける行為は排除しなければならないというのが私の考えだ。予告本塁打まがいのポーズや腕立て伏せなどのパフォーマンスはオフのファン感謝デーでやれば良い。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke'm Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com
(2014年7月22日「野球好きコラム」より転載)