現地6月24日の2014年ブラジルワールドカップのコロンビア戦(クイアバ)で、圧倒的な実力差を見せつけられた日本。ハメス・ロドリゲス(レアル・マドリード)を筆頭に、同国の優秀な若手の台頭には度肝を抜かれた。そのコロンビアはベスト8で開催国・ブラジルに敗れたが、優勝できる底力があったことは多くの関係者が認めている。
世界の注目を浴びるコロンビアのU-19代表チームが、8月14~17日に静岡県で開催されたSBSカップに参加した。14日は藤枝でU-19日本代表と対戦し、FWダリオ・ロドリゲス(サンタフェ)の決勝弾で1-0で早速、勝利した。さらに15日は沼津に移動してU-19韓国代表と激突。地球の裏側からの長旅、連戦で立ち上がりは非常に重く、韓国に1点を奪われたが、前半途中から徐々に本来のボールポゼッションと高い身体能力をベースとした彼らのスタイルを前面に押し出せるようになり、前半のうちに注目FWフアン・オテーロ(フォルタレーサ)が同点弾をゲット。後半は完全に主導権を握って、ジャルラン・バレーラ(ジュニオール)が逆転に成功。アジアを代表する両国をアウェーの地で一蹴し、その潜在能力の高さを見せつけた。
「我々は日韓両国をリスペクトしているし、秩序ある素晴らしいチームだと思っている。実際、コロンビアは2013年U-20W杯(トルコ)の決勝トーナメント1回戦で韓国にPK負けし、上のステージに進めなかった。
ただ、アジアの選手はアタッキングゾーンで爆発的なプレーに欠けるところがある。コロンビアも数年前まではそういう傾向があったが、近年はよりオフェンシブかつ積極的なプレーができる選手が増えた。A代表にはファルカオ(モナコ)やグティエレス(リバープレート)、バッカ(セビージャ)、アドリアン・ラモス(ドルトムント)ら6~7人のFWの選択肢がある。ユース年代もサイドハーフを筆頭にいろんな可能性のある選手が出てきた。そうなったのは、クラブの取り組みと代表の活動をリンクできるようになったことが大きいと思う」と指揮を執るカルロス・レストレポ監督はコメントしていた。
今回のコロンビア代表もウディネーゼにいるサパタら欧州組3人と国内組2人の主力選手をこの日本遠征に招集できなかったという。しかしながら、南米予選など重要な場面では必ず選手を代表に呼び、クラブにとって大事な試合の場合はいったん代表に呼んだ選手をクラブに戻すなどの臨機応変な対応が取られているという。育成に関する両者の連携も密になった模様。そのあたりがハメス・ロドリゲスやファン・フェルナンド・キンテロ(ポルト)のようなタレントを生み出す前向きな要素になっているようだ。
「ハメスのような選手はなかなか出てこないが、我々育成年代のコーチは多くのハメスを育てようとしている。コロンビアはポゼッションサッカーを目指しているので、パス出し、パスを受ける、モビリティ(機動性)を上げる、という3つに重点に置いて指導している。やはり重要なのはトレーニングのメソッドだ。我々は練習でインテンシティ(回転数・強度)を追求するとともに、試合を読む力、個人とチームレベルでの戦術理解度を上げる努力をしている。全てのトレーニングで同じインテンシティを維持することが大切だ」とレストレポ監督は言う。日常からつねに実戦を意識させることが1つのポイントなのだろう。
日本選手がコロンビアほどゴール前での迫力や突破力を見せられないのは、もちろん生まれ持った身体能力による部分もあるだろうが、実戦を意識した練習が少なすぎるせいかもしれない。実際の試合で絶対に勝ちたいなら、ペナルティエリアの外でもスペースが空けば思い切ってシュートを打ち、それを決めていく力が求められるし、エリア内でバックパスをするような選択肢は取れないはず。けれども日本の選手はボール回しにはこだわっても、肝心なアタッキングゾーンで逃げの姿勢が目立つ。練習からアグレッシブに取り組まなければ、肝心な試合でそういうプレーは出るはずがない。そこは厳しく捉えていくべき点だろう。
「ブラジルでコロンビアに敗れた日本にとって重要なのは、ユース世代の育成だ思う。いかに日本の選手に合わせたトレーニングメソッドや戦術を見つけていくか。それを考えるべきだ」とレストレボ監督は貴重なアドバイスを寄せてくれた。
確かに、彼が言うように、ブラジル大会で敗れた日本は改めて育成から見直すべき時期に来ているのかもしれない。コロンビアのアタッカー陣のようにゴール前で怖さを発揮できる選手を増やしたいなら、ギリギリの局面での1対1の能力を高め、個人の力でフィニッシュまで持っていくプレーをもっと徹底させなければいけない。守備陣もより球際や寄せの厳しさにこだわり、FW陣に常日頃から凄まじい威圧感を与えることが肝要だ。こうした1つ1つの問題を改善していくことが、将来の強い日本につながる。ブラジルで惨敗をした今こそ、そういう議論をぜひとも高めてもらいたいものだ。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
(2014年8月18日「元川悦子コラム」より転載)