3連敗中のヤンキースが、現地3日のレイズ戦で9対3の勝利で地区首位を奪回。先発した田中将大が7回3失点で今季4勝目を挙げた。
これで2012年8月19日の敗戦を最後に、続く田中のシーズン連勝記録は「32」に。アメリカに渡ってからも続く無敗記録は、ついに現地報道でもしつこいほど繰り返されるようになった。
世界最高レベルを誇るメジャーリーグ。格上を自負することからも、他国との合算成績となる「日米通算~」の表記が使われることは稀だ。イチローの日米通算4000安打といった余程の数字でもない限り、大方は「日本は日本、米国は米国」とされるのが常だ。にもかかわらず、田中の活躍を報じる現地メディアには、今や日本時代からの不敗神話を紹介するフレーズが多く踊る。
ニューヨーク・タイムズ紙は、先発としては40登板の"負けていない"記録に加えて、昨季の日本シリーズの第6戦では惜敗があった、というプレーオフでの例外までを詳しく報じている。この他、全国紙のUSA Today、スポーツ専門サイトESPNでも、"日米通算"で負けていない事実をもれなく伝えている(参照:ニューヨーク・タイムズ紙電子版、USA Today紙電子版、ESPN電子版)。
前夜のヤンキース対レイズ戦は、延長14回5時間49分に及ぶ熱戦だった。総力戦で敗れたヤンキースはいうまでもなく、勝利したレイズもボストンでレッドソックスとダブルヘッダーを戦った翌日のまさかの消耗戦だった。その疲労もあってか、レイズのジョー・マドン監督は球審に苛立ちもあらわに大声で異議を唱える場面が目立った。
初回、先頭ベン・ゾブリストへの5球目だ。実況も「あれはボールだね」と認めるストライクゾーンを外れた球だった。マドン監督が大声で抗議するも判定は変わらず。その裏も、ストライク判定がおかしいとばかりにベンチから監督が叫ぶ。言い返す球審。5回に再び監督が口角沫を飛ばすと、球審は「NO MORE!(いい加減にしろ)」と最後通告とばかりに、監督を指差した。
盛り上がる球場。そしてヤンキース、ブライアン・マッキャンの打席でのことだった。空振りと思しきスウィングにファウルの判定を下した球審に、激昂した監督がベンチから飛び出し、両者が至近距離で口論を始めた。誰もがマドン監督の退場を予想したが...それは起きなかった。
疲労と苛立ちが隠せないマドン監督を受け入れるかのように、球審は厳しく諌めつつも、明らかに許容量を見せていた。また、激しい抗議もかなわずベンチに引き下がった直後、マドン監督は笑みをこぼしていた。何を話したかはわからない。だが試合は盛り上がり、どこか温かな印象が残った。
これらを始めとする際どい判定は、この日はすべて田中やヤンキースに味方した。初回は先頭打者フォアボールの難を逃れたし、7回はヤ軍ジャコビー・エルズバリーが間一髪で牽制アウトを逃れた。日本のファンはツイッター上で「ここにも神の子パワーが!」と、度重なるラッキーな判定に沸いた。
レイズファンにとっては、どれも激怒して不思議のない場面だが「#rays」のハッシュタグのツイートには「うーん、また酷いジャッジだ」「マドン、見逃したの?」「エルズベリーはラッキーだったね。まあ行こうじゃないか、レイズ!」と穏やかな批判がいくつか流れただけだった。
宿敵レッドソックス戦では、敵地フェンウェイパークで異例ともいえる拍手喝さいを受けた田中。負けない田中の力投は、味方を鼓舞するにとどまらず、どうも敵チームの批判を穏やかにしてしまうようだ。珍しくも「日米通算~」が躍るようになった現地報道に「神の子」のフレーズが使われる日が来るかもしれない...。
スポカルラボ
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(5月4日J SPORTS「MLBコラム」より転載)